LNCrawler

第604話 王笏

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第604話 王笏

出しづらい……などと思っていたら、すでにほっぺたの人権が蹂躙され始めてるんですが、何故ですか?

「……」

無言で疑わしい眼差しやめてください。

「ちょっと直しちゃった後なだけで、周囲に影響はないので大丈夫です。もしかして歴史的な遺物とかだったらハウロンが叫ぶかもしれないけど」

正直に申請。

「アタシは大丈夫じゃないのね……」

遠い目をするハウロン。

「お前、頬を伸ばしてるのにはっきり話すのどうにかしとけよ」

レッツェが呆れたように言う。

はっ! 【言語】さん、俺の知らないところで活躍を……? 意識してふがふがしないといけないのか。

「で? 何を直したんだ? すでに直した後ってことは、ラクダの毛を気にしてた 『旅人の守護石』 ( それ ) じゃないヤツなんだろ?」

「うん」

レッツェに言われて、『旅人の守護石』をどかしてテーブルの上に王様セットを出す。

「拾い物だけど、カーンにどう?」

綺麗に直しました。

王笏も魔法ステッキではなく、王冠とセットな感じでコーディネイトされました。今ならカーンが握ってもおかしくないと思います。

「なるほど、新品並だな」

「王冠、頸飾、王笏ね。エメラルドはともかく、精霊金……」

レッツェは距離を詰めることなく、全体的に見るとはなしに眺めてる感じ。ハウロンはモノから1センチくらい離した状態の指をその形に滑らせ、確認しながら。

エメラルドがオリジナル部分ですよ、ハウロン。

「『旅人の守護石』と一緒の場所よね? エス周辺でこんな見事な王冠の記述あったかしら? エメラルドの王冠というとメールへ旅したソロンの王女伝説が有名だけれど」

ハウロンが自分の中の知識を探っているのか、難しい顔。

「ソロンの王女?」

「ルフ国の確認されている最後の王族ね」

「えーと。ルフ国というと、魔法陣とか量産してた方だよね?」

古王国時代――巨石の文明よりさらに前――に、パサ国を作ったのがルフ人。こっちは、俺と似たような感じで、精霊に直接色々頼み事していたっぽい種族。王位争いの疲弊と、数の多い野蛮な者たちに攻め入られて滅んだ。

で、そこに野蛮な者――精霊を使えない普通の人間だっただけだと思うけど、その人たちが何度か国を興したけれどどれも長く続かなかった。

パサ国自体は小さな国だったらしいけど、なにせ精霊が忖度してくれる文明の中心みたいな国だったので、そこがうまく行かないと周辺の国も困ったらしい。それに、他より精霊が集まってたろうし、野放しの精霊がきっとやらかしてたんじゃないかな。

で、辺境で細々と命を永らえていたルフ人の女性を見つけ出し、女王と仰いでようやく安定した。国名をルフと名付けて国民はルフの民と名乗る。

ルフの民は、女王の血を引いていない限り、ルフじゃないというややこしさ爆誕。

「ルフ国が滅びるとき、王家は皆殺しって読んだけど」

「どこで何を読んだか興味深いわね。――滅びる前に、ソロンという国に嫁いだ王女がいるのよ。いるというか、そういう伝説なんだけれども」

一旦言葉を切って、ワインを飲むハウロン。

「ルフが滅びた後、その王女が当時まだ緑豊かなオアシスが点在するエスの砂漠を旅した伝説があるの。旅の目的は定かではないけどね」

へえ、へえ。

「嫁いだのに王女のままなんだ?」

「ソロンの王族よりルフの地位の方が高いからかしらね? 伝説を語り継いでる人々にとっても、ルフの末裔の印象が強いのね」

ハウロンが肩をすくめて見せる。

「でもまあ、ソロンのものであれば、王笏があるはずないし、違うでしょ」

「何で? 王笏ないの?」

ハウロンがまた新情報。

「ソロンは歴史上確認が取れる一番古い『王の枝』を持った国だからよ」

「うん?」

「王笏は『王の枝』の代わりだ。本物を持っているのに、わざわざ紛い物はつくらねぇって話だ」

ピンとこなかった俺にレッツェが補足してくれる。

「え、そうなの?」

元いた世界に『王の枝』はないけど王笏はあったから、王様セットに必ず入るものだとばかり!

「ええ。ソロンの王女が王冠を持ち出しているのもおかしなことだし……。財宝を持ち出した話もあるけれど」

王笏がなかったら、この王冠と頸飾がソロンのヤツだって可能性が?

「えーと。もしこれがソロンのだとしたら、カーンに贈るのはやめといた方がいい? ルフに拘ってるのがいるみたいだし、粘着される恐れ?」

ローザとかローザとか。

ローザの他にもルフの末裔を探してる人たちはいる気配なんだよね。しかも面倒そうなのが。

ハウロンだって、ルフの話題はチラチラ出すし、この世界で未だルフは特別っぽい。

「そうね……。もしソロンのものだと思われたら、王冠に古い精霊が眠ることを期待するかしら? ルフの手がかりがあまりにも乏しい上、ルフ関係のものってそう多くないのよね。ルフを探す人々に、集まってこられるのも面倒ねぇ」

頬に手をやって考え込むハウロン。

「古いもんには見えねぇから大丈夫だろ。俺たちは知っているから、少しの可能性を考えちまうだけで。普通は新しく作ったモンだと思っておしまいだ」

レッツェがこともなげに言う。

「それもそうね」

ハウロンがホッとしたように同意する。

ごめんね、王笏はもともとなかったんだ。でもまあ、ここは新品ってことで、ひとつ。