第213話 待ち人
第213話 待ち人
階段の途中で休憩中。だいぶ降りてきたのでちょっと涼しい、日陰なのもあるけど。
弁当の包みを膝に乗せて開く。白ごまを一筋かけたごはん、豚の角煮とそれに添えた塩茹でオクラ、オレンジ色が鮮やかな煮卵を半分に切ったやつ。ホタテと切り干し大根のサラダ、赤カブの甘酢漬けとキュウリのぽりぽり漬け。
そこそこの量を作って【収納】、弁当にちょっとずつ詰められるのは便利! と、思っているんだけど、つい新しいのを作ってしまう。【収納】に料理がどんどん溜まっていってるんだがどうしたものか。
豚の角煮は簡単に噛み切れて、とろっと。一度、一晩寝かせて浮いたラードを取りまくったので冷めても美味しい。
エクス棒には豚の 角煮饅 ( かくにまん ) を渡したら、ほとんど一口で食べ終えてお休み中で静か。
サラサラと砂が落ちる音。時々まとめて落ちるのか、ドサっと鈍い音も。日本にいた時は、知らない土地、特に自然以外何もないだだっぴろいところに行ってみたかったんだが、こっちでそれが叶うとは。
ここは井戸の中で狭いけど。
しばらく砂の音を聞き、精霊に名付けを始める。【探索】でこの周辺に魔物はかかってこない。さっき倒したでかい魔物がいたせいで、小さいのが近づいてこなかったのかもしれない。
でもこの井戸の底に何がいるかわからない。安全第一、協力者は増やしておかないと。
適当なところで名付けを終えて、また下に進む。さすがに冷んやり薄暗くなってきたのでランタンを出している。影で黒く見える石壁は、いつの間にか水で湿っていたらしく、表面に滲み出る水がランタンの光に白く反射する。
一センチほど水のたまった井戸の底、石の扉が一つ。
きっと通常はこの扉も水の底で入れないのだろう。古い神殿に行ける期間はエス川の氾濫のこの時期だけだ。他の井戸の水位は上がるのに、入り口となる井戸の水位は下がり、道が開かれる。本にあった入り口は、この井戸で間違いないだろう。
だがしかし、石の扉は固く閉ざされていてですね。ランタンをかざしてあちこちごそごそ。あれか、どこかに火を灯すところがあって、火を付けると開くとか? いや、ないな。
押してダメなら引いてみな。うん、ビクともしない。横開き――もないな。というか、手を掛けるところが丸い穴しか……。
……。
丸い穴に魔石を入れたら開きました。一旦、外に【転移】して、倒したあのでかい芋虫っぽいのを解体してでた魔石だ。中ボスか? 中ボスなのか? こんなところでゲーム的な要素入れてこんでいいわ!
【転移】ついでに家にもどって、シャワーを浴びてリシュをわしわしして、三十分ほど昼寝。大きな精霊に名付けたわけじゃないけど、結構な数に名付けたので魔力回復しとかないと。
あー。ひんやりしたシーツが極楽。
さて、英気を養ったところで扉の先へ。扉の先は上り階段、水対策だろう。上がってまた降りたその先は、今度はまっすぐな回廊。
左右の壁にところどころ壊れているけれど明かりが連なる。壁と同じ石でできた半球状の突き出た受け皿に、球形のガラス。覗き込むとガラスには一箇所穴が空いていて光の精霊が寝ていた。
ガラスとか宝石とか、精霊が寝床に使うというのは本で読んで知ってたけど、実際に利用されてるの初めてみた。
なんか、閉じ込めるイメージがあってちょっと抵抗があったけど、こうやって寝床を作って呼び寄せればいいのか。たくさんあれば、いくつか精霊が入ってなくても明るいし。ちょっとカッコ悪いけど。
木箱を持ち出して、明かりを近くで観察。
あ、使用済みで色の抜けた魔石がついてる。なるほど、全部に精霊が入るように魔力も緩く流すのか。
白っぽい魔石をつつくと、形を失いあっという間に崩れる。灰みたいだ。精霊が入っていないガラスをどけると、石に小さな魔法陣が描かれていた。
ふんふん、なるほど。これ後で塔に作ろう。
開かなかった石の扉も内側に魔法陣があって、そっちも覚えた。外からは魔法陣が見えず、魔石だけ入れられるようになってた。多分、魔石なしで入られないように、魔法陣の解析を難しくしているのだろう。陣が見えないと解析の難易度は跳ね上がりまくるから。
謎解きが楽しいから思いとどまってたけど、短気だったら『斬全剣』で扉を斬っちゃうところだった。
調査に満足して先に進む。回廊の先にはまた大きな扉。扉の向こうに【探索】にかかる何か二つの反応、一つは案内してくれた精霊さん、もう一つはなんだ?
『……遅いだろ! 解錠されてからどれほどだ!?』
『さっき様子を見に行かせたら、回廊にいたようだけれど』
『あの回廊にどんだけ時間食ってんだよ!』
あ、すみません。待ち人がいるとは思ってなかったんで、開けてから家に戻って昼寝をしてました。
中から聞こえてくる会話に扉を開くのをためらう俺。