第666話 1件解決
第666話 1件解決
ふこふこ入りのスイカを持ってハウロン――リンリンのもとへ。やっぱり地下道ほしいなあ。
執務室では相変わらず鬼気迫るというか、切羽詰まった感じの文官と積み上がった書類に目を通し、決裁しているリンリン。
「休憩とか仮眠とったほうが能率が上がるぞ。ちょっと休んだら? はい、スイカの差し入れ」
ふこふこ入りじゃないですよ、ちゃんと中身が詰まってるやつです。
「早いな。もう解決をしたのか?」
リンリンが顔を上げる。
書類から手を離そうか?
「解決というか、原因の精霊を一匹連れてきた。リンリン、こいつに見覚えというか、なんか既視感みたいなのない?」
ふこふこが見えるように穴を向けてスイカを差し出す。
「既視感……?」
リンリンが微かに首を傾げる。
ハウロンと違って、動きも最小限みたいなこう……。眉間に皺常備だし、不機嫌そうに見えるんだけど、これがリンリンの通常営業。
「なるほど、これが『パンダ』か」
「パンダ」
何故に!?
「そなたに聞いてから気にはなっておったのだ。しかし、畑が食害に合うのならば、縁がなかったほうがよかったな」
俺!?
……。
初めて会った時に、リンリンの名前についてパンダみたいだって思ったんで、その流れで言ってる気がする。というか、パンダという単語は確実に俺から出てるな? だって、みんなパンダ知らないもん。
そんなにパンダ気になってたの? うっかり想像が精霊に形を与えちゃうくらい? というかパンダじゃないです。白黒ふこふこです。
「植物をかじる、白黒に色分けされたもこもこ――だが熊らしくはないな? 特定の、と注釈がつくのであったか」
そう言いながらリンリンがふこふこを詳細に見ている気配。
記憶力いいな!? おじいちゃんなのに!!!
大賢者の記憶力にびっくりしつつ、熊を想像する可能性もあったのか! とちょっと慄く。
「『見える』ということは、ずいぶん儂と相性がいいらしい。使い魔にしたいところであるが、そうするには存在が淡い、な。スイカの食害にも対応せねば」
「リンリンは休んだほうがいいと思う」
もしくはどこかでどかんどっかんやって魔力を消費してください。
「交易を円滑に進めねば仕事は増えるだけだ。この精霊の起こす食害を止めることは、近々の仕事を減らすことにもつながるのだ」
「うん、リンリンは休んだほうがいいね」
ふこふこが入ったスイカを持つリンリンにまた同じ言葉をかける。
「……」
「……」
眉間の皺を深め、不審そうに俺を見るリンリン。その視線を受ける笑顔という名の無表情な俺。
リンリンの表情が崩れる。
「――アタシが原因なのね?」
「はい」
ハウロン登場。大賢者、話が早くて助かる。
「これがこの姿で植物齧ってるのは俺が解説せずにそのままにしてたせいかもだけど、生まれちゃった理由はハウロンの魔力、机に齧り付いててストレス溜まってるんだと思うよ」
ガスぬきの代わりに魔力を漏らさないでください。
「定着するほど強い存在ではないから、ハウロンの魔力が漏れなきゃスイカの食害は収束するよ」
リンリンに働かせるんじゃなくって、ちょっと寝るなり南の島でバカンスするなりしてください。
新感覚パンダを量産する前に休んで?
「わかったわよ」
はーっとため息を吐いて返事をするハウロン。
「次の問題精霊は?」
まだある?
「精霊絡みって決まったわけじゃないんだけれどもね。アタシが調査したわけじゃないし、原因を特定できなかったものが精霊のせいにされている感じよ」
訂正しながら書類を渡してくるハウロン。
そうね、精霊のせいって先入観はダメだよね。精霊が『見える』ハウロンの調査ならばともかく、見えないまま出した結論は確実とはいえない。
リンリンよりハウロンのほうが柔軟だなあと、思いながら書類を確認する。
「一件ずつ報告にくるのも面倒だし、何件かまとめてくれる?」
そう言うと10枚くらい書類が来た。
精霊事件、ありずぎじゃない? いや、カーンとエスの神々のおかげで精霊人口高いからしょうがないのか。
「お願い。アタシは、スイカが間に合わなかった時に備える必要がなくなったし、忠告どおりちょっと休むわ――今やっている書類の指示が終わったら」
そう言って机の上に視線を落とす。
「そう言って続けちゃうやつ。まあ、すぐに放り出せないのもあるだろうけど、夕方には休めるようにして」
指示待ちの部下もいるだろうからね、指示は明日以降にするとか連絡したりする時間もいるだろうし。
「わかったわ。『パンダ』についても後で教えてくれるかしら?」
素直に話をきくハウロン。
まあ、自分の過労が原因で問題起きてたらね。
「うん、バカンスセットもつくっとくから」
「バカンスセット」
ハウロンに背を向け、手をひらひらと振りながら部屋を出る俺。夕方までにこの書類の事件を解決しちゃいたいよね!