第486話 修繕
第486話 修繕
塔の外、薔薇の棚の下で寝ているソレイユを眺めながらお茶。なお、薔薇の棚の下でソレイユが寝ているわけではない。
水の溢れる塔から俺の塔まで続く 飛梁 ( とびばり ) みたいな 樋 ( とい ) 。そこから霧のように落ちてくる水滴と薔薇の落とす影で、ずいぶん涼しい。
影 ( そこ ) から日向に寝ているソレイユを眺めつつ、アウロの淹れてくれたお茶を飲む。ハーブティーなのかな? 苦手な部類なんだけど、このお茶は香りも味もいい。
そして小さな精霊が香りにつられて寄って来ている。臭いではない、匂いだ。ディーンの精霊とは違うのだよ、ディーンの精霊とは。
――こうして人間はものの良し悪しを勝手に決めるのだ。
「こちらはパメラが調合した香茶です。体に溜まった過剰な熱を取る効果があるそうです。通常のお茶より早く冷めてしまうそうで、できればお早く」
実際に精霊が寄って来てるからそうなのだろう。
香りに寄せられて、丸い半透明の精霊が2つ3つ集まっている。お茶の水面に触れるか触れないかをゆっくりと飛び、お茶でない何かを吸い上げて色を濃くする。
アウロの話からすると、たぶん熱なんだろう。熱をご飯にする精霊もいるんだ?
2つ3つが吸い上げた後は、他の同じ精霊が寄って来ても、お茶からすぐ離れていくんで、一定以上の熱さがないと嫌なのかな? 香りと熱が揃った時に顔を出す精霊らしい。
「いい匂いだな」
俺よりソレイユに必要な気がするけど。きっと人の体の火照りも奪ってくれる。
ファラミアが用意したクッションに顔を埋めたソレイユは、同じくファラミアが用意した日傘で上半身が隠れてはいるものの、陽の真ん中に寝そべっている。
熱中症は大丈夫ですか?
「こう、気になるし、室内に連れて行かないか?」
「気持ちの整理をつけるための儀式の側面があります。ソレイユ様は、あの状態で人に触れられるのを好みません」
ファラミアが無表情に淡々と答える。
「儀式……」
ソレイユ中心に、魔法陣の落書きしていい?
「今回は長くなりそうだな」
すました顔のキール。
慣れすぎじゃないか? チェンジリング、色々なことをスルーしすぎ!
「で? ドラゴンの始末は?」
キールが相変わらず不機嫌そうな顔でぞんざいに聞いてくる。一応、防衛関係には真面目なんだよな。
「ナルアディードにも飛んでったから、そっちに押し付ける方向で」
なんか入念に全部の窓覗いてくれたっぽいし。
「ナルアディードでも大変な騒ぎでしょう。ドラゴンがこちら側の人の住む地に降り立ったことはありません」
アウロが言う。
ナルアディードにも着陸してもらうべきだったか! いや、あそこ着陸できるところない!
「そういえばうちの被害は?」
「城壁の一部が破壊され、石畳及び、広場に設置していた防衛のための幾つかがダメになった」
キールが眉間に皺を寄せて話す。
あふん防衛は一回リセットして作り直す方がいいと思います。
「錯覚、視線の誘導から始まって、木陰に身を隠す者に必ず魔法陣を踏ませるような配置。チャールズの庭はよく整えられていただけに、あの被害で大幅にバランスが崩れた」
そういえば、見た目だけじゃなくってそっちにも配慮されてたっけね。
「ソレイユにドラゴン素材を売ってもらって、そのお金で修繕しようか」
「――金は腐るほどあるから心配するな」
そんなにあるの?
「我が君、庭も魔法陣も一番金がかかる場所は我が君の配下が努めますので」
笑顔で答える。
「修繕用の普通の石材を運んでくる方が、時間もかかるし手間だ。石工が、彫刻だかに使おうとしていた建材を修理に回して、すでに作業は始めさせているが足らん」
ファラミアがそっと扇いで、ソレイユに風を送るのを眺めながら話す。
「修理の間、防御の人手を増やしますのでご安心ください。水路にも被害はございませんし、生活には支障ございません」
アウロが俺のカップのお茶を入れ替えながら言う。
「支障はないが、ドラゴンとはいえ、簡単に侵入されるのもな。人と精霊への対策はしていたが……」
考え込むキール。
敵は何を想定してるんだろうか。島の防御力が天井知らずに上がっていってる気がする。なんかこう、地下避難所とか作り出しそうだな?
結局ソレイユがなかなか起きないので、戸板みたいなのに乗せられて運ばれて来ました。