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第205話 島の様子

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第205話 島の様子

翌日は塔へ。

アッシュと遠駆けもしたいけど、当のアッシュはリリスにどのような暮らしをしているのか見せるために、執事を含む三人で冒険者ギルドの依頼を受けている。

今日は本館に行くので、ナルアディードから舟。船頭の爺さんと世間話をして、噂話を教えてもらう。

島は移住者募集の話が街に巡っているようだ。ただ、水路もないのに水路に関するお触れとか、最低二日にいっぺん着替えて洗濯しろとかいうお触れに不審がっていて遠巻きにしているっぽい。

しかし、どう考えてもこの暑さで着替えないのは……っ! 島民に服を支給するべき?

遠巻きにしている子どもを呼び寄せ、飴玉で懐柔して島の様子を聞く。子どもたちが自分で見つけたことや親の愚痴、けっこう面白いし気づきもある。

元気いっぱいで飴玉一つで大喜び、話してると世界が明るくいいモノに感じる。

この島に来た当初は、暗くはないけど一生懸命稼ごうとして必死な感じだった。一生懸命は変わらないけど、必死な感じは鳴りを潜めた。たぶん島は上手い方向に進んでいるんだろう、ちょっと安心。

海沿いの村から坂を上り、廃墟に手を入れた古くて新しい家々の間を通る。敵の進軍を阻止するためか、道が狭くだいぶ入り組んだ作りだったのだが、いくつかの家を壊して道を広げ、水路を通した。

それでもまだ入り組んで階段も坂も多い。というか、新しく建物と建物をアーチでつなげたり、真っ直ぐ行ける広くなったスペースに別なものを建てたりと、石工が大活躍して不思議な路地が出来上がっている。

水路はその路地に絡みながら水の流れを見せるもの、 暗渠 ( あんきょ ) を流れるものと、地面の上と下をいったりきたり。

金銀の鉄壁防衛希望が揺るがなくてですね……。どんっとメインストリート通して馬車でも……と思ったんだけど。迷路のような路地が楽しいので、今ではこれでよかったと思っている。

公衆トイレも作ったし、勢いよく流れる水路を広げて流れを緩やかにし、何箇所か水汲みなどができる水場も作った。水場から流れる水は下水に。宿屋や飯屋、場所がよかった家は、水場を家の中に設けたところもある。賃料お高め設定だとも。

石に覆われている状態だけど、あちこち地面も残し、とりあえずうちの庭師さんに、街全体のコンセプトでなんか植えてくれって頼んだので、そのうち石壁石畳だけじゃなくって綺麗な路地になるはず……。丸投げともいう。

水路と下水は浜辺の集落にも引いたんだけど、家をある程度壊したりしないといけないので、まだ引いただけ。水を流した後に上の新しい街に移る家族が半分と、浜辺に残る家族が半分。

残る半分の家族も家を建て替えることには合意してくれてるので、その辺は街の整備が終わってから。舟屋付きの家とか、一時滞在の宿屋とか――あとは必要になったものを増やせばいいかな。

路地を抜けて広場に出ると、明るいし開放感。正面には『精霊の枝』、ここに城からの水路が一旦入り、いくつかに分かれて島を巡るかんじ。

で、路地に比べて広い道を通って城の城門。城壁内の広場を抜けて、橋を渡ると本館がある。水道橋と一体の石橋の下は断崖絶壁です。

子どもたちとはここでお別れ、働く石工や大工に挨拶しつつソレイユに会いにゆく。

本館の廊下をマールゥがモップがけしている。

「お疲れ」

「はいはい、がんばってるよ〜」

上機嫌なマールゥ、掃除が好きなのは本当だったようだ。

こっちの世界、廊下や食堂の床ってイラクサやら殺菌効果のあるハーブの類を絨毯がわりに敷いて、年に何度かそれごと捨てるというダイナミックというか、お前床に物を捨てるなよというか……。ネズミの死体とかも混じってるらしいんで、聞いた時は本当にどうしようかと。

しかし、確かに石畳に底が硬い靴、もしくは布靴じゃ、足に負担がかかる。でも暑いんで、絨毯を敷くかどうか迷っている現在。

「ソレイユ、これ預かって」

「なんでしょう?」

執務室を訪ね、ソレイユに頼みごとをする。

俺が入室したと同時に、控えていたファラミアが一礼して隣の部屋に移動。

「菓子の保存瓶。さっき休憩室寄ったら、すでに空っぽだったんで」

使用人は適当な場所でサボるのが普通のようだが、お茶を飲めるように休憩室を設けた。

で、クッキーや飴を日付を書いた保存瓶に二週間分分けて入れて置いたのだが、一週間経っていないのにどの瓶も空。調整できないダメな大人がいる様子。

「ああ……」

察したらしいソレイユが視線をそらす。

そこにコップを乗せたトレイを持ったファラミアが戻ってきた。

「ありがとう。週にいっぺん配ってくれ。後これはおまけ、二人でどうぞ」

保存瓶が四つと細長い木箱を二つ渡す。木箱がおまけだ。

「あけても?」

「どうぞ」

返事をすると、ソレイユが受け取った箱をファラミアに回す。

俺はファラミアが持ってきてくれた、ミントを一枚浮かべたレモン水を飲む。氷が欲しいところだが、それは贅沢すぎる要望だろう。

「いい匂い……。美味しそうね」

ファラミアが箱を開け、白い指でラムを染み込ませたガーゼを開くと、覗き込んでいたソレイユがつぶやく。

毎度クッキーと飴もどうかと思い、ナッツとドライフルーツをたっぷり使ったフルーツケーキを作ってきた。ラム酒と砂糖もたっぷりなので常温でだいぶ持つ。

「じゃ、よろしく。ご馳走さま」

そう言って部屋から出ると、閉めた扉の中から声。

「ソレイユ様、これは分配で血を見るのでは……」

「そうね……。ああでも、一人一人切らせて、切った順と逆の順番で選ばせればいいんじゃないかしら?」

ソレイユ、頭いいな! でもそれアウロが甘いものに興味がないから、アウロの切る順の時に悲鳴が上がりそう。

いや、その前に。うちの使用人って二人が沈痛な声出すほど、菓子での争いがひどいの? まさか本当に流血沙汰とかじゃないよな?