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第191話 ずっと言ってた

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第191話 ずっと言ってた

夕方、島に行って呆れられながら俺の塔への水道橋の追加を頼む。

だって、今日までは水もお湯も【収納】で賄う気満々だったんだけど、せっかくヴァンのあの湯沸かしガラスがあるので、かけ流しにしたい欲望がふつふつと。

場所は塔のてっぺんの銭湯階じゃない、戦闘階。また水を上に引き上げる魔法陣をガリガリしなくてはいけないけど、今回は細くてもいいし、距離もそんなにないので頑張る。

円錐形の屋根と壁を居館に向いた側を残し、海に向いた面を半分壊して半露天にですね……。バルコニーのノコギリ壁も眺めがいいようにちょっと手直ししよう。近くの船からは屋根しか見えない程度に残さないと。

バルコニー自体はどうしようかな。空中庭園にでもしようか。

そしてさっき空井戸の仕上げをしたので、一回水を見せることにする。モザイクまだだが、半信半疑みたいだし。そういうわけで空井戸の前にソレイユと金銀、俺の四人でいる。

「何をやっているのかと思えば、これはまた……」

「魔法陣かしら?」

「お前、魔術師だったのか?」

三人が井戸を覗き込む。

「はい、はい。使い方の説明です」

「使い方?」

「使い方は簡単、ここに魔石を入れるだけです」

キールが聞き返すのをスルーして続け、井戸の縁の外側に作った、浅い穴に魔石を放り込む。

「ちょ、ちょっともう少し慎重に!」

ソレイユが焦った声で注意してくるが、もう放り込んだ後だ。

「それで起動するのですか?」

笑顔だが怪訝そうなアウロ。

「うん。穴は四箇所ね」

言いながらもう一箇所に放り込む。ソレイユがあああ、みたいな顔をして伸ばしかけた手を力なく落とす。

「水を流すのだったか。結構大規模に見えるが、そんなに簡単に……?」

簡単にしたんですよ、キール。代わりに魔法陣描くの大変だった!

「え、何の音?」

「本当に水の音がするようですが」

「おい、お前――」

「うを、あぶね! 二つで十分だったかこれ?」

水をかぶりそうになって慌てて飛びのく。なお、三人は靴に現在進行形でかかっている模様。

水はこの床を満たし、開口部の縁まで達したら下に流れ落ちるはずだ。くるぶしの上くらいまでは水がたまることになるようだ。

「これあれだ、通るところを高くしないと靴がダメになるな」

そう言いながら魔石を取り出す俺。水が冷たくて気持ちがいいが、毎回これはいただけない。

水の流れる先は二箇所ずつ四方向の開口部。元からあった穴だけの窓を利用している感じ。開口部が大きくて壁の方が少ないので窓という認識でいいのか謎だけど。

西に向いた開口部から、中庭を通って町の方に向かう水路への水が落ちる。その片方の前にどうなるか謎のガラス片を使ったモザイク模様を配置するつもりだったのだが、よく考えたら畑用の水路に分かれる場所にモザイクの小さいの作った方が早いよな。あとでこそこそ作ろう。

北向きの開口部からは居館に向け、少し下から水道橋が伸びている。予定通りなら、居館の中でも水道管の中を上の階から下の階へと水が流れるようになっているはず。

南向きの開口部からは城壁にくっついた南の塔に向け、やはり少し下から水道橋がかかり、城壁内の一部を潤し、下に落ちて船着場に到達する。南の塔は船着場から上がる階段と続いている塔で、ここで藍染やらなにやら作業をする予定。

あ、南の塔に水車作るか。日本式の縦のやつ、また完成まで伸びるけど。

で、広場にそのまま流す予定だった東向の開口部から俺の塔へ水道橋をかけてもらう予定。

水道橋は幸いというか、俺が水はいらないという言葉を信じていなかった金銀とバランスにこだわった建築士によって建築材が確保済みだったためセーフでした。きっと柱とアーチを組み合わせた美しい橋をかけてくれることだろう。

この塔と居館と南の塔の間には、なんか細すぎて不安になるというか、ローマ水道とゴシック建築の壁支えるやつ―― 飛び胸梁稜 ( フライング・バットレス ) の間の子みたいなのを嬉々として設置してるんだ、ここの建築士と石工。

大勢が働いて急ピッチで仕上げてくれているのだが、人海戦術での時間短縮も細部にこだわる人が多くて進まないという。おかしいな、出来高払いでボーナス出してるはずなんだけど。細部は任せているとはいえ、オプション頑張っても金出ないぞ。

でも出来上がりの美しさを見ると臨時ボーナスだすか、みたいな気分になるのも確か。途中で出してしまうと際限がなくなりそうなので、最後だな。

移住の募集をかけているのだが、建築士と石工が二人ずつ残るの希望だそうで……。建てたあともなんか改造されそうだ。

などと発言をしたら、どう考えても依頼主のせいだろとキールに冷たく言われた。ひどい。

などと物思いに沈んでいる間も動かない三人。

「大丈夫か?」

「無理!」

ソレイユが叫ぶ。

多分、この叫びは中庭で働いている人とかに聞こえてると思う。外聞が悪いんでやめてください。

――ソレイユと金銀と相談の結果、色々あって水を流すのは一ヶ月後となった。移住の募集も一ヶ月で一旦切り、期日までに移住希望を受けた人には、家屋を買取可能にする。そしてスカウトした人は別にして、後から来た人には売ることはせず、賃貸一択ということになった。

島狭いからな、あと家を建てた分しか受け入れません。ナルアディードみたいに建物と通路しかない、みたいな島にするつもりはない。あれはあれで雰囲気がいいんだが、家畜のお引越しが控えているので。

なんかソレイユが泣いていた気がしたけど、気にしたら負けだ。今回はアウロとキールにも色々言われました。

「出来るなら出来ると言え!」

というキールの言葉には、

「俺は言ってただろう」

と、返した。

「水が流れる、だけでは信じきるのは無理かと。過程を説明していただけませんと、理解不能ですね。いえ、魔法陣で水を呼び込むという過程を説明されても信じきれていたかどうか……」

アウロが明後日の方を向いて目を細める。

でもあれだろ? 二人はソレイユと違って明日には慣れてるんだろ?

――塔はアウロによって、厳重に施錠された。

モザイクを始め色々やることがあるけど、今日はこれで切り上げる。明日はレッツェに森に連れて行ってもらう日なので、弁当を用意せねば。

まずは 生物 ( なまもの ) が入らない散らし寿司から行ってみようか。味が合わなかった場合に困るから、おかずはアンバランスだけど洋食系にしとこう。

ズッキーニの花にチーズを詰めて揚げたフリッター、前に出して評判の良かったタルタルつきの海老フライ。隣に湯葉でチーズを巻いて揚げたのを混入。

枝豆と生ハムのスペイン風オムレツ。キュウリと人参、大根、そのほか野菜のマリネ。ミニトマトの青じそ入り出汁漬けを混入。

カヌムで出回っていないエビや野菜の類は、だいたい家で出してるので大丈夫だろう。スープは味噌玉持っていってみようか。

エクス棒用はタコスでも作るか。エクス棒がジャンクなものが好きなのって、食べるのに手間がかからないというのもあるっぽい。ちまちま食べてられっか! みたいなことを言っていた気がする。

そして今回、生肉と水は忘れられない。忘れようにも【収納】に常備しているけど。大人しくしていれば、という条件付きでリシュも一緒なのだ。森の人目につかない場所まで進んだら、呼び出す予定でいる。

お散歩、お散歩。