LNCrawler

第513話 かりんとう饅頭は沈みたい。

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第513話 かりんとう饅頭は沈みたい。

『私の知ってるヴァンな気がするわ。会ったことないけど』

……?

かりんとう饅頭の言葉が頭の中に入ってこない。どういうことだ?

『お付き合いしてるんじゃ?』

一体どういうこと? 会ったことないまま許嫁とか? 文通、文通なの? ネットゲーの嫁? こっちの世界、ネットないけど。

『うううん?』

かりんとう饅頭が身じろぎする。

身じろぎすると、ひび割れのオレンジから気泡がぼこっと出て、陽の届かない暗い海を登ってゆく。

『は〜。溶岩の精霊さんには、沈むタイプと登るタイプがいるんじゃよ。こちらさんは沈むタイプですかねぇ』

カメが言う。

『沈むタイプ……』

どんなタイプだそれは。

『うふ』

『生まれたては燃える石の精霊だったのよ? でも気づいたらこうなってたの。ずっとずっと蕩けるように熱いところにいたのに、引っ張り出されてたし』

えーと火と石で溶けてたってことは溶岩でいいんだろうけど、熱い場所ってマグマ溜まりとか? マントル対流に乗ってたとか? マントルってカンラン石だから緑色なの?――って、軽く混乱してるな俺。

なんか火山といちゃついてたのは冤罪みたいだし、ヴァンはこのさい置いといて。

『沈むのは元の熱いところに戻りたいってことか?』

『そうよ。あの熱い場所に戻りたいの。ここは寒いし』

何かのきっかけでうっかり地表というか海の中に出ちゃった感じなのか。

『えーと、元の場所に戻るのって手伝える? 正直、ここで生まれる精霊の影響で、地上がけっこう大変なんだ』

俺はあんまり実感がないけど。なにせ『家』はちょっと不思議な山の中、精霊が集まりすぎてちょっとどころじゃなくなってる気もするけど。外の拠点は山脈を越えた先のカヌムと、冷たい水の湧く島。

マリナにある飛び地がカラカラだったけど、ズルをして、朝夕にちょっとだけ雨を降らす精霊に魔力をあげて、とりあえずなんとかなってる。畑は乾きに強いトマトにしたしね。

『そうなの? 私も私の体がなくなっちゃう前に戻りたいの。頑張って沈んでるけれど、たまに爆発したくなっちゃうし。爆発したら大きくなれるんだけど、また登っちゃう』

爆発……。噴火しか想像できないんで勘弁してください。

『えーと。魔力を渡せば手助けになる?』

『それよりヴァンが私以外の誰かといちゃついてる話をして?』

な ん で ?

『うふ?』

『は〜。沈むのと登るのは気分です。気分が大事なんで、爆発しつつ落ち込みたい乙女心を汲んであげてください』

俺がよっぽど変な顔をしていたのか、カメが解説してくれる。でも話が難しくって理解できません。ここはレッツェを呼ぶ? ハウロンの方がいい?

『ヴァン、呼んでいい?』

もういっそ本人を。

『ダメ。私の理想と違ってたら困るもの。時々他の精霊から入ってくるヴァンのイメージが崩れたら泣いちゃう』

……。

『は〜。私の経験上、この方達は泣くと体が乾いて、乾きと熱を宿した気泡がたくさんあがります。――大昔の清く美しい思い出と一緒に、白化した珊瑚も思い出しますねぇ』

って、カメ! まさか他の溶岩と付き合ってたことあるの? 海底火山かなんかですか?

『わははは! ご主人の魔力をやったら、一発で爆発しそうだけどな!』

エクス棒、それが一番困るんですよ!

『ちょっと助っ人呼んできていい? 【転移】で、 カメの背 ( ここ ) に戻ってくるから、このままいて』

そう言い置いて【転移】する。

カヌムの家、一階に【転移】。待たせるのもなんなので、家を飛び出し、借家に走り込む。

「おや、どうしたんだい?」

「珍しく慌ててんな」

借家の一階で寛いでいたのはクリスとディーン、ハウロン。

「まさかセイカイの頼みがらみ? 上手くいかなかったの?」

ハウロンが心配顔で聞いてくる。

これ、ハウロンは俺の海中散歩の報告待ちでここにいた疑惑。

「まだ途中。クリス、手が空いてたら一緒に来てくれるか?」

カメの背は狭いのだ。

「ジーンの頼みならきくとも。ただ、私より大賢者……ここはどこだい?」

「海の底からさらに少し潜ったところ。ごめん、待たせてたから急いだ」

『うふ』

ウフは喋れないのもあって、俺にしか聞こえない声。

「は〜。ようこそ人間、我が甲羅の上に」

カメのほうは人慣れしているようだ。

精霊は個々で時間の感じ方が違う。古い精霊はゆっくりなことが多いけど、万が一、10分が2時間くらいに感じるタイプの精霊だと厄介だからね。

「急いでるなら説明は後で聞くよ。私はどうしたらいいんだい?」

「ヴァンの 捏造 ( ねつぞう ) 恋バナを熱く語ってくれると嬉しい」

恋愛話は俺にはハードルが高い。

クリスに棒でも飲み込んだような顔をされた。俺が悪いんじゃないんですよ? カメの背にはディーンとハウロンはちょっとデカすぎるだけで。