第171話 今のうち
第171話 今のうち
マールゥはやかましいし、ソレイユと金銀は積もる話もあるだろうから詳しい話はまた明日。
「この変更だけ作ってる人に伝えておいて。あと水路の工事追加お願いします」
「水路ですか?」
「うん」
「鐘楼が起点になっているようですが……」
「そう、そこが高さあるし場所もまあまあ都合が良かった。とりあえずその通りにお願いします。水漏れしないように頼む。あ、これ配って」
アウロに菓子袋を託して本日は終了。
なんかすごく言いたいことがありそうだったけど、結局黙って了承してくれた。執事だったら絶対確認してくる気がするのだが、まだ聞き質してくるほど距離が近くないのだろう。今のうちに色々押し切ろう。
城の井戸は主塔の中にあることがほとんどで、ここも例に漏れず主塔の中にある。そこから頑張って水を汲んで、建物の高いところにある貯水槽に入れ、各所に流され使われる感じ。
井戸は利用するとして、水路を作れるような方法があるかイシュに相談したら水を呼び込む魔法陣があることを教えてくれた。図書館で調べて、鐘楼に設置予定。ただ、十分な量を汲みあげる陣を描くのはけっこうな重労働になりそうな気配。
城の従業員の他に、島に医者と薬屋も欲しい。パン屋も――ああ、水のあてがついたし水車作るか。そうすると場所は……。
森の家は小さな秘密基地、島のこれはなんか悪の結社の秘密基地みたいで楽しい。難攻不落目指そうかな?
ふんふんしながら桟橋に戻ると、見たことのある奥さんが爺さんと話している。どうやらキールに頼まれてソレイユの買い物に行くことになったが、舟が空いていなかったらしい。
帰りもこのパターンかと思いつつ、奥さんも乗せてナルアディードに戻る。もう今日は島に渡らないから帰りも使っていいと許可を出し、船屋で二人と別れる。
俺はご飯だ。ナルアディードは魚介が美味しい、良さげな店によって魚を注文。――なんか丸焦げの大きな魚が出てきた。
ちょっと引いていると、店員さんが笑いながらナイフで身を綺麗に割って中を見せてくれた。外側は焦げ焦げだけど、中はふっくら白い身が湯気を立てている。
「レモンを絞ってどうぞ。そろそろレモンの季節も終わりです」
「いただきます」
店員の言った通り、レモンをぎゅっと絞って一口。最初の見た目からは想像できないほど美味しい。味付けは塩だけなのかな?
塩味が魚のほんのりした甘さを引き立て、白身の魚のわりに多い脂をレモンがスッキリさせている。
ラビオリっぽいものも出てきたけど、魚の丸焼きが美味しくて味を覚えていない。覚えていないってことは多分普通の味だったのだろう。
上機嫌で大型の船が着く港に向かう。異国の精霊が船荷に紛れてついてきていないか探しに行く。色々行ってみたいけど、もらった地図にない場所にいきなり行くのはさすがに不安がある。人間からの収集はある程度したので今度は精霊からだ。
精霊を見ながら歩く。潮風の精霊は元気一杯なのだが、他の精霊はちょっと元気がないみたい? この辺は量産品の絨毯やら織物の倉庫か。精霊って同じ品物が並んでると萎えるのかな?
おっと、大事そうに運ばれる円筒形のものの周りを、精霊が興味津々みたいな感じで飛び回っている。
きっと精霊憑きの人が作った絨毯かなにかだろう。
そういえば風呂桶を頼んだ陶器の街、どんなに忙しくても精霊に敬意を払ってから生産を始める工房と、効率重視で目に見えない精霊への敬意を表す行為を省略する工房では、精霊の寄り付く数が違ったな。
伝統に則って作業を進める、そういう工房は仕事も丁寧。でも色々なものを省いて、一つでも多く作って売ろうという工房は多い。
砂糖の袋に精霊発見、砂糖の精霊ならきっと遠い土地を知っているはず。人がいなくなるタイミングを待ったんですが、砂糖はお高いものなので側から人がいなくならない!
袋に向かって話してたら危ない人だし、心の中で話してたって袋とじっと向き合ってるんじゃやっぱり変態だ。あの袋売ってくれないかな? ちょっと交渉してみよう。
――船主が違う袋を売ってくれました。違う、そうじゃない!
ちょっと物陰で袋を【収納】にしまい、他の精霊を探す。ひときわ立派な船についてた船の精霊と船に見とれているふりをして話す。
船の寄港したいくつかの港の情報を手に入れたので、まずはそこに行ってみよう。図書館で写し取った地図もあるのだが、変な怪獣が描いてあってイマイチ信用ならなかったのだが、大まかにはあってるっぽい。
最悪、魔物だらけのところに出たとしても、結界を張る魔法を覚えたので発動させてから行けばなんとかなる、はず。
必要な情報を手に入れてほくほくしながら家に帰る。あとは精霊の名付けをしたら、リシュと遊んでダラダラしよう。