第186話 エス
第186話 エス
飲み会の最中、精霊関係の魔法陣をもう一回調べ直そうと思っていたら、大人しくしとけよとディーンに釘を刺された。レッツェを始め、なんで俺の考えていることがわかるのか。
なので今日は大人しく、ドラゴンのいる大陸を探索中。精霊に守られた一番大きな都市があるエスという国に来ている、国名イコール都市名であり川の名前でもある。だだっ広い砂漠に大きな川が流れていて、その河口の三角州に王都がある。
雨が降るのは海側にちょっとだけで、川の水が生命線。国を守る精霊はこの川の精霊なのだそうだ。砂漠は砂丘があって俺が思い描いていたスタンダードな砂漠だ。砂がいっぱいある。
砂に混じったガラスの材料を大量にゲット!
都市に入る前に、その辺をうろついていた砂の精霊から情報収拾。エスは代々女王の治める地だそうで、川の精霊も女性型だそうだ。王家の女性は代々精霊の巫女でもあるそうで、精霊の姿が見えるか、声が聞こえるか、あるいはその両方の力を持つ者が王位を継ぐそうだ。
夏の日中の気温は五十度越えだそうです。今のドラゴンの王が、火の精霊の時代に生まれた火竜だそうで、先代の風の精霊の影響と相まって、この有様とのこと。――当代はあの玉ってことになるんだろうか、やだな。
ドラゴンが見られるかと思ってしばらくいたんだけど、暑かったので諦めた。日陰が恋しい!
エス川を下って色々な物資がエスの都に集まり、そこからナルアディードに送られる仕組みで、貿易の中継地として繁栄している。エス自体の産物はサトウキビと綿花とエス川から取れる砂金のようだ。
砂漠の砂は黄色っぽいガラス質を含んだ細かい砂なのに、川の周りは黒い土。エスの目という二つの渦のある場所に精霊が住まい、そこから水とともに湧き出て運ばれてくると言われている。
年に一度のエス川の 氾濫 ( はんらん ) が半月後くらいにある。その時にしか入れない古い神殿があるようなのでまた来る気満々だけど、今日は都市の見学。
港の方は一般人は相手にされないけど、都の西側に巨大な 市場 ( バザール ) がある。迷路のように入り組んで、所狭しと商品が並べられ、吊るされている。
香水瓶、金細工、護符の類、綿製品、水タバコ、よくわからない土産物。パイに餡子が入ったやつを見つけて食べたら、ナツメヤシでした……。ねっとりとした甘味があるんだけど、餡子だと思って口にしたのでコレじゃない感が半端ない。
ついでにこっちの民族衣装っぽいゆったりしたくるぶしまである服を買う。俺の格好目立つ、目立つ。ズボン、黒の革だもんな。
ゆったりしているので今着ている服の上から被ってしまう。自分の体温より気温の方が高いので、長袖ですっぽり覆われたこの服は結構涼しい。なお、現地の皆様は下はすっぽんぽんの模様。
店の中を突っ切り、ぶら下がっている絨毯をかき分け、雑多なものが溢れる店を冷やかしてゆく。
頭に乗せた板にパンをたくさん積んで歩く男、金の輪のピアスをつけた少女、客引きから次々声をかけられるのを適当にかわして進む。
その中で目を引いたのは透かし模様の美しい、真鍮で作られたランプ。パレスランプと呼ばれるものだそうで、店の天井にたくさんぶら下がっている。昼間なんで見えないけど、これに蝋燭を灯して吊り下げたら部屋に綺麗な影を落とすことだろう。
作業灯には向かないけど、いくつか買って、島のゴロゴロする部屋にぶら下げようかな? そういえばトルコのペンダントランプとかも綺麗だった記憶が。あの黒い装飾を施された金属とヒビの入ったガラスのランプシェード――さすがになさそうだな。
香水瓶は売っているが透明度の低いガラスだし、ある程度大きくなると加工が難しくなるのかな? 並んでるガラス製品より金製品のほうが安いというのも俺の感覚からするとおかしいけど。
ふんふんしながら土産を選ぶ、変な人形買っていこうかな。自分では絶対飾らないけど。
うろうろした挙句、香辛料を大量購入し、お土産用には結局綿生地を買った。夏だし、Tシャツかタンクトップでも作ってみんなに配ろう。マンゴーとサトウキビ、綿花の種を手に入れてとりあえず満足する。
昼食は無発酵の平たいパンにソラマメディップをつけて食べる。ソラマメのディップは刻んだ玉ねぎや白チーズ、好みの香辛料で味を変えられる。そして、平たいパンが主食と見せかけて、どうやらソラマメが主食らしく、肉を頼んでもソラマメの煮込みが付いてきた。
デザートはどこまでも甘いのにさらに蜂蜜をかけるという念の入れよう。さっきの餡子と間違えた菓子はまだ甘さ控えめだったんだな。さすがサトウキビ生産国。
街を出て、川辺のヤシの木陰で一息。この国は三角州に人がぎゅうぎゅう、バザールは物がぎゅうぎゅうだったので、ちょっと疲れた。
バザールで水タバコを売っていた、何歳だかわからない爺さんに話を聞き、精霊の話と擦り合わせ、古い神殿の場所の見当はついた。買う物も買ったし、帰ろう。
――俺が、神々にもらった地図の範囲が広がったことを知るのは、もう少し後の話。