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第635話 風見鶏の効果

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第635話 風見鶏の効果

黒い幽霊越しに港町を見下ろしてお昼ご飯。薄暗いんで昼なんだか夜なんだかもよくわかんないけどね。

ディーンに肉巻きおにぎりが好評。甘辛タレ好きみたいだし、今度テリヤキバーガーも作ってみようかな? 肉は肉肉しいほうが好きみたいだから微妙だろうか。

「串にさしてあるの、手が汚れなくていいわね」

ハウロンも気に入った様子。

肉巻きおむすびは、おいなりさんサイズにしてお箸で食べてもいいんだけど、大きめにしてアメリカンドッグみたいに串に巻いてある。野外で食べる時は豪快にいきたいけど、手が汚れるとちょっと面倒だし。

「肉巻きおにぎりはこっちにチーズ入りもあるから。おいなりさんもノーマル、紅生姜と胡麻、筍ご飯の3種類あるから」

レッツェはおいなりさんのほうがいいようだ。

アッシュはバナナオムレツ。そこに最初に行くのは、ご飯としてどうなのかってつい思ってしまうけれど、外だしね! 自由でいいさ。幸せそうだし。

「こりゃ何の肉? 骨ついてっけど」

「鶏の手羽中から先。骨残してあるけど、唐揚げだよ」

チューリップの唐揚げです。

こっちにチューリップ咲いてるかどうか自信ないけど。薔薇とかあるしあると思う。真っ直ぐな骨の茎、片側にくしゅっとよせた丸い肉の花。

「骨、足りなくねぇ?」

「細い方は外してある」

一時的に農家をやっていて鶏の解体もしたことがあるだろうディノッソとの会話。ギルドの依頼で魔の森に数日滞在するような依頼の時は、食料の現地調達もあるんで、ディノッソに限らず鳥の解体はしたことありそうだけど。

「ふーん。子供らが喜びそうだな」

そう言って眺めていたチューリップの唐揚げをパクッとやるディノッソ。

「子供の頃、『 滅びの国 ( ここ ) 』を縦横無尽に走り回って、黒い幽霊たちを消し去る――怖いもの知らずな夢想をしていたよ」

クリスが追憶の中に身を置いているのか、遠い目をして呟く。

「クリスの『精霊剣』ならできるんじゃないかしら? 消し去ることができるのは一時的にだけれど」

ハウロンが言う。

黒い幽霊は消えてなくなることもできず、この島を永遠に彷徨う――というのが定説。いっぱいいるし、消えられないというのはあってるんだと思う。

「そういえば、何で風見鶏なんだ?」

「鶏は朝を告げ夜を終わらせ、幽霊たちの活動を止める象徴ね。この『滅びの島』の夜を終わらせることはできないけれど、朝を表すものに魔法をかけることで島の外は明るい朝だと思わせているのね。――島から這い出て、暗い海の底に広がらないように」

真面目な顔でハウロン。

陸から目に入る範囲はその国のもの。その国の国領。『滅びの国』の海は暗く、その中にコンブみたいな黒い影が蠢いている。それらが岩の影や深海を通って、広がるのを防いでるってことだな? 明るいから出てくるなと。夜もなく、いつでも朝ですみたいな?

「明るい朝だと思わせているのは、『王の枝』にか?」

レッツェが聞く。

風見鶏が向いているのは城だって言ってた。正確には『明るい朝だと思わせたい対象がいる方』なんだろうね。

「いいえ、滅びの王にかしら? そのあたりははっきりしないのよね」

頬を押さえて首をかしげるハウロン。

「滅びの王……。『王の枝』を反転させた時代の王だね。慈悲深い王だという話もあるけれど」

クリスが付け加える。

「そういえば、風見鶏は誰が作ったんだ? もともとあったものにハウロンが魔法をかけたの?」

聞いた話のニュアンス的に、もともと風見鶏には黒い幽霊たちを島に封じ込める効果があって、風見鶏が動いちゃって効果が弱まったのを、ハウロンが風見鶏を動かして元に戻した――みたいに感じている。

「風見鶏はもともとあったものだけれど、魔法をかけたのはアタシのご先祖様ね」

「ご先祖様……。【転移】といい、全部賢者なのか?」

ディーンがハウロンを見る。

ハウロンの【転移】は代々受け継いできた一族の秘法だ。代々ってことは、代々賢者っぽいな?

「魔法書から始まって、ありとあらゆる資料を収集して、読むことができる環境が生まれた時からあるのだもの。スタートが違うわ」

英才教育でした。

「風見鶏が短期間にまたズレるなんて、島の各所に置いた魔法石に不具合があるのかもしれないわ」

ため息を吐くハウロン。

「点検行く?」

旅人の石の回収は急がないし。

「そんな簡単には……。いえ、お願いするわ」

否定しようとして、途中でやめて乗ってきたハウロン。

「簡単に行けねぇ場所か」

こっちもため息を吐きそうなディノッソ。

「大賢者の伝説の前の、さらに伝説の発掘っぽいな!」

明るく笑うディーン。

「私には馴染みのない場所だが、船の航行が阻害されれば皆が困る。確認は私も手伝おう」

アッシュ。

「アッシュ様が行かれるのであれば」

執事。

「もちろん参加するとも!」

クリス。

「ありがとう――それぞれ距離はあるけれど困難な場所じゃないわ。ランプがあれば、だけれど」

レッツェとアッシュの側のランプを見るハウロン。

趣味達成のためのランプから、世界を救うランプになりそうだぞ?