第606話 王族の末裔
第606話 王族の末裔
鍋焼きうどんでうやむやになった、王様セット。その包みを持ったハウロンが部屋に戻る。
今日はカヌムに泊まりなのかな? ハウロンの転移は、決まった場所から決まった場所の間でしかできない。
カーンの部屋に転送円があるはずだけど、転送のための 消耗品 ( クリスタル ) がもう作れないから、よほど急ぎでない限りハウロンは一族の秘法を使う。
普段なら送ってこうかと声をかけるんだけど、王冠のことごと話しあぐねてハウロンの背中を見送っている。
「ごめん、ハウロン。その王笏はもともとなかった、王冠とかと合わせて俺が作った新品!」
扉が閉まる直前、思い切って告白。
しばしの間。
「えっ! ちょっと、どういうこと!?」
すごい勢いで扉が開いて、部屋に戻ってくるハウロン。
ディーンとクリスがちょっと驚いて目を丸くし、レッツェはやや呆れ顔。
大人しく全部話しました。
「……ソロンの王冠。絶対そうよね、これ……」
テーブルの上、包みを解かれた王冠セット、それを前にハウロンが崩れ落ちている。
「美しいね。緑に吸い込まれそうだよ」
「カーンの旦那に似合いそうっちゃ似合いそうだな」
「……」
そばで眺め回すクリスとディーン、少し距離をとって見ているレッツェ。
「黄金の鎧は原型をとどめてねぇからともかく、これがこの姿で砂漠にあるっつーのは危なそうだな。まあ、精霊金なのは見るやつが見ればわかるからセーフか?」
レッツェがワインを飲みながらボソボソと言う。
原型をとどめてなければいいの? 現在動くクリス像が絶賛変な伝説というか噂を生産してるけど。
「普通の金のほうがいいのか?」
「普通の金だと、より本物らしさが上がってしまうからダメなのではないかい?」
「本物だとまずいのか?」
ディーンとクリス。
「ううう。いいわよう。いっそ、『ソロンの王冠にあやかって、似せて造らせた』ってこっちから噂を流すわよう」
半泣きながら、対策案を出してくるハウロン。
「これが本物だってことになったら、多分あちこちの自称ルフの末裔とルフに夢を見ている血統主義者が、あの手この手で狙ってくるわ。面倒臭いのよ、特に後者。表立って活動してるのはともかく、水面下で活動してる秘密結社みたいなのが」
ハウロンが少し復活。
「ああ、なんかそんなのいるって噂あるな」
「ラアインの道の宿屋ギルドも、ルフ国の末裔が始めた結社ではなかったかい?」
「末裔が始めた商売の結社はもっとあるだろ。秘密結社はもっと危ねぇのじゃなかったか? 一番有名なのはシュルムの」
「ああ、あれのことなのかい? 噂が表に出ている時点で、あれもダミーだって言う噂もあるね」
ディーンとクリスの不穏な会話。
「そんなのいるんだ?」
「アナタの知ってるところで、ローザもそうよ? ローザは秘密結社のコネクションを利用してという面が強そうだけれど」
「え? シュルムに秘密結社あるのにローザも??」
シュルムとローザって敵対してなかったっけ? いや、ダミーだから??
「ルフ国の末裔は国が滅びた後、世界に広がってるもの。それ系統の秘密結社は一つや二つじゃないのよ。秘密結社同士で争うこともあるわ。争いつつも外に対しては、協力して事に当たるみたいな感じね」
ハウロン。
ルフ国滅亡から続いてるんじゃ、確かに長い気はする。というか、ローザたちはルフと同等の力を持つ勇者に対抗するためにルフを求めてるのかと思ってたんだけど。
ルフだと思われるの、勇者より面倒そう。過去にルフのフリしちゃってるけど。
「普通の 結社 ( ギルド ) でも、ルフ国の末裔が作ったってぇのは多いんだよ。技術も精霊の使役に関しても進んだ国だったってことで、流れ着いた先で中心になったり、技術の秘匿のために集まったり。まあ、そういう触れ込みのほうが箔が付くってんで名乗ってる偽物も混じるけどな」
レッツェの補足。長い間にすごくややこしく増えてるんだな? さては?
「人数が多いのはそれだけで商売や人を動かすことに益になるからな、ルフとは関係ないがギルドに所属してるってのも多い」
肩をすくめて見せるレッツェ。
「世界に散ったルフ国の末裔――あるいはそう名乗る人たちの作った、うんと古い結社だし、血も混じって記憶も薄れて、今では単にその仕組みだけ利用している普通に生活している人が大半よ」
「普通に暮らしてりゃ、別にどうってことねぇ集団だな。ただ、中にはルフに関係するもんは何でも何をしても欲しいってヤツもいる」
「ごくごく普通の人からちょっと精霊に好かれて自分は特別だと思い込んだ人まで、ルフを騙る者は多いし、中には血の薄まった本物もいるかもしれないけれど――」
なるほど、ルフっぽく振る舞ったり主張してる人って多いのか。というかルフの隠れ里あるっぽい話もあったね。
「このソロンの王冠と頸飾を持つ者は、王女の末裔――ルフの王族の血を引いているって思われるだろうから厄介なんだよ」
レッツェが解説してくれる。
「王女は砂漠を旅して、最期が曖昧なのも末裔の存在の噂に拍車をかけてるのよね。ソロンの王冠と頸飾はソロンの建国を認めたルフ国が贈ったものだと言われてるし……」
頬杖をついて語るハウロン。
微妙に嬉しそうだけど、やっぱり考古学とか伝説や歴史から類推してとか、そんな作業好きなのかな?
「ルフの王族の血を手に入れたヤツが全部の結社の頂点になるってんで、血統主義から実利を取る者まで危ねぇのが寄ってくる」
「王冠と頸飾を適当な者に持たせて正統を名乗るとかね、持つ者が本物じゃなくても名分になればいいのよ」
ハウロンがひらひらと手を動かす。
秘密結社の中で、ルフの末裔カーン王爆誕とかじゃないらしい。
「強いルフの末裔を取り合うのとはまた別の話だな。――王族と間違えられねぇようにしろよ? まあ、お前は変な阻害があるんで平気なんだろうけどな」
レッツェが俺のほっぺたをつまむ。
ご心配おかけいたします。
絡んでくるのが面倒な人たち本人なら潰しておしまいにするけど、話を聞く限り、所属してる一般人も頼まれて理由も知らないまま絡んできそうな話だ。
こっちに来たばかりは、物にも国にも人にも愛着なかったんで半分『家』に引きこもる気でいたし、どうでもよかっただろうけど。
大分こっちに馴染んだな、俺。だから今ルフ関係を改めて話してくれてるのかな? 初期に説明されてたらより一層引きこもってたろうし。
「すごく面倒くさそうなのは理解した。ルフ関係気をつける」
『今』か『ちょっと前』くらいのルフ関係の伝説を漁ろう。話のニュアンス的に黄金の鎧もルフの王族関係な気がしてきた。
あと、島でやってる活動みたいなのあちこちでやって分散させるか。神々に頼まれたことだし、何か造るっていうのはやめられないからね。
「それにしてもルフ国の人ってルフじゃないのに、ルフ好きすぎない?」
「……ルフじゃない?」
ハウロンが市松人形の怪異みたいに軋んだ動きで顔をこっちに向けてきた。