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第581話 食の好み

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第581話 食の好み

エシャとの短い会話をハウロンに話す。

「火の国って言ってたから、たぶんだけど。それと別にそう呼ばれる国があった?」

たぶんもなにもエシャを守っている火の精霊と砂の精霊。弱々しいけれど、古い精霊たち。火の精霊はともかく、砂の精霊はベイリスの気配がしたので、国の呼び名はともかくカーンの国と縁があるのは確定だと思っている。

「火の国と呼ばれる場所はあったわ」

「……残念」

中原は木々は少ないものの、草の類が大地を覆っている。勇者を守護した風の精霊が栄養豊かな土を運んでいた名残で、今もまだ残された眷属たちが習慣みたいに運んでいる。

その規模も随分と狭く、薄くなっていっているようだけれど。それでも一面の麦畑や、牧草の草原をそこかしこに見ることができる。

それにたぶん、エシャが移動してきた時代はもっと木が生えてたと思うんだよね。風の時代の前、中原では木の時代だったはずだし。

緑の国ティルドナイ。砂に囲まれ他に緑が少なければそう呼ばれるのもわかるけれど、さらに緑豊かな中原で呼び名が変わったのかと思ったんだけど、どうやら違ったようだ。

「火の国が大きくなりすぎて分裂して、また一つになったのがティルドナイ王国よ。そして王国が滅んで、かろうじて残った都市がエスね」

「ああ、エスにも民の末裔がいるって言ってたもんな」

中原だけじゃなく、エスからも住民のスカウトしてるよね。

「エスはもともと異民族の多い都市で、火の精霊の信仰ももちろんあったけれど、母なる川エスへの信仰のほうが強かったの。だから火の国の正統は、ティルドナイ王国で途絶えたと言われる……」

今まで見たり聞いたりしたかんじだと、火の精霊に限らず、時代の名になるような強大な精霊が消える時、影響下にある国がまっさらになっている。エスは火の精霊以外の――エスたちの影響の方が大きかったのだろう。たぶん。

「ああ。じゃあ、火の国ってカーンの国であってるんだ?」

今度は砂漠の精霊ベイリスを信仰する国になるんだろうか。あとエスとかアサスとかわんわん。いや、シャヒラという国名からして、王の枝がそのまま信仰の中心になりそう。

とりあえず自爆が約束されてる光の精霊信仰じゃなければいいと思います。

「おそらくは。でも、『砂に埋もれた』なんて表現、砂漠に廃棄された町にも使われるし、はっきりしたことはエシャが移動した時代がいつ頃か調べないと……」

そわそわしてるハウロン。

「調べて、ベイリス連れてエシャと会ったらいいよ。――ご飯食べる?」

しっかりした裏付けと確認はハウロンの仕事。そして迎えに行くのはカーンとハウロンの仕事。俺は情報をもたらしただけ。無関係な俺が挟まるより、お互いその方が心情的にいいだろう。たぶん。

「食う」

黙っていたレッツェがそうひとこと言って、俺の頬っぺたを伸ばす。

何故!?

「もう今日は遅いから調べるのは明日の話よね。アタシにもちょうだい」

落ち着かなかったハウロンが、大きく息を吐いて座り直す。

「はい、はい」

どうしようかな。英国風にしようかな?

フィッシュアンドチップス、シェパーズパイ、豆を煮たのとサラダを付け合わせにしたローストビーフ。ワインとオレンジジュース。

サラダには、ゆで卵の黄身とマスタード、生クリームなどを混ぜたとろっとしたサラダクリームのドレッシングでイギリスプッシュ。

ディーンやカーンがいれば、がっつりステーキもつけるんだけど、レッツェとハウロンだし。

「これ、上に載ってるのなんだ? ずいぶん滑らかだが、グラタンのじゃねぇよな?」

レッツェがシェパーズパイを口に運んで聞いてきた。ホワイトソースじゃないです。

「じゃがいも。中のはマトンのひき肉だよ」

マッシュポテトは生クリームを入れて滑らかにしてある。

「ああ、じゃがいもってこんな料理もできるのね。シュルムの貴婦人が喜びそうだわ」

「喜ぶんだ?」

じゃがいも人気ですか?

シュルムにはトマトも入ってそうだけど。

「こっちじゃ肉を豪快に噛みちぎるのがステータスだが、あっちは一周回って噛まずに食べるのがマナーだとよ」

「は?」

流動食?

教えてくれたレッツェもなんかちょっと嫌そう。旱魃で暑かったから冷えたゼリーが流行ったとかそんな感じ? 謎すぎる。

「前からちらちら聞いてたけど、『噛み砕く』というのが獣のようだと忌避されてるの。どうせ長くは続かないでしょうけど。このお肉、柔らかいわね? 薄いのに肉汁がでて、ソースに混ざっていい味だわ」

ローストビーフを食べながらハウロン。

「ま、俺たちには関係ねぇな。他の国のわかんねぇ料理より、目の前にある料理のほうが断然美味いしな。――目の前の料理もわかんねぇの多いが。こっちの白身の揚げ物はどっちつけるんだ?」

レッツェの視線の先には二つの小皿。

「好みでどっちでも。タルタルソースとお酢だ」

俺はお酢をつけたあとにタルタルソースもつける。

「フライドポテトも熱いうちよね。――じゃがいもも随分広がってきてるけれど、まだ茹でてパンの代わりに、のパターンが多いわ。はやく戦が落ち着いてジーンの調理法も広まってほしいわ」

ハウロンがポテトを口に運ぶ。

多少の好き嫌いはあるけど、みんなと食の好みがあってよかった!!! 宇宙食が好きです、って言われたら毎回食事時に途方に暮れるところだった。