第508話 ハウロン休憩中
第508話 ハウロン休憩中
「ハウロンがこうなることは予想がついたろ」
レッツェが突っ伏しているハウロンに目を向けながら、ため息をつく。
確かにレッツェはともかく、ハウロンは叫んだり倒れたりするかなーとはちょっと思った。同時にレッツェがいれば大丈夫だとも思ったんだけど、そうか、人前だとフォローに限界あるんだ。というか、人前だと叫ばないんだ?
カヌムに戻るなりハウロンは机に突っ伏してピクリとも動かない、気力を使い果たしたようだ。叫ばないとこうなるんだ?
「お前、忘れてるかもしれねぇが、俺と違ってハウロンはお前の能力なんかのことを話さない、予想をさせるような行動をしないってぇ誓文で縛られてんだ」
「あ。そういえばルゥーディル出たね」
ちょ、ほっぺた、ほっぺたの解放を求めます!
「猫が聡すぎてやばいってのもあるんだろうが、精霊王なんて想定外の話を持ってこられると動揺するだろうが。ちゃんと前振りしとけ」
「はい」
猫船長の「どんなモノか知ってるってことだな」、というのと「契約の時なんか出てくるのはデフォなのか」というので、もしかして精霊から何かペナルティを貰っている、のか?
「ハウロン大丈夫?」
「……心身ともにダメ」
ダメだった!
「とりあえず、昼。温かい小鍋にしようか」
後で誓文、解こう。
島に行ったらソレイユと二人、大変なことになりそうだし。そう思いながら遅めの昼をテーブルに出す。
「ハウロンのことはカーンがいることだし止めねぇが、すぐに信頼して縛りをゆるくすんのは自重しろよ? その前に沈黙の誓いがあるからって、契約相手にほいほいバラさないこと」
そう言ってレッツェがお茶に手を伸ばす。
「はい」
ハウロンの誓文を解こうとしたの、なんで分かった!?
顔、顔なのか? もしかして、ほっぺたがレッツェに寝返って情報を渡している? いや、さすがにそれはないけど。
人数分の小鍋は、焼き葱と豚バラならぬ猪バラ。豆腐とキノコも入ってるけど、葱が主役な感じ。他に茶碗蒸しとほうれん草のお浸し。
「美味いな。葱に沁みた脂が甘い」
「うん、いい具合。しつこくない脂だよね」
突っ伏したハウロンの横で、小鍋をつつく俺とレッツェ。
「……魔石、ちょうだい」
突っ伏したままハウロンがこちらに手を伸ばす。
「ん? 魔石?」
【収納】から取り出して、適当な大きさの魔石をハウロンの手に載せる。
赤黒いけど、陽に透かすとオレンジ色が炎のようで綺麗な魔石だ。その魔石をぐしゃっと握りつぶすハウロン。握力いくつ!?
さらさらと指の隙間から、形と色を失った魔石がこぼれ落ちる。
「はー。とりあえず魔力枯渇からはギリギリ回復できたわ」
むくりと身を起こすハウロン。
「枯渇してたの?」
「キャプテン・ゴートが気づいた時点でごっそり持ってかれたわよ。よかったわ、そのものズバリな秘密がバレたんじゃなくって。それに、ペナルティが猫になる呪いとかじゃなくって」
深いため息をついて、お茶を飲む。
「あんた、誓文に保険かけてたな?」
「項目を増やした時に少し、ね」
レッツェに向かって肩をすくめてみせるハウロン。
「と言うわけで、誓文や契約も万能じゃないから油断しないようにね」
今度は俺に向かってウィンク。
「さすが大賢者、汚い」
「保険かけたのにルゥーディル様がお出ましになったせいで、たいして効いてないのだけれどね」
小さなおたまを手に取り、小鉢に具を掬い取る。
ハウロンは猫舌らしく、少しずつ冷ましながら食べる。
「あら本当、肉そのものより葱とキノコが美味しいわね。この白いのはトウフだったかしら?」
「うん」
『食糧庫』の豆腐だ。
大豆も作ったんでそのうち豆腐も手作りにチャレンジしよう。大豆も広げたいんだけど、カヌムも島も大豆が育たない。
大豆とかの豆科と共生してる 根粒菌 ( こんりゅうきん ) を先になんとかしないといけないみたいだけど、生憎『食糧庫』には根粒菌なんてなくってですね……。俺の『家』の畑は、精霊頼みでなんとかなっちゃったけど。
「でもちょっと物足りないわね、パンをもらえるかしら?」
「具を食べ終えたら雑炊にするから」
鍋と言ったら最後は雑炊とかラーメンとかうどんとか。今回は洗って粘りを落としてさらっとさせたご飯投入、卵投入!
これがまた美味しい。ふわっと表面に混ざった卵、溶け出した脂と焼き葱とキノコの旨味、幸せ。
「ジーンがお米作りをリクエストしてくる気持ちがわかるわ」
ハウロンもけっこう和食を気に入ってくれている。レッツェの次くらい?
アッシュも俺が出したものは構えずに食べてくれるけど、ワインと肉みたいなこっちの世界でオーソドックスなものの方が落ち着くみたい。かわりに甘いものは幅広く喜んでくれるけど。
「で? 別件ってなんだ?」
レッツェが茶碗蒸しを食べながら聞いてくる。