第251話 ニアミス中
第251話 ニアミス中
「悪い!」
「すまない」
「ジーン、ごめん」
勢いよく頭を下げたディーン。申し訳なさそうなクリスとディノッソ。
夕飯後に冒険者ギルドに寄って、ディーンとクリスが金ランク昇格のために迷宮に入る届出を出しに行ったんだけど、ギルドから見届け人がつくことになった。
滅多につかないらしいんだけど、王狼バルモアさんのファンの人がですね、ねじ込んできましてね……。おのれっ!
見届け人の話が出たところで、一緒に迷宮に潜る面子から俺を外して届出。俺に一緒に行くか改めて確認して、参加なら追加って形で見届け人に伝えるらしい。
さすがに金とか銀とかが増えたらあれだけど、俺は銅ランクのまま放置してあるからな。同じく銅ランクのカーンが混じってる時点で、参加のランク人数によってターゲット変える意味がない気がするけど。
「三人とも悪くないだろ」
宿屋でとった、ふた部屋の片方にみんな集まって話し合いはぎゅうぎゅう。カーンは一人で三人分以上だし。
「いや、だって結構楽しみにしてたろ?」
ディーンの方が俺より残念そう。
うん、楽しみにしてたけど、やっぱり三人のせいじゃない。俺の選択としては参加、だけど迷宮内でおとなしくしている。参加せず、ソロのどっちか。
「参加するなら冒険者としてじゃなく外部としてにしとけば、やらかしても誤魔化しやすいぞ」
レッツェが言う。
色々話し合った結果、迷宮内で偶然一緒になったふりして合流、やばそうだったら離脱ってことになった。行き当たりばったりとも言う。
「ローブ着てこう、ローブ。そういえば勇者偽物ってどうしたんだろう?」
確かここにいるとか迷宮に潜ってるとかそんな話だった気がする。
「迷宮から戻って『天上の至福』に今日入ったとよ」
レッツェに頷く執事。
今日入った話を俺たちと一緒に行動していたレッツェと執事がどうやって知ったのか気になるんだが。それぞれ方法がまるで違いそうな気がする……。
「『天上の至福』……。どっかで聞いたことがあるな」
「クリスの贔屓のほうだろ」
「あー」
ディノッソの言葉に、娼館の名前だったなと思い出す。って、ディノッソ、いつクリスと娼館の話したんだ? シヴァに内緒案件か?
「む……」
微妙な顔のアッシュ。俺が行ったわけじゃないからな!?
「ここで一番快適な宿は、ねーちゃん達抜いても「『天上の至福』か『月楽館』なんだよ」
ディーンが言う『月楽館』は、自分の贔屓の娼館だったか。
「 褥 ( しとね ) は白色雁の羽布団が幾重にも重ねられ、今のように暑い時期は珍しい氷の精霊憑きが部屋を快適に冷やし、そよ風を送るためだけに風魔法の使い手が雇われてるのだよ! 一番高い 娼婦 ( はな ) になると、その時の客のためだけに寝室の全てを新しいものと取り替えると聞くよ」
うっとりと言うクリス。
全部取り替えるっていっても廃棄するんじゃなくって、別の部屋に回すんだろうけど、それでもすごい。
あれだ、泥棒はともかくネズミやら虫やらにビクビクしなくていい宿はあんまりないし、日本人なら行くかもな。俺は最初に飛ばされた山の中で野宿生活長かったから多少免疫あるけど。
こっちの世界、宿屋にベッドがあるほうが珍しいし、あってもフレームだけで他は自分で用意しろだし、宿に泊まるのに金持ちは絨毯持参だし。農家の半数は動物のように藁に潜り込んで寝ている世界、クリスやディーンが言うそのままなら、ここの娼館は別天地だろう。
なお、ここの『月楽館』や、他の都市で有名な高級娼館の中には、先代勇者が元を作ったものが多数あるそうです。勇者……っ!
「娼館なら遭遇しようもないな」
目視できたら、【縁切】発動させる気だったんだけど。
「いや、それもどうなんだ?」
低い声で漏らすカーンはスルー!
会わないままに【縁切】の指定ができないこともないんだけど、俺のチェンジリングは造られて間もないせいでこの世界に痕跡が薄く、捕捉が難しい。俺の顔のはずなんだけどね。
「迷宮内で鉢合わせの可能性がなくなったことを良しと致しましょう」
執事が言う。俺のぼやきの意味を真逆にとっている気配、確かに【縁切】のためじゃなければ街でも迷宮でも遭遇したくないけど。
あ、微妙に姉たちへの【縁切】の影響で、俺のチェンジリングともすれ違ってるのか? だったらいいな。
明日からは屋根の下で眠らない日々がしばらく続く、だから早く寝ようってことになって解散。
部屋に安心できない俺は、虫除けを再び設置。木の葉をまとめた、火をつけると燃え上がらずに薄い煙をくゆらすやつだ。最初に置いた虫除けより、効果は薄いがいい匂いでお香みたい。
二つのベッドはアッシュと執事に使ってもらう。カーンはそもそもここのベッドのサイズじゃはみ出るし。床でもいっぱいいっぱいだ。
「もう少し右にお願いします」
カーンに肩車をしてもらって、梁に綱を掛ける。
俺はカーンの上にハンモックで寝ます。迷宮に入る前にノミやらダニに刺されるのは嫌だ。