第358話 ふた部屋目
第358話 ふた部屋目
「レディローザは、この内海でこそおとなしいが、クラレッツやシュルムあたりの海域では、有名な海賊だしな。拠点としてこの島は水が豊富なのは願ったりだろうが、でかい船はどこに置いておくつもりだったんだか」
キールが不審そう。なお、自国と敵対する国の海域に入ったり、近くに敵対する国の商船が来ると、普通の商船が海賊に早変わりするのが横行というか普通なので、ナルアディードの海域以外での海賊行為はあまり問題視されない。
大抵、国同士で拿捕したり沈めたりしていて、レディローザのようなフリーの海賊は、海運ついでに特定の国の船を襲えと国に雇われてたりもするらしい。
それにしてもキール、一応考えてるのか。
「体制を整えつつあるものの、出来たばかりの小さな島の街。精霊の枝も水もある。他から見たら垂涎の的です、湾はいざとなれば掘ればいい。居館にいる内政に関わる人物は少人数で、いざとなったら皆殺しに」
変わらぬ笑顔でアウロが怖いことを言う。
「最終的にはそうかもしれないけれど、私となり替わりたかったんじゃないかしら? 否定しても私を領主だと思い込む人が多くって――レディローザもね。実力を見せて、アウロに取り入って……」
ため息を吐きながらソレイユが言う。
「確かに私の方が王の枝を持つ 本 国 と繋がっていると、勘違いされる方が一人二人おられますね」
「私は雇われだってことを隠してないというか、領主ではなく代官だって正直に言ってるだけなのだけれど」
チェンジリングや警備をアウロが取り仕切ってるから影のNo.1っぽく見られるのか。ぽくというか、そのまんまだが。ソレイユが領主ではないと否定すると、ソレイユの上――俺の存在が認識されず、アウロに流れ弾が行っている気配。
「馬鹿だが、本国自体がないなんて誰も思わんだろ」
キールが吐き捨てる。
「私は内政は最小限に、商談の時間を取れるようにしてくれる二人には、感謝しているんだけれど」
アウロとキールの方を向いて、笑顔で肩をすくめてみせるソレイユ。
レディローザはわからんが、ローザは精霊憑きにちょっと執着しているように感じた。もしかしたらチェンジリングにも同様の執着があるかもしれない、とちらっと頭をよぎる。
「海鳥くんの声の届け先は、サッタルの2番目に高い煙突の家だそうだ。レディローザがちょっかいかけてこなければ放置でいいが、一応伝えとく。ついでに俺は勇者が嫌いなんで、絞り取るのはいいが深入りしないように頼む」
服とか鞄とか宝石の類は買いあさりそうなんで、布で搾り取って破産させてやってくれ。
「ええ。国の覇権争いには関わらないし、以前貴方に言われた通り、取引は分散しているから安心して。商会も出来たばかりな割に、高価なものや目新しいのもを扱ってるから、ナルアディードのギルドを間に挟むようにしているわ」
「うん、安全第一で頼む。さて、次に行こうか」
そう言ったら、ソレイユが固まった! 今までしゃっきりしてたのに……。
まずは下。一階は倉庫で、ここは外からしか入れない。壁の中の細い階段を降り、たどり着くのはBBQ会場。
「ううう、椅子と台が変わってる。座れないし、この金網では絶対焼けない……。でもここは、格子の方が反則だから……、一回見てるから……」
日が高くなれば格子の花が咲き誇り、夕方から明け方の陽がない時間帯は固い蕾、どっちも綺麗だ。
「ソレイユ様、どうぞ」
涙を流し始めたソレイユに、ファラミアがハンカチを差し出す。
『お? 旦那、どうした?』
そしてやっぱりいた海鳥くん。
『ああ、塔の見学してるんだ。そういえば、新しい伝言を運ぶ時、俺はこの島にいないことも多いから、この中の誰かに聞かせてやってくれないか? 魔力は後払いになっちゃうけど』
海鳥くん自身の声はみんなに聞こえないと言うことがわかったので、心の中で会話。独り言の人にならないように。
『おう! ガッテン承知! 今回もらった魔力で、早く楽に飛べるようになったんで、届ける前にこっちに聞かせにくるよ。はぁ、この開放感がたまらない〜』
嬉しそうに翼で力こぶを出してみせる海鳥くん。翼で力こぶ出ていいの……? 筋肉?
「さっきの精霊か……」
「どこにいる?」
「反則男の真ん前だ」
キールとアウロの会話。反則男って俺のことか、キール!
「アウロは見えないのか?」
「精霊側のチェンジリングで見える者は珍しいのです。逆に人間側のチェンジリングは見えることが多い――精霊であることをやめ、人間を選んだ時点でどうもそうなるようです。先ほどのように、精霊が姿を見せてくれる気があるならば別ですし、気力を振り絞れば精霊界を見ることができるのですが……」
いいよどむアウロ。気力振り絞ったら倒れるとか、またキールの方に影響が出るとかだろうか。
「意外だな。まあ、海鳥くんに、俺が留守の時には、レディローザの伝言をこの四人のうち誰かに聞かせてくれるよう頼んだんでよろしく」
「精霊への頼みごとが気軽、気軽すぎないかしら……」
ソレイユが呟く。
いいんですよ、無理のない範囲でお願いしてるし、ちゃんと魔力という対価を払ってるし。――払うと無理が利くようになることも多いけど。
「そういえば、この島に侵入してくる他人の契約精霊とかっている?」
「契約者と一緒に入ってくるのはいるな。島に住み着いた精霊が、遊びついでにちょっかいかけてる。今のところ、単独行動は見たことがない」
「重要書類は魔法陣を描いたガラスの箱の中だし、聞き耳を立てている精霊はキールが教えてくれるから、情報漏れはあるにしても最小限だと思うわ」
ソレイユが復活。
ガラスはほとんどの精霊が透過できない物質の一つだ。なるほど、そういう箱もあるのか。
『ころころ様子が変わる人っすねぇ。女心と秋の空とかいうやつですかね?』
海鳥くんが、ソレイユを見て言う。