第601話 エスの『旅人の守護石』
第601話 エスの『旅人の守護石』
放浪の民アトラスについて本を読む。
今はあちこち自由に行けるし、現地で見て調べて知るのも楽しいけれど、本を読むのもまた楽しい。
山の家で暖炉のそばで火の爆ぜる音を聞きながら、カヌムの家の屋根裏でベッドに転がりながら、雪の降る魔の森の家で毛布に包まりながら、島の塔の石壁に囲まれた中で。
そして 精霊図書館 ( ここ ) の小部屋で、コーヒーを飲みながら。アトラスの民は、住んでいた島が海に沈んだため放浪が始まったらしい。
アトラスは巨石の時代に一番栄えてたっぽくって、沈んだ理由は地滑りと津波らしい。タリア半島の南西にある島にその痕跡があるのだそうだ。
内海なのにそんなに大きな津波ってできるのか謎だけど。かりんとう饅頭ちゃんもいたし、海底火山が噴火したとかかな? 島自体がその時代より隆起して、津波の痕跡とやらも持ち上がったとか。
あ。誓いを違えられた『王の枝』狂乱か。津波というより、海の水が巻き上げられた竜巻がいくつも襲った、らしい。精霊がいるから何が起きてもおかしくないのに、つい日本基準で考えてしまうな。
アトラスの国の跡から『不透明な水色の石』を見つけるのは難しいだろうか。かといって放浪の民の足跡を追うのも難しそう。
とりあえずタリア半島の南西の島に行ってみて、かな。タリア半島の端はエトルの民がいた地域だし、差し当たってあの辺の捜索からだ。
クリスドラムはなんか大変そうだから、他を集めてから改めて調べにこよう。物理効かないとどうしていいかわからないし。――いや、黒精霊を掴むみたいな感じでいけるのかな?
そう回る順番を決めて、本を閉じる。
で。
エスの砂漠。夕焼けのオレンジ、遠くに見えるエス川のほとりの椰子の木が黒い影を作ってる。
砂に手をついて魔力を流し、願い事を少々。
『もし砂の中に簡単に持ち運べるような、ゼニアオイの葉の色に似た石があるの知ってたら、持ってきて』
エスの『旅人の守護石』の捜索、これが一番手っ取り早いかなって。
長い間には絶対落としたり、砂漠で行き倒れてたりするよね。砂に埋もれてると思うんだ。エスの『旅人の守護石』は最初の本に、簡単な説明と絵が載ってたんでこの大雑把な方法を試しています。
うまく行ったら、放浪の民アトラスの『不透明な水色の石』、エトルの『夜の安全を守る石』も頼んでみるつもり。クリスドラムの『青光石』はどうだろ? 魔物の多いところで、精霊に探索お願いするのは危ないよね。
『はーい、葉っぱの色ね?』
『そう、葉っぱ』
『緑〜?』
『黄緑〜?』
『深緑〜?』
すでに色の範囲が広がった気がするけど、俺も本で「ゼニアオイの葉の色」としか知らないので特定ができない。同じゼニアオイの葉でも若葉色だったら黄緑な気がするし、濃いところもあるだろうし。
絵もあったけど、色をどこまで信じていいか分からない。描かれた当初はそっくりでも、陽や空気に当って色変わりしがちだし。緑系なことは確かなんだけど。
砂粒の精霊、流れる砂の精霊、冷えた砂の精霊、熱持つ砂の精霊。砂漠にいる精霊たちがサラサラと動き出し、砂紋を作り、流砂を作り動き出す。
そして集まる緑の何か。
『これは〜?』
砂から短い木の根みたいなものが出てくる。石以外の紐とか装飾品は取れてる可能性のほうが高い気がするんで、石指定なんだけど、これは本に載っていた石とだいぶ違う。
『これは何だろ? 違うけどありがとう』
後でハウロンに聞くか、本で調べよう。
おっと【鑑定】できるんだった。――『雷管石』、砂漠に雷が落ちて硅砂が変質。そして色も色々あるらしい。
『これは〜?』
――『 緑玉髄 ( りょくぎょくずい ) 』、玉髄の一種。玉髄ってなんだ?
『違うけどありがとう』
緑色の石は、メール人にあげるのでいくつあってもいい。
『これは〜?』
ざらりといっぱいエメラルド。【鑑定】しなくてもわかる! エメラルドとかルビーとかサファイアは、今でもナルアディードで高値がついてたくさん取引されてるので、人気なんだな。
『これは〜?』
表面がぼこぼこと月みたいになってるガラス質の石。――『テクタイト』、隕石衝突で作られる天然ガラス。
色々あるね。他にもたくさん持ってきてくれた。たくさんあるのから、少量まで。少量のはこの辺にあまり出回ってなかった石なのかな? 産地が遠いとか。
昼の砂漠は灼熱だけど、夜の砂漠は冷える。そろそろ明日にした方がいいかな。
『これは〜?』
緑色に黒に近い緑の細かい縞、涙型のその石は所々ビーズを通した毛糸で縁取られ、下げられるようになっている。
――古代エスの『旅人の守護石』。
『ありがとう、これだ』
『わーい!』
『おめでと〜』
『あった〜』
『でた〜』
さわさわさらさらと精霊たちが囁く。たくさん持ってきてもらったので、また魔力を砂に流してお礼。
エスの『旅人の守護石』、ゲット!