第512話 嘆きの原因
第512話 嘆きの原因
『は〜。ゆだりそうです、カメ鍋になっちゃいますかねぇ』
『カメ鍋……』
南国の島で、甲羅の大きさに地面に穴を掘って、そこにカメをあおむけに入れる。それで、その白い腹の上でたき火を始める料理がこう……。鍋というか甲羅焼きというか。精霊も煮込まれるの?
いや、そんなことを思い出している場合じゃない。
カメの甲羅の上にドーム型の空間がある。これはカメの鼻から漏れる気泡からできていて、尻から生えた 蓑 ( みの ) みたいなものから漏れて入れ替わっていく。多分このドームで守られ、陸地並みに呼吸ができる。
なぜ「多分」かというと、俺はさらにウフとその同族が作った膜の中にいるから。カメに乗るにあたって、少し小さくしたけれど深海の水の冷たさも、火の精霊の起こす熱さも遮断する。もちろん水圧もね!
ウフは製作者だからか、取り込んでいる空気と同じ大気の精霊だからなのか、その空気の膜を貫通してくるけど。
海の中に入って大丈夫なのかって思ってたけど、全く平気。海水にだって大気は溶けてるからかな。……ウフ、思ったより強大な精霊だったりする?
それは置いといて。
ウフにお願いしてカメも包んでもらう。
『は〜。楽になりました。さすが南天を統べる大気の精霊ですねぇ』
『南天を……』
『うふ』
『は〜。あのままいったら、火の精霊の影響で別なモノになるところでした。私、 内海 ( このあたり ) 一帯の海に引き込まれる砂粒の精霊ですが、海底の岩の精霊とかになっちゃうところでしたねぇ』
『砂粒!?』
水陸両用の何かの精霊だとは思ってたけど、なにその砂って。
ウフも南天? それはどこからどこまでのことなの? 情報過多なんだけど。
『お礼に坊ちゃんが望むところに砂粒の精霊を集めますよ? 海から離れられませんがね。赤白黒、望みの砂浜を坊ちゃんの足元にお届けします』
赤なんかあるの? いや、鉱物の色はさまざまだし、当事者が言うならあるんだろうけど。
『その時は貝とかカニとか色々住める感じで頼む』
今も淡水と海水が交わる汽水域があるせいか、海産物は他の島に比べて種類は豊富なんだけど、狭いから量はお察し。もう少し砂浜が広くても――引き潮の時にもう少し砂浜が海の方まで続いていてもいいかな。
『砂に潜む貝か〜』
すごく楽しそうなエクス棒。
ただつつくだけじゃなく、当たり外れというか中に何かあったりいたりするととても喜ぶ。俺もその方が楽しい。
話している間もどんどん穴に潜ってゆく。
『……ンの馬鹿〜〜〜〜っ!』
叫び声と共にぼこぼこと気泡が上がってくる。海水が揺らいで見えるし、たぶん結構な高温。その上がった気泡がカメを掠めてゆき、見えなくなる。俺たちを包む空気の膜に沿って、つるんと滑っていった感じ。
『修行なんて絶対嘘〜〜〜〜〜っ!!!! 私のこと綺麗に溶かしてくれる約束だったのに!!』
穴の底、なんか黒に近い焦茶の丸いのが叫ぶ度、オレンジ色に発光するのが見える。見えている上の方は長者饅頭みたいにひび割れて、結構でっかい。
色と形的には黒糖饅頭かかりん糖饅頭か……。ひび割れタイプのかりん糖饅頭かな?
『あれが原因?』
『は〜。そうじゃ。あれが穴を掘って埋まりながら、ずっと叫んどるんじゃよ』
穴を掘るというか、叫んでオレンジになる度にズズズッと潜ってゆく。くっついてる下が溶けてる?
『とりあえず話しかけてみるか。えーと、そこの丸いヒト、ちょっとお話が……』
『今頃きっと、とびきり溶けやすい火山といちゃついてるぅ!!!!』
火山といちゃついてる……。やばい、規模が違うというか、習慣が違うというか、感覚が違うというか、どう受け取っていいかわからない。どうしよう、どうしたらいい? しかも叫んでて、こっちに気づいてない!
『つつく?』
『うん、つつこうか』
王の枝は木の精霊の系譜。普通は火に弱いんだけど、火の精霊を配下におけばある程度平気になるようだ。 火の精霊 ( カーンたち ) の時代、松明みたいに燃え続ける枝を持つ国があったって。
俺も無節操に来るもの拒まずで名付けてるんで、火の精霊もたくさん。エクス棒もだいぶ強化されてるはず。じゃなければ、つつくなんて言い出さないだろうし。
『すみません』
そういうわけで声をかけながら、エクス棒に魔力を通してそっと丸い物体をつつく。
だがしかし、反応なし。まあだいぶでっかいし、少し触ったくらいじゃ気づかないのかも。
『ヴァンの馬鹿〜〜〜〜〜っ!!!!!』
『ヴァン!?』
知ってる名前が飛び出した!
『う?』
俺の声にかりん糖饅頭が揺れた。
『俺の知ってるヴァンなら、本当に修行だと思うぞ?』
どうもなんか可愛さ一番でリシュが勝った時、誰かに負けたみたいだし。
『ヴァンを知ってるの?』
『力と火の属性、破壊と再生。外見は黒髪の 偉丈夫 ( いじょうぶ ) 、人間には神と呼ばれている』
神という単語は人間が呼んだもの。呼ばれた精霊も影響を受けてそう名乗ったりするけど、精霊の中ではどういう位置付けなんだろ?
とりあえず呼び方はどうでもいいとして、可愛さを磨いてるとか、その方向の修行ではないはず。ついでに火山といちゃついてもいないと思う。