LNCrawler

第500話 将来性

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第500話 将来性

「契約した商人の名前はなんと言うのかしら?」

「名前……。茶色さんって呼ばれてた」

チャ=トラとかこう、そういう名前かもしれない。

「……」

ソレイユが両肘をついて、額を重ねた手につけた。

「絶対キャプテン山羊よね?」

「え?」

山羊船長!?

「猫のほうです」

山羊じゃないです。

もしかしてこの世界、船長って動物なの? え、海運ギルドの長ってパンダか何か?

「ほうって何!? 精霊の呪いで猫にされてるけど、キャプテン山羊は外海の航路を3つも開拓した偉大な船長よ!」

がばっとこちらを見て叫ぶように言うソレイユ。

山羊……っ! いや、待て。冷静になれ俺、これはきっと【言語】さんが何かしている。芥川龍之介が芥川ドラゴンとかになってる気配だ。――あ、ゴートか。山羊だな?

おそらく俺が猫船長のことを猫――動物だと思って聞いてたから、翻訳事故が起きた模様。

思い込みはよくないね、話が通じなくなる。人の話は偏見を持たずに聞かないと、誤解が生まれる。

「そんなに有名なんだ?」

「とても有名よ! 猫になってからは少し落ち着いたけれど、キャプテンゴートがナルアディードに寄港した時なんか、島が沈むかと思うほど人が来たわ」

猫船長、すごいな? ソレイユが島が沈むというが、ナルアディードは半分――は言い過ぎかと思うけど、広い範囲が海に杭を打って埋め立ててできている島なので、ありえるから怖い。

「まあうん、そのキャプテンゴートがメール小麦をほかの船と一緒に運んでくるから、受取よろしく」

「ほかの船と……。キャプテンゴートの全盛期はガレー船と帆船で5隻を超える船団だったはず。今は、商船を何隻か手放して身軽になったと聞いているけれど、キャプテンゴートの船以外もなのね? 何隻くらいくるの?」

「大きい船11隻かな? 小型商船もあった気がするけど」

メールの港に泊ってたのがそれくらい、その中で取引に向かない人もいるかもしれないし、修理に時間がかかる船もあるだろう。

猫船長の船は一隻は壊れて修理の部材になっている。大きな船は小回りがきかないから、それを守る小型船が商船団に混じることもしばしば。大抵は海賊が出没する外海に向かう船たちだけど。

「船が運べるのは船の数だけと言っていたけれど、メール小麦はそれ以上あるってことなのね……。値崩れ、値崩れが」

「今回は事故がない限り船が運べるだけでいいんじゃないかな?」

魔物と事故ってソレイユが契約した分届かなかったら、当初の予定通りエスあたりまで俺が運ぶつもりだけど、量の誤魔化しに無理があるって、ハウロンからも猫船長からも指摘されたことだし、なるべく船で。

「契約の時に出てきた精霊が、航海を守ってくれるって約束してくれたし、無事に着くと思うけど」

あのイルカとマッチョな髭のどっちが働いてくれるのかわからないけど。いや、眷属の精霊に通達してくれる感じなのかな?

「また出たのか」

「契約者にチェンジリングでもいましたか」

「……害虫みたいに言わないで。契約の時に精霊が姿を現すことは、吉兆なのよ。長年商人をやっていても一度あるかどうか。……もう何度も見てる気がするけれど、とても稀なことなの」

キールとアウロの言葉を聞いて、ソレイユが弱々しく言い募る。

「契約と言えば、エスの先の国との契約どうする? 連れてくる?」

ソレイユは口約束は好まないので、契約書を作ることになるはず。

「国の規模はどのくらい? どの立場の人を連れてくるつもりかしら?」

「国はまだ人が少ないかな。連れてくるのは立場的に王様か宰相っぽい人?」

――ハウロンって役職何になるんだ?

「なるほど。できたばかりだって言ってたし、まだ財務や交易を仕切る人もいなくて、二人で切り盛りしてるのかしら?」

「うん。優秀な人を何人か引き抜いたみたいだけど」

「村が独立したようなものか」

「周囲の勢力の庇護が受けられず、やむなく独立というパターンと、周囲の思惑で緩衝地帯代わりに作られた国のパターンでだいぶ違いますが……」

キールが簡単に片付け、アウロがよくあるパターンっぽい国興しの例をあげてくる。

「亡国の復興、周囲に砂と川しかないパターンだな。建物はあるけど」

「それはまた……。貴方が肩入れしているならどうにかなるでしょうけれど、国として成り立つかどうかは謎ね」

ソレイユが微妙な顔で首を傾げる。

「王の枝がいるぞ」

「ちょ! それを早く言って! これから発展する国との取引――どんな儲けができるか!」

手を組合せて立ち上がり、あらぬ方角を見ていい笑顔で目に星を輝かせる。

「見たことのない上機嫌!」

「ソレイユは高く売りつけるのも好きだが、商売の方法を考えるのはもっと好きだ」

キールが表情を変えないまま言う。こうなるのが分かっていた風だ、さすが付き合いが長い。

「我が君、新しき王の枝との出会いに言祝ぎを」

「ありがとう?」

古い王の枝ですが。