LNCrawler

第505話 海の色

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第505話 海の色

翌朝、島によってアウロが手配してくれた食料を受け取る。レモンの砂糖漬け、ドライオレンジ、干しリンゴ、ドライトマト、干し肉。

「昨日の今日でよく集められたな」

猫船長たちへの差し入れです。レモンの一部と、干し肉とリンゴはナルアディードで買ったやつ、それ以外は島と飛び地産。

一応他の船にもぎりぎり分けられる量。他の船に配るかどうかは、猫船長の判断で、猫船長からってことにしてもらうつもりだ。

船を大破させたってことは、食料も海の藻屑にしてる可能性が高い。そうじゃなくても修理で想定外にメールの地に留まることになっている。たぶんご飯足りてないと思うんだよね。

俺が作った料理を差し入れるにはさすがに相手が多すぎ問題。量的にじゃなくって、対象が多いと話がどう転がるかわからないし。俺のことをしゃべらないように、契約でしばっちゃったあとならいいのかもしれないけど、本当に漏れないものなのかちょっとドキドキするしね。

猫船長の船からいきなり大量に食料が出てきたら疑われるだろうけど、かといって腹をすかせてるだろう船員を放っておくのも気分が良くない。というか、最悪メールを食料目当てに襲うこともあるんじゃないかと心配してる。

俺は猫船長以外の他の船の人たちを知らない。それに猫船長だって、自分の船員が飢えで死ぬかどうかの瀬戸際とかになったら苦渋の決断するかもだし。

――返り討ちで全滅すると思うけど。

蓋を開けてみたら、食料は足りてて船に余分なものを積むスペースはないって断られるかもしれないけど。それでも壊血病のことを考えれば、いくつかは受け取ってくれるだろう。

「ナルアディードで手に入らないのはございません。いえ、最近はこの青の島のものを手に入れようとナルアディードでも四苦八苦しているようですが」

にっこり笑うアウロ。

ナルアディードで集めた食料は、島に建築資材を運ぶはずの船に乗せて、最優先で運んできたらしい。

「ありがとう」

結構大変だったんじゃないかと思う。

「些細なことでもどんどんお申し付けください、我が君」

いい笑顔で優雅にお辞儀をしてくるアウロ。

「じゃあ行ってくる」

いまだに慇懃に接してくるアウロに落ち着かない気分になるので、お礼を言って退散。

――で、カヌムにハウロンとレッツェをお迎え。

メールのことを知っているハウロンが提案したのか、今日はレッツェも随分薄着。空気をはらみ、そして抜けるゆったりしたズボンに上着、これエスで買ったやつかな?

「こう、なんで俺が」

「ギルドに依頼出したでしょう? 付き合ってちょうだい、私の心の安寧のために!」

レッツェはいつもの通り朝早くから冒険者ギルドに行ったら、指名依頼がきてたんだって。ハウロンから。

「カイナからは泣く勢いで受けてくれって頼まれるし、大賢者様の名前は伊達じゃねぇな」

「ハウロン、 姑息 ( こそく ) 」

俺もレッツェの隣で一言。

「なんとでも言ってちょうだい。絶対、絶対に今日の私にはレッツェが必要なの! というか、アナタがそっち側なのはどういうことなの!?」

「一番ここが安全だもん」

絶対領域ですよ。

「アナタにとっての危険って何!?」

「危険というか、その前の段階で変なことに巻き込まれないだろ」

危険は事前回避が基本ですよ、基本。

「アナタがアタシをその変なことに案内しようとしてるのよ、今! まさに!」

一言一言に力を込めて言うハウロン、朝から血圧が高そう。

「おい、行くなら行こうぜ。言い合いしてると昼になる」

呆れたようにレッツェ。

「はーい。じゃあ【転移】するぞ」

「我が一族の秘術……。もっと進化させたら、便利、便利なのよねぇえええ」

ハウロンは俺の【転移】で移動を重ねるごとに、複雑な心境らしい。

ハウロンの行う【転移】は、転移先に魔術的な目印を置き準備してなお、魔力をごっそり持っていかれるらしい。あと、その目印の場所にしか行けなくっても、すごく便利だと思ってたのに、俺が事前準備なしにどこでもホイホイと【転移】するもんだから、今までの【転移】は……? ってなるんだって。

落ち込むのと、【転移】の最終形態はこれかと目指す気持ちと、色々ないまぜでどうしてもうめくらしい。たぶん自分で一族の【転移】を、俺の【転移】レベルに持っていけない限り、うめくのは止まらないからほっておいていいと言われている。

俺も事前準備はしてるんだけどね、精霊に名付けて【転移】できる先をせっせと広げる地道な努力を。机に突っ伏すハウロン相手に言おうか迷ってたら、口を開く前にレッツェに回収されたけど。

「うを、眩しいな」

メールの地に到着したとたん、レッツェが目の上に手をかざす。

俺もちょっと目が眩んだ。本日のカヌムは曇り、さらに薄暗い部屋からの移動となると、けっこう差が激しい。出たのは港の近くの海の見える場所、メールの街の外だ。

「あー。北の海と色が違うな」

碧と青を混ぜたような透き通った海。しげしげと眺めるレッツェが言うように、黒っぽい北の海とはだいぶ印象が違う。

「やっぱ、見るのと聞くのじゃ違うな。基盤がない土地じゃあんまり役に立たねぇかもしれないが、来てよかったよ」

レッツェが笑う。

「何よりだわ」

「何よりです」

思わず並んで頷くハウロンと俺。