第407話 黒鉄の竪穴の秘密
第407話 黒鉄の竪穴の秘密
模型でデザインを伝えて、あとは地の民にお任せ。あ、犬小屋は俺が作るよ! 黒檀じゃなくって、杉の芯に近い赤く色変わりしてるとこで。地の民に比較的腐りにくいって教わった。
「水と石の島のソレイユよ」
黒鉄の竪穴のガムリが俺を呼ぶ。島の水路を見せたら、呼び方はなんかこうなりました。
「何だ?」
「度重なる女神の巨木、精霊銀などの提供、そして我らの知らぬ技術の提供。感謝してもしきれぬ!」
「しきれぬ!」
「感謝だ」
「感謝だ」
「感謝」
相変わらず代表者の発言の一部を切り取り、輪唱みたいに後を追って周りがしゃべる。穴倉に響く低い声は、思いのほか心地よい。
「俺も色々作って貰うためだし、気にしなくていいぞ」
「素材の提供は作品で答えよう! だが、技術の提供には技術で!」
「技術の提供には技術で!」
「技術で!」
「技術で!」
会話を続けるには時間がかかるんだけどね! この話し方の形式は、個人からの話ではなく、集落の者たちの総意だと言うことを表しているらしい。
「我ら黒鉄の竪穴は、水と石の島のソレイユに、我ら一族の工房を見せることにした」
「我ら一族の工房を見せることにした」
「見せることにした」
「見せることにした」
「ついてくるがいい、水と石の島のソレイユ!」
「ついてくるがいい」
「ついてゆくがいい」
「ついてゆくがいい」
どうやらそういうことになったので、さっさと背中を見せて進み始めたガムリの後をついてゆく。
進むのはガムリとガムリの補佐なのか、2番目に長いフレーズを喋っていた髭。黒髭多すぎ問題で見分けが難しいんだけど。
細く入り組む洞穴を進む。
「お邪魔します」
洞穴だけを進むと見せかけて、明らかに人んちの生活空間を横切ったりもする。ガムリたちは気にせずズンズン進むんだけど、つい挨拶する俺。ごめんね、一家団欒中邪魔して。
そんなこんなで真っ黒い石の巨大空間。
「ここはかつて地の民が最も栄えた時代の、遺跡だ。昔の我らは地底に王国を築いていた」
「ああ、なるほど」
とてもドワーフっぽいです。思わず納得する俺。
さらに黒い石の通路を進み、下に。
「王国の栄光は失われ、技術も失伝したものが多い。その欠片や 縁 ( よすが ) を頼り、我らは生活している。――さあここだ」
ガムリが重そうな金属の扉を開けると、途端にオレンジ色が目に飛び込んできた。大きなドラゴンの顔の形をした岩、半開きの口の中にオレンジが光っている。
火でもなく、溶岩でもない。ただただ感じる超高熱。
岩でできたドラゴンの目が開く。いや、岩は動いていない。岩と同じ形をした精霊が、そのまま被さるように存在しているようだ。
岩のドラゴンの精霊が、むふーーっと鼻息を吐くと、口の中のオレンジがいっそう強くなる。どこか気怠げで半眼な精霊は、何となく大岩のおじさんを思い出させる。
「これがかつて栄華を極めた王国の遺産。我ら黒鉄の竪穴の秘密だ」
「炉か?」
「炉でもあり、炉ではない。鉄を溶かすが木は燃やさん。実は水と石の島のソレイユに譲られた女神の巨木は、ここでもう一度乾燥させている」
ガムリが言う。
「どうやって運び入れた!?」
加工し易いように材木にした後も結構長かったり大きかったりしたよね!? 島の塔に持ち込んだ時、階段を通れなくって俺が【収納】で運んだのあったよね!?
「水と石の島のソレイユが持つ能力、それと似た効果を持つ秘宝の箱があるのだ」
「収納ボックスみたいなのがあるのか……。バレると勇者とか勇者に狙われるから気をつけてな」
「うむ。水と石の島のソレイユも」
見せてもらった秘宝の箱は、ワインが入ってる木箱みたいな、なんか素朴な感じだった。しかも何の効果もない普通の木箱と一緒に積み上がってた。木を隠すなら森の中だね! 俺に秘宝の見分けつかなかったけど!
せっかくなので、黒檀を放り込んで乾燥させてもらいました。岩のドラゴンは結構大きいんだけど、巨木の方が大きくって、丸太のままとはいかなかったけど。
「へえ。不思議だ」
燃えもせず、ただただ高温で乾燥してゆく。歪みなく、木目が詰まり縮む。
「断熱性も高くなる。大気の水から受ける影響も少ない、木が縮んだり膨張したりはごく僅か。大変いい!」
ガムリが言う。
大気の水ってあれか、湿気か? こっちでなら材木が膨れたり縮んだりしないのはいいことなんだろうな。扱い易いし。
木の膨張収縮で思い出すのは正倉院の 校倉造 ( あぜくらづく ) り。以前は気象条件に影響されて、木が痩せたり膨れたりすることで隙間ができたり閉まったりして、室内環境の調節をする説が流れてた。室内外の環境観測で因果関係は否定されたけど、なんかロマンを感じている俺がいる。
でもこの黒檀の大部分は、砂漠のわんわんハウスになる予定なので、湿気とか関係ないね! いや、エスがだばだば川の流れと一緒に来るからあの中は湿気るのか?
……地の民オススメの、超高熱加工した黒檀だから痛むことはないと思うけど、ちょっと石のブロックを持ち込んで、その上に設置しよう。