第331話 レッスン終了
第331話 レッスン終了
「いいわよ、もう。王の枝より驚くことってないもの、大丈夫よ。ええ、大丈夫」
ハウロンが額に拳を当てて自分自身に言い聞かせている。
「これを理解しようとするなら、自分の価値観をまず捨てろ。何が起こってもおかしくはない」
腕を組んで仁王立ちしているカーンが、隣のハウロンに向って言う。阿吽?
「ああ、王の枝よりビックリすることはないと思うぞ。たぶん。さて、そろそろ魔法使っていいか?」
ここに来た目的をそろそろ果たしたい。
「お前……」
ディノッソ。
「……二回目があるとは思わねぇよな」
呟くレッツェ。
「二回目の方が衝撃が強そうでございますが」
その呟きを拾う執事。
「……じゃあ、ファイアからいってみましょうか」
「はい」
懐に手を突っ込んで何枚かの魔法陣から一枚引き出す。
「相手側に見せないの! 目端が利く相手ならどんな陣か読み取ってしまうわ。戦闘で次の一手が読まれるのは良いことじゃないのは分かるでしょ?」
何となく周囲の精霊に見える方がいいのかと思っていたが、そういうわけでもないようだ。
「精霊は、羊皮紙を通り越して魔力を帯びた陣の形を見ているから大丈夫」
「なるほど」
話を聞いてもう一度やり直す俺。分からないように、分からないように。
「『望むは拳大の火、目指すは指差す先、対価は消耗の一割増しの魔力、火球!』」
色々意見を入れた結果、安全第一の呪文になった。
空を切って衝撃波のような透明なものが飛び、的の枝を落とす。
「さっき、ファイアだって言ってなかったっけ?」
ディノッソが言う。
「気が変わったか、使う魔法陣間違えたのか」
レッツェが首をかしげる。
「待って。何故、火を望んでウィンドカッター……? 今、ちゃんと火って言ってたし、火球とも言っていたわよね?」
戸惑うハウロン。
「…… 忖度 ( そんたく ) してくれたようです。使う魔法が分からないように気をつけてたから」
どうやら心の声を聞くのをちょっと遠慮してもらうところからのようだ。
「意味が分からないわ……」
「次こそは、次こそはファイア!」
見捨てないで!
「『望むは拳大の火、目指すは指差す先、対価は消耗の一割増しの魔力、火球!――うわっ! 取り消し!』」
周囲に拳大の火が数え切れないほど。
「やめんか!」
「あぶねぇよ!!!!」
カーンとディノッソが短く叫ぶ。
「個数を指定するのを忘れてました」
ちょっと大規模森林破壊かとドキドキした。
「アンタの魔力はどうなってるのよ!」
「これは、合意の上とはいえ、神と呼ばれるクラス三体との契約を一度に済ませたことがある」
普段あまり喋らないのに、今日はカーンがよく説明に回る。
「お陰様で最近は魔力切れで倒れることもなく」
「本当にどんな魔力量よ……」
どこかげんなりしているハウロン。
ところで今、周囲を「見た」ら、森で名付けた精霊が手を貸す気満々で集まってきていて、圧がひどい。
「もう諦めた方がよかねぇ? 俺には事故る未来しか見えねぇんだけど」
「ディノッソ、ひどい」
ここでちゃんとできるようにリハーサルしておかないと、人前で魔法を使う本番が不安!!
「ここは慎むべきかと」
執事まで!
「どっちかってぇと精霊よりジーンが混乱してるように見えるな。魔法の手順が苦手で、思ったことを忖度してくれんなら、心では今までやってたやり方で頼んどきゃいいんじゃねぇの?」
魔法が範囲でないせいか、レッツェが適当な感じで言う。
「おおお!?」
レッツェ先生!
『これから呪文使うけど、普通っぽい火球お願いします』
「『望むは拳大の火一つ、目指すは指差す先、対価は消耗の一割増しの魔力、火球!』」
火球が飛んだ!
「おお! 奇跡!」
ディノッソが声を上げる。
「見事なファイアでございます」
執事の拍手。
「アンタら……」
頭が痛そうなハウロン。
「付き合ってくれてありがとう。お陰で何とかなった」
ハウロンの演技指導とレッツェのお陰で、どうやら普通っぽく見せることに成功。ありがとう大賢者、ありがとうレッツェ先生。見守ってくれた三人もありがとう。
「アタシの存在意義がおかしくない?」
「魔法陣も呪文も、ハウロン殿がいらっしゃったからこそかと」
執事が言う。
「何一つ魔法に関係ないわよね!?」
「落ち着け、言ってることが酷いぞ」
カーンがハウロンをなだめる。
「魔法陣も呪文も普通は魔法に関係いたしますな」
髭を撫でる執事。
「お陰で普通っぽい。魔法は使えねぇけど、色々見てる俺が太鼓判押す」
バシバシと背中を叩いてくるディノッソ。
こうして俺は魔法レッスンを無事終えた。