第669話 バカンスといえばトロピカル
第669話 バカンスといえばトロピカル
「ハウロン、リゾートの準備できたぞ」
執務室に入ってハウロンに声を掛ける。
「待って、もうちょっと」
「待ちません」
却下です。エンドレス仕事の気配は断ち切る!
「ハウロン様、ここは私たちが」
「ハウロン様の秘術のおかげで物事が早く進んでおります、机上で終わる作業でしたら私どもが」
同じ部屋でカリカリ書類を作っていた人たちが次々にハウロンに休むことを勧める。
これはあれだ、ハウロンが【転移】で色々済ませてくるんで、待ち時間がなくなってるのも忙しい原因だな?
まあ、一番は人がいきなり増えたというか、国がいきなりできたことなんだろうけど。しかも交易付き。
交易の仲買やってるソレイユは優秀だからちゃっちゃと進めてそうだし、俺も船やらなにやら後押ししちゃったしな。猫船長もいるし。
うん、体制できてないところにどばっと来たね!
国の立ち上げって大変だな。俺は島の時はどうしたっけ? うん、建物造って畑やら果樹やら整備してアウロとキール、ソレイユに丸投げたね! でも住人はちょっとずつ増やしたし、商売相手は隣のナルアディードだし、この国よりましのはず。
……後でソレイユに何か差し入れよう。
「さ、ハウロン。転移、転移。秘術でGo!『ハウロンの足元に何かそれらしい魔法陣だして〜』」
後半は口を動かさず、ハウロンの精霊に頼む。
赤い帽子の土の精霊ツォルキオンが現れて、ハウロンの下の床に円の中に色々幾何学模様が描かれた それらしい ( ・・・・・ ) 模様を出してくれた。
ご協力、ありがとうございます。実際には俺の【転移】で、有無を言わさず執務室からオアシスに飛んだんだけどね。大丈夫です、大賢者の秘術です。
「ちょっ……! ツォルキオンまで!!」
「4精霊も心配してるんだよ、ハウロンのこと」
俺の言葉に同意したのか、一反木綿が心配そうにひらりと顔を出し、ファンドールもぼっと一瞬火を灯す。姿は見せないが、今ハウロンの額に水滴を落としたのは泉の精霊トリスだろう。
使役者が弱ると主人が好きな繋がりが強い精霊は、一緒に弱ったりするし。強制的に契約してたりすると、使役者が弱ったところで脱走するんだけどね。仕返し付きで。
「……」
下を向いてハウロンが深いため息を一つ。
そして顔を上げてあたりを見回す。
「ここはどこかしら?」
「砂漠にあったオアシス。そこにビーチチェ……寝椅子があるから」
ハウロンの背中を押して、ボコっと生やした建物に連れてゆく。
「いや、待って。あきらかに周辺の植物も整えてあるわよね?」
「整えておきました」
花も植えたし、ボコっと建物からの眺めが一番いいようになってます。
「無茶言わないで!」
「大丈夫、大丈夫」
「大丈夫じゃないわよ!」
文句を言ってくるハウロンをなんとか椅子に座らせる。よかったハンモックやめて、流石にハウロンを載せるの大変だった。
「何も考えずここで夕日でも眺めてごろごろどうぞ。はい、飲み物」
トロピカルジュースにしようかと思ったけど、トロピカルカクテルにした。
青色はハードル高そうだったので、オレンジ色。ゴールドラム、オレンジジュース、レモンにバナナリキュール。くし切りオレンジと食べられる蘭の花、ミントも飾ったとも。
なかなかベタなかんじに出来上がったと思う。
「ううう。泉は美しいし、花の甘い匂いは漂ってるし、風は優しく吹いているし、精霊の気配がそこかしこにするし……、何かまた飲んだことのない酒を手渡されてるし!」
ハウロンが目を合わせずぶつぶつ言いながら、グラスを受け取る。
「こっちはフルーツ盛り合わせね」
食べやすい大きさに切って、ピックをつけてある。
オレンジ、グレープフルーツ、メロン、マンゴー、ドラゴンフルーツ、パイナップル。色の変化にブルーベリーを程よくちらし、再びの食用蘭。
食用蘭 だけ ( ・・ ) はこっちで育てた花。なんか俺が料理の飾りだなーって思ってたせいか、食べやすい花に育ちました。本当は島のチャールズに見せようと思って育ててたんだけどね。
「また知らない果物が載ってる気がする……。大丈夫、この辺は知ってる果物、これは今育ててるマンゴー」
ハウロンが慎重にフルーツの盛り合わせに手を伸ばし、マンゴーにピックを刺す。
オレンジ色のてらてらと果汁に覆われたようなマンゴー。
「……!!!!」
なお果物各種は【食糧庫】から持ち出した甘いやつです。こっちで育て始めたやつも他の国のものに比べれば甘いけど、日本の果物は別格だからね!