第212話 井戸
第212話 井戸
ゴスッとやっては、砂の中の魔物を見もせずに【収納】する。
推定砂漠の精霊さんは、進むべき方向を指して消え、その方向にしばらく歩くと、また出てきて指を差す。
だんだんどっちに進んでいるのか分からなくなってきた。砂丘は風で姿を変えるし覚えることに意味がない。太陽の位置で方角はわかる――と見せかけて、精霊が絡む場合はコンパスもそっと狂わすわ、太陽や星も偽装するわの記録がですね……。
利き脚、怪我、骨格の歪みや左右の脚の長さの違い、靴が合わない、個人の癖――そんな違いで、目印がない広い場所で円形にぐるぐる回ることを、リングワンダリングって言うんだっけ? 輪形彷徨 ( りんけいほうこう ) とか。
俺には戻れる気軽さがあるけど、そうじゃなかったら不安になるだろうな、と思いつつ、精霊の指差す方向に砂を踏んで歩く。砂がまた体力を奪うんだ、部活とかで砂浜走るのって負荷かけてるんだなあれ。
ゴスッ
体力的には平気だけど、ちょっと浮遊の魔法をかけてみるか? 大気や風の精霊たちが多いので、あまり負荷をかけずに行けると思うんだが。いや、浮いてると魔物が襲ってこないな、どうやら俺の歩く振動で寄ってきてるみたいだし。
ゴスッ
エクス棒も喜んでるし、このゴスッとやるのは赤トカゲで学んだことが活かされてる感じで俺も嬉しい。能力頼りだけじゃない、と言いたいところだけど、エクス棒を突き出す速さと力がないと実現しないな、この方法。赤トカゲよりはるかに硬いし。
精霊のお陰か、日々動き回って鍛えているお陰か、力も体力も当初よりついた気がする。体型が変わった気がしないんだが。背は二年で一センチほど……伸びた。たぶん……。
道中ではワニや蛇のほか、アンコウみたいに砂に潜って美味しそうな実をぶら下げてる魚型の魔物とか、チンアナゴみたいなヤツとか。一番驚いたのはクロマグロだが。
砂色の、でも形のあるもの。えんえん砂しかなかったけど、どうやら何かの遺跡についたようだ。崩れた壁っぽいものが、砂から少し顔を出している。
また精霊が現れて、下を指差す。
うん、どうやら目的地は砂の中に埋もれているらしい。ってその前に。
「エクス棒! 五倍!!」
「あいあいさー! ご主人!!」
エクス棒を振りかぶり倍数を叫べば、手応えが変わる。俺の望みに合わせて五倍の大きさ長さに。
なんか道案内の精霊が驚いた顔をしているが気にしない。
そのまま砂の中に勢いよく突き入れれば砂塵が上がる。その砂塵を追うように、一拍遅れて周囲で砂が大きく舞う。
「ご主人、大物だぜぇ」
「おう!」
嬉しそうなエクス棒が言う通り、砂の中の魔物は今まで倒してきた魔物比較五倍くらいの大きさ。
周り中砂埃で何も見えないくらい暴れている。闇雲に暴れていると言うよりは、断末魔にのたうっているのかな? こっちを狙う気配はない。
マグロだろうか?
違った。砂煙がおさまって、見えたのは芋虫っぽい、いや、線虫類をこれでもかというほど大きくした感じの砂に半分埋まった魔物。
ここで虫っぽいものを登場させるのはやめてほしい。エクス棒拭かなくっちゃ。物質は透過しようと思えば透過するんで、汚れはそのままボタって落ちて綺麗になるんだけど、気分の問題だ。
「これ【収納】するのやだな」
でも【鑑定】結果に体液が薬の材料ってあるんだよな。しかたない、おとなしく回収しよう。
【収納】すると、砂がすごい勢いで流れ、魔物のいた空間を埋めてゆく。そして現れた井戸。
どうやら俺の目的地の入り口に着いたようだ。井戸を埋める砂を退けるため、大気と風の精霊に手伝いをお願いする。俺が手のひらを上に向けて持ち上げると、その動きに合わせて精霊が砂を吹き飛ばす。
吹き飛ばし損なって残ってしまった砂は、協力してくれた精霊より小さな精霊たちが、お手伝いとばかりにつむじ風を起こして払ってくれた。
「ありがとう」
協力を願った時に渡した魔力の他に、少しサービス。またよろしくお願いします。
案内してくれた精霊はいつの間にか姿を消している。周囲を見回し、姿を現さないことを確認して、先に進む。
「たまに狭いとこに入るとわくわくするぜ! 特に外に出た時の爽快感はいいぜ!」
いや、それ狭いところ好きなんじゃなくって、外がいい宣言じゃないか?
とりあえずエクス棒でコンコンして階段の強度を確かめる。砂に埋まっていたせいか、露出していた壁より状態はいい。
四角い井戸は、四方に階段がある。時々残った砂がサラサラと流れる中、四方を巡るように降りてゆく。
日陰に入るだけで涼しい。
地下に降りてゆくって、坑道もそうだけどちょっとロマンだ。地下帝国とかあるのかね? あ、ドワーフの谷にあるんだった。いかん、なんかロマンが何処かに出かけた。