第214話 ずれるタイミング
第214話 ずれるタイミング
「お邪魔します」
意を決し、扉を少し開けて声をかける。
「よく来たな、強き意志持つ者よ!」
あ、いえ。俺はどちらかというと豆腐メンタルです。
なんか、中の広間に大柄な壮年の男がいる。浅黒い肌に白い歯、石の王座みたいなのにマントを敷いて座っている。足は開いて大剣を真ん中に、柄に両手をかけ、ちょっと覗いただけで猛々しい感じの印象。あと、電車で嫌がられる座り方。
「……入ってきて欲しいのだけれど」
案内してきた精霊が、扉の隙間から覗く俺に声を掛けてくる。
どうしようかな? 今までの火の神殿とか、水中の森とか、出会った精霊があっさりだったけど、なんかこの二人は面倒そう。
「おい、本当にこいつで大丈夫か?」
「棒一つで魔物をさばいて砂漠を渡る強さ、精霊が集まる振る舞い――勇者が呼ばれたこの時期に現れたのだもの、試す価値はあるわ」
聞こえてます、聞こえてますよ!
「ああ、待って! なんで閉めるの? 話を聞いて!」
「聞くだけだぞ? あと、その男の人魔物か?」
閉めかけた扉を少しだけ戻して言う。
「よく分かったな。なるほど、それで距離をとるか。取って食ったりせんから、入ってこい! 話もできぬ」
やっぱり魔物なのか。距離とってる理由は別だけど。
黒く染まって、もう一度色を取り戻したやつは力が強くて高位だったはずだ。名残なのか、目の下に菱形のような黒い星の 痣 ( あざ ) がある。
とりあえず攻撃してくる様子はないので、扉を開けて広間に入る。
「魔物の割になんか害意は少ないな?」
「俺はこの地の王だ。人は心底憎いが、治めるべき地がこの有様なのは許容できぬ」
剣に置く手に力を込め、吠えるように言う男。
「王は黒きに堕ちた精霊に憑かれながら、それを意志の力でねじ伏せているの」
案内してきた精霊が教えてくれる。
「それは凄いな?」
ユキヒョウの聖獣の友達である馬でさえ、ダメっぽかったのに。あれ、言葉にしたらなんかちょっと酷いな?
人が憎いのはこの男なのか、憑いた精霊のせいなのか。どちらだか聞き出したり、見て分かるほど人生経験積んでない俺だ。
「このさらに下には『王の枝』と財宝が眠る。お前は『王の枝』を壊せ、さすれば財宝はくれてやろう」
「なんで壊すんだ?」
精霊寄せの枝で大切なんじゃないのか?
「この俺に憑いた、堕ちた精霊とは『王の枝』の精霊だ。狂った『王の枝』はここを人の住めない土地にした、王として許しがたし。策略を用いて精霊を狂わせた国はとっくの昔に滅ぼした。だが、一体化した俺が自分で 『王の枝』 ( じぶん ) を壊すこともできず、国土はこの有様よ」
本体があるタイプの精霊は、その本体を破壊すれば消えるか力を失うことが多いけど、 本体 ( ぶっしつ ) を捨てて完全に自由になる場合もある。
『王の枝』は手に入れた人物や継いだ者が誓いを違え、存在意義を失うと物質的にも 精神 ( せいれい ) 的にも綺麗さっぱり消えてしまうのは知っているけど、 本体 ( えだ ) が損なわれると精霊も消えるのか。
そういえば、普通は王宮の宝物殿とか警備が厳重な特別な部屋に安置するとか言ってたもんな。
「あれ? なんで国がとっくに滅びたのに『王の枝』が消えないんだ?」
「俺が王を辞められぬからよ。初代が精霊の木に誓ったは、王がこの地を愛すこと」
「ずいぶんシンプルな誓いだな」
「『王の枝』が消えては困るからな、最低限の王の条件を誓ったのであろうよ」
具体的に色々誓うと、それに合わせてわかりやすく必要な精霊が寄ってきて、手伝ってくれるらしいんだけど、誓いが守れないと『王の枝』は消えてしまう。本人だけでなく、子孫のことを考えると条件付けはなかなか加減が難しい。
「枝の収められた地下王宮へは、精霊のほか、王か王の資格を持つ者しか入れぬ。お前は『王の枝』を手に入れ、ここに来い。別の『王の枝』を手に入れた者を連れてくるのでもかまわぬ。さすれば火の神の時代、繁栄の中心となった我が国の巨万の財を与えよう」
そう言って立ち上がる男。
火の神の時代っていうと、図書館の王様思い出すんだけど。ああ、でも火の神の時代は長くて、勢力を伸ばした範囲もだいぶ広かったらしいしな。他の国に文化の中心が移動するのは容易に考えられる。
火山の噴火はあるものの、ハワイみたいに栄養をたっぷりとかした溶岩がゆっくりゆっくり流れるタイプ、噴火の後は豊穣をもたらしたと記録がある。あと焼畑も盛んだったとか。
それに山火事などの後に芽吹く種類の植物が、今よりずっと多かったようだ。でも、風の神の時代が混じったら砂漠化待った無しだった。
一斉にガラッと変わるわけじゃないから、前の神が残した眷属たちと、新しい神の眷属たちが混じって様々なことが起こるのだ。この状態で光の精霊がさらに増えたら、ますます過酷になりそう。
「巨万の富というのは私も保証するわ、大国を百年は支えられるほどの財よ。お願い、この地の歪みを取り除いて」
「我が名はカーン・ティルドナイ。地下王宮は魔物の巣、だがそれらは俺が払うと約束しよう。十年かかろうが、二十年かかろうが、お前の子孫が戻るのでも構わん。さあ、行くがいい!」
そう言ってマントをひるがえし、背を向け、案内してきた精霊と一緒に椅子の後ろの通路に消える。
当然ついてゆく俺。
「いや、待て」
「なんで入れるの? あなた精霊じゃないわよね?」
ピタッと歩みを止めて、俺を見る二人。
「普通に『王の枝』持ってるから」
「おう! 俺はコンコン棒EX! 通称エクス棒だ!」
エクス棒を掲げると、起き出してきて自己紹介する。
「普通に!? 今は外はそのような時代なのか!?」
「ちょっと、まさかそれ魔物をつついていた棒じゃない?」
「うん」
「うんじゃないわよ! 何をやってるのよ! それになんで枝じゃなくて棒なの!?」
「何故、魔物である俺に不快な影響を及ぼさぬのだ?」
それは俺が魔物避けを願わなかったからです。
執事曰く、「かなり変わった」枝だそうです。