LNCrawler

第643話 原因

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第643話 原因

俺はこういう冒険者としての作業とか、生活力が足りない自覚はある。

【生産の才能】の才能で知識が浮かんでくるのもコツを掴むのも早いんだけど、経験は全く足りてない。最初は手作業してたんだけど……。どんどん精霊の存在に慣れて来て、楽な方に流れて、つい精霊に頼んでしまう。

十数年日本で生活してて、突然そういったことが必要な世界に飛ばされたってこともあるかな。やる習慣がつく前に、精霊頼りになってしまった。

もうちょっと手作業増やそう。指先や体が覚えるように。精霊も物質も増やさないといけないんで、のんびりそればかりやってるわけにもいかないんだけど。

「どうしたのだ?」

アッシュが俺を見てくる。

「ああ。精霊だよりじゃなくって、ディーンたちみたいに動きたいなって」

「魔の森にでもいくかね?」

「うん、ちょっと初心に戻ろう」

たまには精霊なしで行動して、この体の感覚を戻そう。精霊と親しみすぎて精神に体が引っ張られて精霊化したら困ると思ってたけど、逆に体に引っ張られて精霊よりだった精神が戻る可能性が高い。

「ここの魔法石も問題ないわ。ズレの方も探す分には大きかったけれど、この規模の大きさの魔法陣としては問題ない程度」

ハウロン判定問題なし。

「んじゃ、元通りに埋めるわ」

ディノッソが言って、ディーンたちと手早く戻しにかかる。

で、次の魔法石。

「ズレてるわね」

「前回のものの方がズレていたんではないかい?」

ハウロンの言葉に不思議そうなクリス。

「魔法石が納めた箱の中でズレてるのよ」

そう言って眉間に皺を寄せているハウロンの手元を覗き込む面々。

「本当だ、随分寄ってるな」

ディノッソの言う通り、真ん中に納まってた他のものと違って、箱の片側に寄っていて、ほとんど箱の面にくっつきそうになってる。

今まで見て来た魔法石は、20センチ四方くらいの石の箱の中に白い砂が詰まってて、その中央に鎮座してたんだけど。

「なんかこれ、砂をかき分けて動いたみたいな感じ?」

箱の中、砂ごと傾いたんじゃなくって、魔法石だけ動いてる。

「砂の跡見る限り、そうだな」

レッツェ。

「……」

ハウロンが地図といくつか道具を出して調べ始める。

「方向?」

「ええ。それと精霊の密度――ちょっと影が邪魔だけど」

作業しながら答えるハウロン。

「悪りぃ」

覗き込んでたディーンが謝って、離れる。

「違うわよ。ここの黒い影のほう」

地図に印を書き込みながらハウロン。

一応、憑いてる黒精霊も精霊だ。

「ごめんなさい、ジーン。大地の揺れで箱がずれたのは確かだけれど、直接の原因はシュルムだわ」

ハウロンが顔を上げて言う。

「シュルム、ろくなことしねぇな。何やったか知んねぇけど」

腕を組んで怒るディーン。

「光の精霊だわ。この術式、性質上どうしても光の精霊に影響を受けるの。シュルムの勇者の守護は光の精霊でしょう? その精霊が力を増したこと、眷属たちが集まっていること。そして、その周辺で他の精霊は人形に食べられて消えていること――一番シュルムに近い魔法石が引っ張られたのね」

困った顔で頬に手をやるハウロン。

俺はどうやら無罪! と、言いたいところだけど、シュルムの『王の枝』に引っ張られがちな精霊たちを、名付けでもって自由にしてるね! でも行ったら行ったで人形に食われるわけだし、やっぱり無罪ってことで!

「それじゃあ、こいつを元に戻しても、また引っ張られる?」

「そうね」

レッツェの確認にため息混じりに答える。

「しかも、光の精霊はこれからも力を増すでしょう? 戻しても引っ張られる間隔はどんどん短くなるわね。これ以外の魔法石も引っ張られるかもしれないし」

「直してもきりがないのだな」

アッシュの眉間の皺が深まる。

「砂ではなくって、もっと動かないものにすればいいのでは? 固めてしまうとか」

「ダメ。この魔法石に眠っている精霊のお気に入りの寝床なの、寝心地が悪くて起きて動き出したらあっという間に黒い影に捕まってしまうわ」

クリスの考えを却下するハウロン。

ちゃんとダメな理由も教えてくれるんだよね。魔法石の中、魔法陣を抱いて寝ているのは、眠気の精霊と混じった朝日の精霊。まどろむことが大正義の精霊で、完全に覚醒すると別の精霊に変わってしまう。

こっちに来てからは早寝だし、リシュの散歩の習慣で早起きが苦じゃなくなったけど、朝ずっと布団で寝てたい気持ちはわかる。

「せめて『 滅びの国 ( ここ ) 』とシュルムの間に、光の精霊以外の精霊たちが多ければ光の精霊の気配を誤魔化せていいんだけれど、ここの黒精霊もシュルムの人形も精霊を取り込むのよね……」

ハウロンの言うことの結果、2カ国とその間の海の上も他と比べて精霊が少ない。

「この石の箱の東面に、光の精霊の気配を遮断する魔法陣描こうか?」

「ジーンならこの場所でも発動する魔法陣を描ける、のね?」

ハウロンが見てくる。

「うん。できる」

必要な精霊の気配は魔法石とランプの中にしかないけれど。