第665話 甘いスイカ
第665話 甘いスイカ
精霊たちが指す方向、丸いスイカの一つに近づく。
ここにあるスイカは艶のある緑に黒に近い濃い緑の縞の、覚えている日本のスイカよりひとまわり小さな丸い玉。
こっちに元々あったスイカより大層甘い。日本のスイカと比べたら糖度は落ちるけれど。そもそもこっちのスイカは甘さの前に苦いし。
スイカは日陰の涼しい場所に置いておけば、数週間から長くて数ヶ月もつんで水分の貯蔵がメインなんだよね。
エスの人たちには、死後の長旅の道中に水分が必要だろうと墓にスイカを供える習慣もあるみたい。
苦いスイカは利尿剤として用いたり、冷やした皮を熱射病になった子供の額に当てたり、解熱のために使われたりと色々活躍してた。最初に甘いスイカを作ろうとした時に色々調べたこと。
利尿作用も解熱作用―― 血行促進、体の余分な熱を放出しやすくする作用があって、間接的な解熱効果だけど――もそのまま。皮を額に貼るのは甘くなったせいでちょっとベトつくけど、問題ないだろう。
元々の苦いスイカと同じように、食物として以外の効果も求められる可能性は高いからね、その辺はチェックしました。
目の前にあるスイカは丸くて穴が空いている様子はない。
「エクス棒?」
「あいあいさー!」
エクス棒でスイカをくるっとひっくり返す。
ありました穴。いました白と黒のモコモコ。なんだろうなんの精霊? スイカと同じように丸くて、毛だけでできてるみたいなもこもこ。あれだ、ファーチャームっていうのか? 女性の冬のバッグとかについてる丸い毛皮のキーホルダーみたいなの。
あれの白黒がスイカの中でふこふこ動いてる。そしてふこふこすると果肉が消えてく。
スイカを食べる精霊??
『えーと、君はしゃべれる?』
ふこふこ
……こっちの言ってることはわかるけど、しゃべれない系かな?
「ご主人、これ新しい精霊」
「うん?」
ふこふこ
エクス棒の言ったことにふこふこする精霊。
「誰か魔力の強い人間が垂れ流した力で生まれた感じかな? 存在が淡いし、生み出そうとして生み出したんじゃないな」
「そうなの?」
「うん、たぶんな!」
ニカッと笑うエクス棒。
たぶんて言ったけど確実なんだろうなこれ。というかエクス棒に精霊の性質見分ける能力あったんだ?
「ご主人?」
笑顔のエクス棒。
すみません、コンコン以外の性能をいまいち覚えていないというか、頑張って思い出します。
「――この近辺で魔力の強い人間っていうとカーン? 『王の枝』って精霊寄せの他に、精霊を生み出す効果もあるんだっけ?」
「あるけど、今回は違う。『王の枝』は自分の生み出した精霊ってちゃんと把握できるんだよ。繋がってるからな!」
なるほど?? 眷属みたいなものか。カーンが生み出した精霊なら、スイカに害が出てる話があったらすぐ思い至るだろうし、エクス棒の言う通りカーンじゃないだろう。
「じゃあハウロン?」
「そこは分からん!」
わははと笑うエクス棒。
スイカの玉の中でふこふこしている精霊ごと、ツルから切り取る。とりあえずハウロンに見せてみよう。見せても普通は光の玉に見えるんだろうけど、ハウロンから生まれた精霊なら姿が見えるんじゃないかな?
「ご主人、スイカ、スイカ。食べたい!」
「ああ、じゃあ一つ食べてから行こうか」
味見です、味見。
「甘いやつ選ぼうか」
「おう!」
いったんふこふこ入りのスイカを置いて、嬉しそうなエクス棒とスイカを選ぶ。
「どんなのが甘いんだ?」
「まず、小さいものより大きいもの、縞がはっきりしてるのを探そう」
「おー!」
スイカ畑を見回す俺。
スイカの上にいる精霊が手を振ってくる。服の縞がはっきりしてるやつはどれだ? スイカの現物より見分けやすい縞だ。
「ご主人、あれ、あれ」
「ああ、良さそう」
エクス棒が指す方向を見ると、縞模様がはっきりしたワンピースを着た精霊がスイカに座ってる。
「失礼」
スイカ本体を撫でる。黒っぽいほうの縞がちょっと浮き上がってぼこぼこしてるのがいい感じらしい。
花がくっついてたお尻の丸いとこは大きくって、ツルは細いほうがいいんだっけかな? あとは叩くと軽い音。
エクス棒でコンコン。
「どうだ?」
「……」
軽いか軽くないか判別つきません!
キラキラと期待に満ちたエクス棒の眼差し。
【鑑定】! ――という名のカンニング!!!!! 今が使い所でした!
「このスイカで正解。甘いよ」
「おう! 割っていい?」
「もちろん」
エクス棒でコンコンして割って食べた、とても甘かったです。