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第671話 好きな本

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第671話 好きな本

水面で精霊がダンスを踊っている。

優雅、優雅。ランバダとかサンバじゃなくてよかった――って考えた途端サンバはやめてください。俺の思考を読まないで! こっちでサンバなんて見たことないから!

なお、こちらで見たことあるのはベリーダンスっぽい踊りくらいです。本で読む限り、中原の城ではワルツ系、田舎ではチロリアンダンス系があるらしいんだけどね。

実際見たのはカーンの国のお祭りでベリーダンスっぽいのだけ。アッシュがいたし、視線をなるべく向けないようにしてたんでちらっとだけど。

薄着の女性の体がどうのより、ふわっとする薄い布の動きが綺麗だったな〜という印象しかないんで、衣装と砂漠のイメージから日本にいた頃のベリーダンス成分が多分に混入してます。

なのでベリーダンスに変えなくてもいいです。茄子みたいな体型だったり、鳥だったり蝶々だったりに近い姿の小さな精霊たちのダンスには色気もなく、ふわりとする布もなく、しばらくベリーダンスだってわからなかったよ!

俺に合わせなくていいから好きに踊っていいぞ? 観客はハウロンメインだし、あらたまった席でもないし、こういう時は楽しいのが一番だと思います。

「綺麗ね。空を舞う精霊と湖面の鏡に映り込む精霊たちの淡い光、篝火のオレンジが揺れて――環境は文句なしに最高よ。微妙に飲み込めないところもあるけれど、ありがとう」

ハウロンがホゥと一つため息をついて言う。

そうか、ハウロン精霊の姿が光に見えるのか。相性がいい精霊の姿なら見ることができるって話だったけど、踊っている精霊と相性はよくない――というか普通なんだな?

まあ、見えない方が幸せなこともあるよね。クリスの顎撫で精霊とか、腹筋が試される系だし。

「ちょっと、何よその眼差しは?」

ハウロンが俺の反応に不本意そうな顔。

「いや、いつか同じ風景を見ることができたらいいなって」

俺だけ腹筋試されるのひどくない?

「そうね、いつか……」

ハンモックに身を預けて目を閉じるハウロン。

ん? なんか染み染みしてる?

「……」

しばしの沈黙。

「……待って。同じ風景見たことあるわね?」

目を閉じたまま、眉間の皺を深くする。

そういえばカヌムで俺が見てるくらいはっきり精霊の姿を見ることができる魔法陣のアイテム使ったっけ。

「……顎……」

みじろぎもせずハウロンが呟く。

「臭いフェチ」

クリスの精霊を思い出したらしいハウロンにディーンの精霊で返す俺。

「見ないことが幸せなこともあるのよね……」

薄く目を開き、顔を水面から逸らすハウロン。

「見えているほうがすごく綺麗なこともあるし、色々だけどね」

肩をすくめる俺。

なんかこう、人に近い精霊のほうがお茶目というか、悪戯好きというか……。

そもそも静かなことを好む精霊は人のそばよりは森の奥とか、雪の積もる平原とかにいる。精霊にだって個々で好みの環境というものがある。

荒れ狂う大海原とかマグマの奔流の精霊とかから人間が離れるように、精霊だって過ごしやすい環境に移動する。

人間や人間の生活環境が好きな精霊がたくさんいるのは自然なことだ。うん、顎や足の臭いに執着してても仕方ないんだな。

とりあえずハウロンがゆっくり過ごせるよう、1人にする。ハウロン、引きこもって色々思考することが好きなのに、たぶん宰相ポジしてるせいで滅多に1人になれてないだろうから。

精神だけでも1人になるために生み出したリンリンの人格なんだろうけど、精神だけでなく体も一緒に同じ時間と環境を過ごさないといけない気がする。

ハウロンの姿がぎりぎり視界に入るくらいの場所で、俺もハンモックを用意して読書。淡い魔法の灯りを浮かべて、精霊図書館から持ち出した事典を読む。

日本にいる頃から事典を眺めるのも好きだ。同じ題材のものを別な事典で調べることが好き。事典によって詳しく大きく扱われていたり、数行で終わっていたり。

どうしてそういう扱いになったのか、事典が作られた国や時代や編纂した人の背景を考えたり調べたりすることが好きだ。

詳しく書かれているってことは、事典が流通している場所で関心を寄せているひとが多かったのだろうし、数行で済ませているのは関心が薄かったのだろう。

あるいは編纂したりさせたりした国や人が、その事柄を誇りたいものだったり、忘れてほしいものだったり。

単純に記載されたもので雑学もつくしね! 事典見るの楽しい。