第405話 勇者の現状予想
第405話 勇者の現状予想
「大物精霊となんでそうぽんぽん……」
ハウロンが頭を抱えてブツブツ言っている。
「俺が積極的にいってる訳じゃないぞ。最初に会った時は契約を望まなかった精霊も、なんか参加して来てるし。多分だけど、勇者が力をつけてきてるとかじゃないかな?」
俺の魔力が上がったせいかもしれないけど、そこは口をつぐむ。
「勇者が?」
机に伏せていたディノッソがむくりと起き上がる。
「……勇者が力をつけているのは確かね。いくつかの国で、忍ばせていた精霊との契約が切れたそうよ。以前のように、精霊が食らわれた、んじゃなくね。アナタが以前言っていた【支配】の能力かしら?」
ハウロンが表情を落として聞いてくる。
「多分? 俺は勇者の現状なんてどうでもいいんで知らないけど、以前、勇者を守護した光の玉――ナミナが力をつければ、勇者に精霊が見えるようになるって聞いたし。見えるようになったら、片っ端から飽きるまで【支配】をかけるだろうね」
姉はのめり込み易く、飽きっぽい。
こうと定めたら無駄に優秀さを発揮して粘着する。精霊が見えるようになっているとして、自分の力を新しい対象に試しまくっているのか、見た目が好みな精霊に執着して、その精霊を手に入れるために力をつけたか。どちらもあり得る。
「不穏な気配がしますが、その割にシュルムの混乱は聞こえて来ませんな」
執事が食事を終えた食器を下げ、水を張った桶に付けながら言う。洗い物はお任せで。
「姉は相手を落として自分を上げること、自分は手出ししたくないくせに、誰かがやらないのは責めて罪悪感を持たせること。基本この二つだもん、王城で好き放題できる立場なら問題起こらないんじゃ? 自分を良く見せることはすごく上手いぞ」
そもそも今は自分で手をださなくてもいい立場だろうし。
「勇者の顔さえ知らねぇシュルムの庶民に、勇者は人気だとさ」
棚に置いてあるサイフォンでコーヒーの準備を始めたレッツェが、こちらに言葉を投げる。
「力持つ者の望みが名声か」
ディノッソが言う。
「財政や人員が保つ範囲であれば、むしろ下は幸せかもしれんな」
カーンが言う。
「ちょっと自分の元を去ろうとする者を破滅させたり、髪の色が綺麗だとか些細なことで自分より評価された者を追い込む癖があるけど。まあ、直接関わってなければセーフかな?」
「それが権力を持ってるって、えげつないわね……」
ハウロンがげんなりする。
「浅い付き合いだと気づかないだろうし、気づかないまま崇拝していれば平和だろ。――ありがとう」
レッツェが淹れてくれたコーヒーを受け取る。
「結構客観的ねぇ……」
「姉に群がってる奴らに全く興味がないだけ」
ハウロンに答える。
うんと昔には俺が友達と呼んだヤツも、いつの間にか取り巻きの中にいたことがあったけど。高校になってマシになって、大学進学でようやく縁が切れると喜んでたらこっちに連れてこられたんだよなあ。
「前にも話したが、放置で自壊を待つ方向は変わんねぇんだろ。流れてくる庶民の噂程度ならともかく、城の中の噂とか拾って目を付けられねぇようにな」
コーヒーを配り終え、レッツェが自分の椅子を引きながら言う。
「それはもう。シュルムは避けて、関わってる他の国での噂をバレないように精霊に集めさせただけだもの」
ハウロンが肘をついてレッツェを眺めながら言う。
うん、俺もレッツェを見てる。どこでシュルムの庶民の噂を拾って来てるの? 気になるんだけど。
「勇者たちが、シュルムからほとんど移動しないのが救いだな」
ディノッソが眉間にちょっと皺を寄せながら言う。勇者に対しての縦皺なのか、コーヒーの苦さに対してなのか、微妙なところ。
「ジーンの偽物勇者も西で忙しいのか、あれから東には来ないわね」
西はシュルムのある方角、東は魔の森があるここ。
名付けまくった精霊にお願いして、俺の偽物勇者、人形くんが利用しそうな街に近い『妖精の道』の出口を、全部遠いところに変えたり潰したりしてるしね。名付けた精霊がたくさんいる地域限定だから、俺の行動範囲内に限るけど。
「精霊たちに勇者に対する危機感が広がっているのか、それともエスの神々も好むジーンの魔力が強くなっているのか。これからも大物が集まってくることは覚悟をしておいた方がいいようだな」
ざらざらと音がしそうなほど砂糖を入れたコーヒーを手に、カーンが言う。
あえて触れなかった俺の魔力にお触りするのやめてください。
「覚悟も何もその大物と契約しても、ジーンがそれで積極的に何かするってことはほとんどねぇ。どっちかってぇと、【解放】の影響を受けて精霊自身が自分の望みを叶えてるって印象だな」
レッツェが言う。
うん、精霊はっちゃけてる気がする。
「精霊の望みっていうのが人智を超えたところにあるから怖いのよ!」
ハウロンが言う。
「――ジーン様の守護精霊様たちは、光の精霊ナミナがたどるような道に進むことはないのですかな?」
話がループしそうだと思ってたら、執事が聞いてくる。
精霊は、力を極めると石になるという。それが分かっていても、力を――存在を増すことは本能のようなもので辞められないのだそうだ。
「俺は守護が一人じゃないから。一緒に力をつけてけば互いに影響しあって平気みたいだぞ」
途中で勇者召喚を止めたリシュは? 喚んだ直後は弱体化するものの、強大な力を得るチャンスをふいにした。本能に逆らったってことなのだろうか?
ずっと子犬のままなのも不思議だ。執事やディノッソは、俺がリシュを子犬だと認識しているから子犬のままでいると思っているっぽいけど。
残念ながら俺は、力が回復したら当然成長するものだと思ってたんだよ。元がすごく大きかったことも聞いているしね。
絶対今以上に心配かけるから言う予定はない。何かあるんだろうとは思うけど、リシュが俺を好いていてくれるのもわかるし。可愛いからいい。