第582話 中原に与える影響
第582話 中原に与える影響
水盆の中でハウロンとカーンがエシャの人たちと会っている。小さな子は大人たちの様子に戸惑って立ち尽くし、大人の幾人かは膝をついて泣いている。
これ以上の覗き見は悪趣味かな?
水面をちょんとつついて、精霊の映し出す絵を消す。もう終わったの? みたいな反応で、リシュが噛んでいた綱を離して顔をあげる。
「果樹園でマンゴーの収穫するぞ」
リシュに笑って言って、窓からテラスに出る。
これからエシャの人たちはどうするんだろう?
長らく小国同士で小競り合いはしてきたけれど、それなりに短い平和はあった。余裕のあるうちは寛容になれるけれど、なくなったら余所者には厳しくなる。エシャの民はすでに中原を旅することをやめて、山の中に逃げ込んで息を潜めている。
大部分がカーンについてくるんじゃないかと思ってるんだけど、放浪の旅がやめられないって人もいるんじゃないかな? でも、今の中原は覚悟があっても旅するのは大変だ。
大規模魔法の行使から始まって、大国シュルムが本格的に表に出てきてからは、争いの歯止めがない感じ、数年は落ち着かないかもしれない。
なにせシュルムにいる当代勇者を守護する光の玉は、戦から生まれた精霊。自分自身の正義を疑わずつっぱしるタイプ。司ってるのは剣技と攻撃魔法、光属性なのに回復系――癒しは苦手。
シュルムが覇権をとるには都合がいいかもしれないけれど、あの光の玉が力を増して、眷属を増やしているならば、戦は止まらないよね。特に中原はそういう争いの土壌ができてる場所で、そっち系の精霊にとっては居心地がいいだろうし。
その精霊たちがそばにいる状態では、見える見えないにかかわらず人間にも影響が出る。迷った時に立ち止まって、自分が間違えている可能性を考えるのではなく、信じて突き進む。
中原はかつて勇者を守護した風の精霊が、一番影響を与えた土地。多分リシュが風の精霊をがぶっとやったせいで、他の時代のようにいきなり滅亡というのはギリギリ免れた感じだけど、とても不安定なんじゃないかと思ってる。
俺的には勇者のいるシュルムがのしてくるのは微妙だけど、さっさと統一してしまえとも思う。だって中原の国って山賊の根城の間違いなんじゃ? みたいな国が多いんだもん。
姉は外面はむちゃくちゃいいし、住人にとっては今の状態よりいいんじゃないかと思う。そっと気づかない内に搾取される可能性は大きいけれど、そもそもそれぞれの領主とかに、すでに搾取されてる状態の人の方が圧倒的に多い。たぶん姉が外面を取り繕うとした分、住人の生活は向上する。
どっちにしても戦に介入する気はない。俺の親しい人たちが巻き込まれるなら別だけど、他の大勢の人たちの人生まで抱えられないから。
今のところ俺の行動は、人間世界的にはシュルムが有利になるようなかんじになっちゃってるけど、精霊に手伝ってもらって魔力を分けているせいで、精霊世界的には光の玉が眷属を増やす邪魔をしている状態。
なかなか捻れてるよね。
もう少しじゃがいもをはじめとして食べ物が広がって、胃袋が満たされて人に余裕がでれば、戦い関係の精霊以外も増えるんじゃないかと思う。
精霊の影響をあまり受けない状態で、住んでいる人自身に戦うかどうか判断してほしい。
それはともかくエシャ。
俺がハウロンとカーンの2人を連れて行って、全員カーンの国に【転移】させるのが一番簡単だし時間もかからないけれど――それは味気ない。
ハウロンが【転移】可能な場所まで移動するしかないし、一度に【転移】できる人数も限られるから大変だろうけど。その大変さが心に残ることもあると思うんだ。
切羽詰まって急ぐ状況ならともかく、俺は必要ない。
でも再会のお祝いはしたいから、建国の宴会の時に一緒に祝おう。料理と酒をたくさん用意しよう。飾り付けの花が足りなければ、俺の塔の花を全部切ってもいいってソレイユに伝えなきゃ。
カダルに挨拶して、改良中のマンゴーを収穫。ついでに他の果物も熟れているものは全部収穫する。
カダルがいるおかげで木々が元気。というか、大木になってわさわさしている。マンゴーも実は、収穫が楽なように枝を横に伸ばすつもりが、 剪定 ( せんてい ) をする間もなく、一夜明けたら4メートルくらいになっててですね?
マンゴーって木の枝からヘタに繋がってるじくが長いんだけど、それが精霊の気遣いかなんかで、さらに長くなって収穫しやすい高さに実がぶら下がってるんで困らないといえば困らないんだけど。
山全体も木々がもこもこしてるし、木陰でジメジメしそうな場所にも陽がふりそそいで花が咲いてるし、流れる水は清らかだし、野菜はみずみずしくってぱっつんぱっつんだし。ルゥーディルは油断すると暗がりにいるし。
あ、ヴァンには剣の稽古をつけてもらってます。鍛冶かガラス作りをしようかと思ったんだけど、火を使うには暑いんだよ。冬になったらがんばるから……っ!
なんでこんな本格的な剣の修行をしてるんだろう、俺。いや、勇者といつか戦うかもしれないし……っ!