第670話 サービス
第670話 サービス
「……」
ハウロンが何故か打ちひしがれている。
「最終的に目指す果物の甘さなんだけど、食べるのちょっとでよくなっちゃうから、特別な贈答用とかで希少価値つける方向のほうがいいかなって思ってます」
日本の果物って貪り食うには甘すぎると思う。
こっちに来て、味が薄かったり酸っぱかったりする加工向けの果物の中で、時々すごく「美味しい!」ってものに当たるとお腹いっぱい食べたくなるんだけど、日本の果物はそうじゃない。
「……」
俯いたハウロンの肩がぷるぷる震えている。
「うん、甘い果物って衝撃だよね」
わかるよ、俺はこっちの酸っぱいリンゴとか衝撃だったもん。
「……でも衝撃……のに」
表情の見えないハウロンから声が漏れる。
「うん?」
何が衝撃? 甘さ?
「スイカでも衝撃だったのに、さらにおかしな果物を出してこないでちょうだい!!! 段階というものを考えて!!!!」
がばっと顔を上げて俺を睨み、怒鳴るハウロン。
「スイカももっと甘いぞ。フルーツ盛り合わせにもあるからどうぞ?」
スイカとかトマトに豊富な栄養素リコピンは、メラニンの生成を促す活性酸素に対して効果抜群。赤い範囲が劇的に広がったこのスイカ、日差しが強い砂漠でおすすめです。
こっちのスイカ、割ると白いところの方が断然多くてというか、少し赤いのもあるんだけど、淡い黄色や白色で、ああスイカって瓜だったなっていう感じなんだよね。リコピンは赤い色素の一種なんで!
なお、黄色いスイカは黄色の色素であるキサントフィルで黄色いそうで、こっちも抗酸化作用があるし、紫外線に含まれる有害な青色をカットするんで、眼の疲労回復や、白内障とかの眼病の予防にいいそうです。
黄色いスイカは『食糧庫』にないけど。
「アナタの段階は巨人の階段よりもすっ飛ばしてるのよ!! もっと一般の人間の歩幅に合わせてちょうだい!!!」
ハウロンが叫ぶ。
「ハウロンにならいいかなって」
時々血管が心配にならなくもないけど、そっと精霊に見てもらったらディーンより血管柔らかくて問題ないみたいだし。
まあ、倒れても【治癒】があるしね。俺の目の前で倒れてもらった方が、癒やせてその後に健康の心配がなくなるかもしれない。
「よくないわよ! 優しくしてちょうだい!!!」
「そこは大賢者、頑張って! 異世界の文化の研究、研究」
「ううう……」
ハウロン、研究っていう言葉に弱いよね。
知ってる中で一番俺の話を理解して、こっちの世界に落とし込んで広めることが得意なのがハウロンなんです。諦めてください。
レッツェたちも話は理解してくれるし、相談すれば色々考えてくれるけど、広めるのはあくまで俺になるんだよね。ハウロンなら広めてくれる上に、住民のニーズに寄せたモノを作ってくれそうだし。
色々広めたいんだけど、俺がいいと思っている日本のものが、こっちの生活文化に合ってるかどうかってちょっと不安がある。
ずっと続いてきた歴史や習慣、地形や気候も影響するだろうしね。ちょっと見てまわったくらいじゃ、わからないことだらけだ。
こっちはさらに精霊の影響もあるんですよ。日本にいた頃はとんでも説だって馬鹿にするようなことも、精霊によって『本当のこと』になってたりね。しかもその精霊のいる地域だけでとか普通にあるので!
本当はハウロンの言うように、ゆっくりとした段階を踏んで広めるほうがいいんだろうけど、多分世界って何かが停滞してる。だからこそシュルムは勇者召喚をしたんだろう。
そして、その停滞してる何かって精霊と物質のバランスとは別な気がしている俺です。
どこかにいる存在が「これは違う」とか「またか」とか思ったら、世界をかたちづくる強い精霊か物質界の文明、あるいは両方を消して、まっさらからとは言わないけどつくり直しみたいな。
俺の考えずぎならいいけど、文明が唐突に滅びすぎじゃないかと思うんですよね。反転した『王の枝』とか強大になりすぎた精霊の起こした事故に巻き込まれとかもあるだろうけど。
メールの人たちの反応を考えると、『王の枝』をはじめ強い精霊が狂うように誘導してない? って思ってしまう。
一回壊されている火の国と同じ国を造ることにちょっと不安がですね……? 喚ばれた俺は、色々物を増やせと言われているんで、カーンの国もぜひその方向でお願いします。
だからハウロン頑張って!
涙ぐみながらスイカを齧るハウロンに心の中で語りかける。
「とりあえずゆっくりして英気を養ってください」
「これでゆっくりできると思わないで」
「給仕に精霊ノート呼ぼうか?」
「ますますゆっくりできないからやめて!」
「本物ノートの方がいい?」
「さらっと巻き込む!? アレは叫ばないだろうけれど、思考停止してるだけだからね!?」
だめのようです。