第663話 ハウロンはお昼寝中
第663話 ハウロンはお昼寝中
「全部が全部眷属となるわけではない。自我がないモノ、逆に強すぎるモノ、淡く儚いモノ、人とまじわらぬモノ――我が主人と意思疎通の難しいモノが集う場合が多いようだ」
カーンが小さなため息をつきながら言う。
「オレが起きて近くにいる時は直接そのまま眷属になる時もあるけど、ご主人の契約した精霊を、ご主人のところにいる本の精霊が振り分けてくれて助かってる!」
エクス棒が笑顔で言う。
精霊ノート、エクス棒とカーンに精霊を振り分けるなんて、いつの間にそんな仕事を……。本という性質上、記録とか分類は得意なのかな?
「えーと。とりあえず暫く大人しくしておくので、ごゆっくり?」
「ああ、気長にやるしかない」
俺の言葉にカーンが短く答える。
カーンが気長にやっているとハウロンが過労死しそうだが。かといって、今更契約を破棄もできない。というか、破棄ってどうやるのか知らない。
「ハウロンに手伝うことがないか聞いてくる」
ついでに破棄の方法も一応聞こう。
【縁切】があるからどうとでもなる気がするんだけど、一般的にはどうやるのか確認しとこう。
広い城を歩く。
厚い石の壁は夜に冷え、昼の熱を殺す。小さく切られた窓は最小限の光と最大限の風を通す。中は冷んやりとして涼しい、外の灼熱に比べればだけれどね。
俺が思う窓らしい窓はなくて、石の壁に囲まれてるけど、高い天井の広間が続くんで閉塞感はない。
一般のご家庭の家は、天井もこんなに高くないし広くもないんで、日本人の俺からすると土蔵の中みたいな感覚になるけどね。
ハウロンの屋敷と見せかけて城内移動。昼だからね、ハウロンも城にいる。そういいつつ城にも部屋を持っていて、夜も泊まり込んでるみたいです、ブラック宰相。
ハウロンの部屋に近づくにつれ、人の行き来が多くなる。オーバーワーク、オーバーワークの気配がしてるけど大丈夫か?
「お邪魔します」
声をかけて部屋にはいる。
人の出入りの利便性のためか風通しのためか、部屋の扉は閉まっていない。もともとこの城って扉がない部屋の方が多いけど、ここには黒い鉄の鋲が打たれた分厚い扉がある。いざという時は閉めて防御するためだね。
部屋の中には奥にでかい机と書類の置かれた脇机、その手前にひとまわり小さい4つの机。手前の机の方が書類が多い。
部屋の中に入って出ていってるひとは、手前の机の人とそれぞれ話して書類を置いていったり、受け取っていったりしてる。で、手前の机の人がある程度まとめてハウロンに説明して指示を受けてる。
――システマティックな事務作業は手伝えないぞ?
「ジーン」
ハウロンがこっちを見る――いやこれリンリン? 表情が 厳 ( いかめ ) しくて声が低め。
なるほど、ハウロン寝てるな?
「手伝えればと思ったけど、却って邪魔になるか?」
慣れない人が突然やってきて、手伝うっていっても教える方に時間を割くの大変だよね。長くいてくれるならともかく、教えるのが手間になるだけだ。
でも俺のアピールポイントは、土木作業なら精霊に頼んで、あっという間に! ということができること。どうですか?
「いや。精霊がらみの案件を任せられる者が足らず、無駄に時間がかかっているものがいくつかある。儂が行くと別の業務が滞るのでな。任せられれば、だいぶ楽になる」
リンリンが重なる書類を指先でいじり、中から一枚を取り出す。
「一人で抱え込みすぎじゃないか? 部下に割り振ったら?」
差し出された書類を受け取りながらリンリンに言う。
俺なんかソレイユたちにほぼ丸投げしてるぞ!
「割り振りはもう済ませている、純粋に人手が足らんのだ。神々やその眷属たる精霊たちのおかげで、望外の実りを得ている。ソレイユ殿にも協力いただいて、販路を確保したはいいが、人口に合わぬ商売規模になりつつある」
難しい顔をいっそう難しくするリンリン。
あれだ、本当はコツコツ増やしていくところ、一気にどばっと豊作だったんだな? 俺も作ってもらいたい果物のために開拓ちょっと手伝ったし。
『青の精霊島』も数人から始まったけど、最初に町の造成から始めたし、ソレイユが元々商会で働いていたおかげで、売る物があると分かった途端自分でさっさと商会を興してたからな。元いた商会の人引き抜いて。
「販売を絞ればいいのだが、顔繋ぎしておきたい国や人との交渉は難しくてな。実際物はあるのだし、つい迷う」
リンリンが言う。
「面目次第もない。多少の無理はするべき時かと思い……」
そっとリンリンに向かって頭を下げる事務の人。
ああ、リンリンじゃなくてこの人が交渉したのか。
「申し訳ございません。まさか同じことを考え、同じ決断を下しているとは思わず……」
同じく頭を下げる事務の人その2。
おい。
なんか倍なところをさらに倍にする事故が起きた気配がするぞ!? 忙しい理由、それ!?