第605話 小出し
第605話 小出し
「いえ、待って。そうねとか言っちゃったけど、精霊金、精霊金よ!」
椅子にもたれかかったハウロンが、すぐに身を乗り出して叫ぶように言う。
「精霊金くらいなら普段は神殿に納めておけば大概のヤツは諦めるだろ。――量はおかしいと思うが、一応コネと金がありゃ手に入るもんだし」
レッツェが宥める。
「そうそう、わんわんに番犬してもらえば安心」
「犬って言わないで!?」
ハウロンがキッとこっちを見る。
「……そうね、確かに精霊金は価値があるけれど、面倒そうな相手は集められるだけのツテも財力もあるから絡んでくる可能性は少ないわね。普通の盗賊ならばなんてことないし。そもそもその前に、神殿には供えられた果物と野菜が……っ」
だんだん声のトーンが落ち、机に伏せるハウロン。
「あー……」
「え、果物と野菜の方が王冠より上!?」
俺の中で、王冠と王笏のエメラルドがキャベツになったんですが。頸飾は立派なメロンになりました。
「ア・ナ・タが! 持ってきた黄金の果物と野菜よ!」
顔を上げて叫ぶハウロン。
ああ、そういえばなんか魔法的な力の供給源として優秀なんだっけ?
「なんかこう、冷房とか水汲みとかに利用すればいいのに」
「神々に捧げたものを、下げ渡されたならともかく勝手に使うわけにはいかないでしょ! しかもあの古き強き神たちに!」
色々気を使って大変な様子。
「また持ってこようか?」
たくさんあります。というかできてます。いつでも押し付け先を探しています。
「やめて!?」
ハウロン半泣き。
「酒でも飲んで落ち着け。ジーン、何かつまみくれ」
レッツェがそう言って、ハウロンのグラスにワインを注ぐ。
つまみのリクエストが出たので出す。
赤パプリカにペーストにしたツナを詰めて焼いたやつ、キノコとホタテのカナッペ、塩漬けタラのコロッケ、ハムとチーズが数種類。
「お、この揚げもんは塩加減がいいな。コロッケだったっけ? あれより酒に合う。あっちは飯だな」
一口サイズのタラのコロッケを口に運ぶレッツェ。
「ううう。相変わらずいつも美味しいわね」
つられてハウロンも手を伸ばし、食べ始めた。
「精霊金も黄金の鎧クラスの曰く付きじゃなければ平気よね。うん、そう! 野菜に比べれば!」
ハウロンが復活した!
でも問題発言もした!
「よし、ジーン。小出しにしろ」
口をきく前にレッツェに留められた!
精霊金でできた鎧って、今クリスの像になってるやつだよね? 見てないところで動くって噂の。鎧じゃないしこれもセーフ?
「お! ジーン来てる!」
「こんばんわ」
ディーンとクリスが帰ってきた。
「こんばんは。お疲れ?」
なんかよれっとしてる。
珍しく外はまとまった雨だし、面倒な仕事だったのかな?
「お疲れ、お疲れ、だから飯をくれ! いいもんやるから!」
「さっきまで疲れていたけれど、ジーンと会えてテンションが上がったよ!」
とりあえず手足洗ってくる、と言って井戸端に行く2人。あった頃は汚れたままで飲み食い優先することもあったディーンが、今はちゃんと最低限整えてから食卓につく。
いいことです。
「あの2人、昨日から泊まりがけで――。冷えてるはずだから、よければ温まるものなんか出してやってくれ」
雨は降っているものの、寒い日ではない。何だろ? 氷の魔物でも相手にしてたのかな?
「いいものってなんだろ?」
レッツェが笑って教えてくれない。2人が出してくるのを楽しみに、ってことか。
レッツェの話を聞いたハウロンが短い呪文を唱え指を暖炉に向かってちょいと振る。とたん、ちろちろと燃えていた火からトカゲの形の精霊が一瞬走り上がり、火が大きくなる。
「レッツェもハウロンも食える?」
「本格的な量は、ちときついかな」
「小出しにしてちょうだい」
ハウロン、小出し希望なのか。
「じゃあ、取り皿出すから2人で分けて」
とりあえず酒を人数分、鍋敷きを人数マイナス1用意。
「お待たせ」
「待たせたね!」
ディーンとクリスが靴を抱えて戻ってきて、乾かすためか暖炉の前に置く。ディーンのブーツには精霊が至福の顔してインしてる。
「ああ、デザートは私とディーンに任せてくれたまえ」
「美味いってか、珍しいの食わせてやるよ」
笑う2人。
「楽しみにする。まずはご飯どうぞ」
そう言って鍋焼きうどんを出す俺。陶器の鍋は底が平らなこっちの鍋だけど。
「熱いから気をつけて。取り皿で一旦冷ますのもいいぞ」
「うを、ぐつぐついってる!」
「これは熱そうだね。冷えていたから、目にもご馳走だよ!」
あれです、餅巾着入りの鍋焼きうどんです。腹にたまると思います。寒い時に食べてとてもよかったので、出してみたんだけどどうだろう?
「卵は好みで落として」
そう言って、卵を落として蓋をして見せる。
精霊に頼んで火からおろしても普通より少し長くぐつぐつしてる鍋なので、ちゃんと白身は固まると思います。
「これは? エビフライか?」
レッツェが器用に箸を使って持ち上げる。
「海老天の方だな」
衣が汁を吸って、くたっとほよっと柔らかく。
「ごめんなさい、一人分食べるわ。今からお願いできるかしら?」
取り皿に分けようとしているレッツェを止めて、ハウロンが言う。
「じゃあ俺も頼む」
ハウロンと半分予定だったレッツェはどうかと視線を送ったら、そう返ってきた。
結局みんなで鍋焼きうどんを食べた。