第664話 植物をかじる
第664話 植物をかじる
「重なる時は重なるものだ、それに儂も同じ決断をしただろう。一度道筋ができてしまえばあとは我らが首を突っ込まずとも動くようになる、それまでは忙しくとも仕方あるまい」
諦観した顔というか、どこか苦い顔で目をつぶるリンリン。
だめじゃん?
「過労死しないようにな? とりあえず様子見てくる」
摘んだ書類をひらひらさせて部屋を出る。
この部屋の仕事に巻き込まれると、なんかエンドレス労働になりそうなんで早々に退散。自分でちゃんと休みとれる仕事量に気づいてください。
渡された書類には、住民からの聞き取りをまとめたものが書いてあるようだ。
――まずスイカ畑で空のスイカ続発事件。
空のスイカ?
なんだろう? 小動物が穴開けて食べちゃったのかな? いや、リンリンが精霊関係って言ってたから精霊か。食い意地はった精霊かな?
とりあえず城を出てスイカ畑を目指す。空のスイカ多発は水分補給用のじゃなく、甘いやつ。水分補給用の甘いどころかちょっと苦いスイカは、旅人が移動する道筋に植えてるんで、交易用じゃない。
一応、色々手伝ったことあるんで、スイカの他もどこに何があるかは把握してる。どんどん新しいものが増えてるというか、生活に必要なものが溢れて来てるところだから全部じゃないけど。
ちょっと来ないでいると結構変わってるんですよ!
カーンが町を砂から出した直後は、なんか妙な清潔感があって生き物を排除するような雰囲気だった。植物とかもないし――静かにしてれば砂が動く音も聞こえそうなくらいだったんだけど、今は人のざわめきが聞こえてくる。
今の時間は日よけ布がかけられた通りにいるか、家に篭ってるかかな? それでも生活音と子供の高い声が、俺のいる広場に響いてくる。
なお広場は日差しを遮るものがなくってかんかん照りです。城を起点に移動すると、どうしても一回広場にでることになるの、どうにかしたい。
でもここ、カーンの昔の首都の姿そのままだし変えられないよね。思い出あるだろうし。地下道掘ろうか、地下道。
そんなことを考えつつ、町を出てエス川沿いにしばらく歩く。
川のそばには畑、砂漠と畑の境にはナツメヤシ。ヤシ油はココナツから、パーム油はアブラヤシから取れる。ヤシ油とパーム油って同じものじゃなかったんだ? という感想は置いといて。
アブラヤシは高温多湿な場所、ナツメヤシは乾燥地帯に生える。ちなみに 棗 ( なつめ ) に似てるからナツメヤシ、採れるのはデーツだ。
分類上木でもなく草でもなく……年輪ないし、竹やら笹やら、バナナ、パパイヤあたりはどっちでもなかったはず。色々重なって俺の中でナツメヤシの木がこんがらがってわけのわからないことになってる。
まあ、とりあえず木陰を作ってくれて、干して甘味の強い加工品にもなって、油までとれちゃう木だ。葉っぱなども余さず使われてるし、とても大切な木です。
同じ種類の木を植えると病害虫が発生しやすくなるんでちょっと心配なんだけど。これはハウロンにも知らせよう。
精霊がいるから大丈夫だと思うけど、精霊だってそういう環境は居心地が良くない。エスの神々のおかげでプラスマイナスプラスになってます! みたいな環境。
でも、ちゃんと人間側でも整えるべきだよね、お世話になってるんだから。
そしてスイカ畑到着、ここもエスとアサスたちの眷属である精霊がたくさん。暑いというか熱いんで人の姿はない。なので周囲の精霊たちに聞き込み開始!
――スイカのツルにくっついたバネのような巻きひげをびよんびよんしている精霊の場合。
『知らなーい。ボクはこの巻きつくやつが好き〜。びょんびょんって!』
巻きひげ以外興味がないようだ。
――スイカのツルに巻きついている精霊の場合。
『みてなーい。ボクはここで寄り添ってるのが好き〜。ぎゅぎゅって!』
――スイカの葉の裏でじっとしている精霊の場合。
『わかんなーい。ボクは葉っぱの音は聞いたよ〜。ガサガサって!』
――スイカの実を抱いて炎天下で眠っている精霊の場合。
『知ってるー。ボクの下の実が時々揺れるよ〜。ゆらゆらって!』
知らない精霊から謎の嗜好を教えられることを経て、有力な情報をゲット。最初から実に抱きついてるやつに聞けばよかった話なんだけど、畑で目に入った順から聞いてたもんで。
『それってどんな奴だか知ってる?』
『知ってるー。黒いよ、白いよ』
……リバーシ? 精霊に聞いても的確な答えが返ってくるとは限らない。
『大きい?』
『ボクの実より小さいよ』
『いつくるかわかる?』
『さっきもいたよ〜? どこかの実にいるんじゃないかな?』
おっと! 犯人が現場にいる模様!