第608話 エトルの旅人の石
第608話 エトルの旅人の石
次の旅人の石は、『夜の安全を守る石』。エトルは石の時代にタリア半島の海辺に住んでた民とのことなので、タリアの端に探しにいく予定。夜に。
人が住んでる地域だからね! 人目につかない場所って保証がないので、夜活予定です。
朝から畑と果樹園の世話、リシュとたっぷり遊ぶ。最近は取ってこい遊びが気にいっているらしく、地の民にもらった綱を咥えてきて、俺の足元にポトっと落として見上げてくる。
それを思い切り投げてやると、たっと走っていって拾って、またたったか走って戻ってくる。戻ってきた勢いのまま、俺の足の間に綱を咥えたまま突っ込んでくる。
わしわしと撫でながら綱を受け取って、また遠くに投げる。この繰り返し。走り戻ってくるリシュが可愛い。
昼は、おひたしと肉豆腐、鳥の唐揚げ、グリーンサラダ、切り干し大根、ご飯と豚汁。
今日は人に会う予定もないので、唐揚げはがっつりニンニクを効かせたやつ。豚汁は焼き目をつけた3センチくらいのネギも入れて具沢山。豚汁が全ての野菜不足を補ってくれる気になりつつ、もぐもぐと。
途中で暑くなって上着を脱いだ。
昼の片付けついでに夜の捜索用におにぎりも用意。昼寝をして準備万端!
で、夜です。夜目が利くことをいいことに海岸を歩く。内海だから、海が荒れることが少ないんで割とぎりぎりに家が密集してる場所もある。
年にいっぺんか、二年にいっぺんくらい精霊が起こす大嵐があるらしいけど、俺はまだそこまでの嵐には遭遇したことがない。波がびっくりするくらい高くなったり、海水が巻き上げられるんだってさ。
タリア半島は断崖海岸がほとんどで、砂浜は少ない。石がなだらかなとこも少なめ。というか、砂とか土とかじゃなくって、石な地形なんですが、旅人の石の埋まる隙はありますか?
『この辺にエトルって呼ばれる人住んでたとこありますか? もしくはエトルを知ってるひといる?』
手っ取り早く、精霊たちに聞く。
『しらなーい』
『誰〜?』
『もっとパポナちゃんのいる方じゃない?』
『パポナちゃんか〜』
『あの沈んだやつ?』
『パポナちゃんに沈んでるのがそんな名前だった〜』
『あっちだ〜』
『あっちだね〜』
『ありがとう』
パポナって誰!? いや、沈むって話からすると海か湖か川か……。一応海岸線を指差してたので、多分海。指差して教えてくれた方向に、岸壁沿いを歩く。
道なき道だけど、迷いそうなんで。途中パポナの場所を精霊たちに聞きながら移動。
また沈んだ都市だけど、大丈夫です、今度は復活させません。人様の土地だし! ここら辺の決まりでは陸から見える範囲の海はその国のものみたいだし。
というか、遠い! 精霊からの答えにもう直ぐとかそんな言葉がいつまで経ってもでてこない。これは走るより【転移】で移動して、指差す方向が変わったら、変わる前との中間地点から始めた方が効率が良さそう。
そう言うわけで【転移】。それでも距離が足りなかったらしく、北を案内される。結局パポナちゃんの場所はタリア半島の北南半分地点でした。南端から始めたんだけど、歩いても走っても二、三日しないとつかないね!
というか、俺が以前、火山灰集めたとこの近くだね! そうだね、海に町が沈む理由って、火山の噴火とか地震とかの地滑りとかだね!
……くっ。
俺にレッツェくらいの思慮深さがあれば、こんな長距離移動しなかったのに。
探していたパポナちゃんは結局湾だった。で、予想外にパポナちゃんが広いんですけど。あと町の明かりがいくつか見える。町の近辺だったらちょっと面倒臭いかな? いや、海の中を行けば気がつかれないか。
『パポナちゃんいますか?』
『いるよ〜。だってここがボクだもん〜』
呼んで返事が来たらがっつり魔力を持ってかれるっていう罠が。契約状態になるなら、せめて対面してどんな相手か確かめてからにしない?
海面が盛り上がる感じで登場したのは、女の子の姿をした精霊。髪が昆布みたいにうねって、下半身共々海面に溶けている。
『この辺りにエトルゆかりの何かが沈んでるって聞いてきたんだけど、案内してくれる?』
『いいよ〜』
とぷんと海に返ったパポナちゃんを追い、いつもの空気の玉を精霊に頼んで海に入る。
姿が見えないんですが。海というか湾と同化? 困ります。
『こっちだよ〜』
海の中に白い泡が立つ。それを追って、海中を進む。青白く見える海、海底は茶色っぽい藻に覆われて、海藻の類は見かけない。時々貝殻の白さが目に飛び込んでくる。
『ほら、このへん〜』
大量に気泡が海底から上がり、堆積物が払われ、出てきたのは見事なモザイク。そして、崩れた建物、白い大理石の石像。
『おお』
なかなか幻想的……いや、藻の残ってる石像怖いな?