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第403話 御近所迷惑

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第403話 御近所迷惑

「……そのようなこともございます」

エスでの出来事を大袈裟に――いや、そのまま? 話したディノッソとハウロンを執事がさらりと流す。

「あってたまるか!」

ディノッソが叫んで立ち上がる。

御近所迷惑なんで止めてください。片方はディノッソんちだけど、もう片方は知らん人の家なんです。

「ハラルファとミシュト」

そのディノッソに対し、声を荒げるでもなく執事が言う。

「――うん?」

テーブルに手を置いて、執事に向かって少し乗り出した体勢で動きを止めるディノッソ。

「城塞都市で一度に二柱の神。最初にお姿を拝見したのは緑神カダルでした……」

どこか諦観の笑みを浮かべて執事が言う。

「うっ……」

たじろぐディノッソ。

「川筋が変わったことには少々驚きましたが、今更異国の神が現れたと教えられたところで、インパクトには欠けますな」

どこか寂しそうに見える執事。疲れてる?

固まっていたディノッソがすとんと座る。そして額に両手を当てて肘をついて黙った。

「ちょっと、言い負かされないでよ! 緑神カダルは、風の神の時代だいぶ力を落としたわ。今も続く中原の混乱で秩序の方もダメなのよ? ハラルファとミシュトも火の時代に名前が出始めた神でしょ? 太古の神々と比べないでちょうだい!」

ハウロンが言う。

「え? エスの神々って砂漠化で力落ちてるんじゃないの?」

なんかそんなこと言ってなかったっけ?

「そりゃあ豊穣の神アサス様やエス川を彩るスコス様はね。でも女神エスにどんな影響があったって言うの?」

ハウロンがじろりとこちらを見る。

「えーと、川筋が変わったり?」

俺が今回元に戻したっぽいけど、変わってたんだよね?

「多少はね? でも太古からずっとそこに有ることに変わりはないわ」

「カダルも変わらないんじゃ?」

ちょっと東のほう以外禿げちゃったけど、ずっと森はあるんだよね?

「緑の神は、力が及ぶ範囲を広げることはできるけど、そう強大な力をふるうってことはできないわ。 緑は入れ替わる ( ・・・・・・・・・ ) でしょ。緑神カダルがいつから在る神かは知らないけれど」

あー。なんか俺の中の精霊のカテゴリ「強くなる」「増える」に、新たに「引き継ぐ」みたいなのができた。

「エスの神々がこちらにいらしたとしても、思う様力をふるうことは難しいでしょう」

執事がそう言って、カーンの首にかかる砂の入ったペンダントを見る。砂漠の神ベイリスが休む寝床だ。

我関せずとワインを飲んでいるカーン。

「どちらにいたしましても、エスは範囲外でございます」

視線を戻してにっこり微笑む執事。

「私は範囲内なのよ……」

げんなりしたようなハウロン。

「えーと、じゃあ一番強い精霊ってどんなの?」

ハウロンに聞く。

「強さの種類にもよるけれど、原初の神々ね」

「原初?」

「海、大地、光、闇の精霊と言われているわね。次に火、風・雲。生き物に強い影響を与える精霊のことなら、喜びの精霊や怒りの精霊なんかの感情を司る精霊、息の精霊や眠りの精霊なんかの生きることに直結した精霊とかね」

指を折りながら説明してくれるハウロン。

眠りの精霊には会ったことがあるな。でもそういえば、ジャングルの精霊たちは小さかったけど得体が知れず、すごく怖い思いをした。ハウロンの言う通り、強さには種類があるんだろう。

それに大抵の神と呼ばれる精霊に人間は勝てない。まあ戦いを挑むことってないだろうけど。近い場所にいる精霊には、むしろ生活面でお世話になってる感じだし。

「古さで言うなら、エスは原初の精霊の次くらい?」

「そうね。山とか川とか人が現れる以前からある自然が本体の精霊は、太古の精霊って呼ばれてることが多いわ。こっちで言うとラナウ川の女神とか、グライエ山脈の精霊とか――黒山の精霊は自分のテリトリーに入る人間に必ずと言っていいほど影響を与える活発な精霊ね」

「山の精霊では珍しい。えらい苦労させられた記憶があるぜ」

ハウロンの説明にディノッソが混ざってくる。

「あの場所は特殊でございますな」

執事。

「精霊の道みたいな『あわい』の場所だって言ってた」

黒山ちゃんのテリトリーというか、山全体が精霊の道のような、精霊界と物質界が混ざる『あわい』の場所になってて、 物質界 ( ほんらい ) の場所のどこかにたどり着くのはかなり大変だって。

「……誰が言ってた?」

黙って酒を飲み、話を聞いていたレッツェからの質問。

「黒山ちゃん。人間、あんまり好きじゃないし、面倒だから片っ端から『あわい』にぽいぽいだって」

「ふーん? 噂通りっぽいな。ジーンと契約してる精霊だとしても、あんま近づきたかねぇ」

そう言って、チーズを詰めたチクワをパクリ。

「――契約」

「契約……」

ハウロンとディノッソ。

「レッツェ様……?」

執事がいつもより小さな声でレッツェの名前を呼ぶ。

「これまでの行動と話の流れからするに、十中八九契約してんだろ? これなんだ?」

「白身魚の練り物にチーズ詰めたやつ」

おつまみにチーチク混入。

「レッツェ、お前が精霊見えねぇから落ち着いてるのはわかった、分かったけどよ!」

「ノートより動揺しないのはなんなのよ!!! 普通見えない人って、少しの精霊の助力にもびっくりするでしょ!?」

ディノッソとハウロンが半泣きでレッツェに詰め寄る。

それを眺めながら、食後の紅茶を飲む俺。泣け、喚け! いいんだ、さっき音の精霊にお隣に声が抜けないようにしてもらったから。近所迷惑は回避済みですよ!