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第672話 工房の精霊

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第672話 工房の精霊

ハウロンをもてなした翌日は、パスツールに向かう。

ハウロン、本を読んで徹夜だったけど。もてなしはできたけど、当初の目的の休ませるは失敗した感。

気づいて途中で取り上げようとしたら、鬼気迫りすぎる懇願に諦めました。ちなみに精霊図書館から持ち出したものの写本だ。

色々もらった能力のおかげで、一回読めばだいたい知識としていつでも 取り出せる ( ・・・・・ ) んだけど、絵が気に入ったやつとか、装丁が気に入ったやつは精霊ノートたちにレプリカを作ってもらっている。

色々格好いいんですよ、こっちの本! 権力者が自慢のために作らせた本とかね、もうページ数より別の部分が嵩張ってるよ! 魔導書的なものに見えるよ! 実際魔導書もあるんだけどね!!

日本にいたときには訪れなかった、中二病的なにかが疼きます。そんな理由で持ってた本なんだけど、ハウロンにとってはさらにテンションを上げるものだったらしく、色々だめでした。

大賢者、中二病説。

精霊図書館で火の国についても調べてるんで、その時にいいなってなったやつを作ってもらったのを持ってきたからね。

火の時代のものは本好きの王様が集めた本が多いから、火事で焼けてしまったはずのもの――ハウロンが読んだことがないだろうというのもあった。

カーンの時代前後のことが書かれているのと、古い賢者についてその時代の人が書いた本を選んだのは敗因だったね! ハウロンが興味を持たないはずはないね!

そんなことを思いながら、職人さんの元へ。

クリスの家にお邪魔するにあたり、お土産にする磁器を頼んでいる。代々騎士の家系でそこはかとなく歴史がありそうだしね、クリスのうち。

最初はお皿にしようと思ったんだけど、紅茶が流行っているみたいだし、ティーセット一式。

白磁にクリスの髪の金と瞳のエメラルドグリーンに近い色で彩色してもらった。エメラルドグリーンの染料は俺が作って持ち込んだ。

クリスの家は家族全員髪と瞳の色が一緒だそうで、一族の大部分も同じだって。弟のリードもそっくりだったしね。上半分だけど。

クリスの顔の上半分が母親似で下が父親似、リードは母親似、さらにいる2人の弟のうち、1人は上半分が父親で下半分が母親、最後が父親似で病弱なんだったなたしか。

髪の色と瞳の色以外も全員そっくり疑惑。

「ようこそ」

突然来た俺に作業しながら挨拶してくる工房の人たち。

「いつも突然でごめん」

そう言って見学を始める俺。

事前予告せずに俺が来るんで、作業の区切りがつくまで放置してもらっている。

パスツールで頼んでるのは、ホーロー作りと磁器作り。どっちも盛況で町全体に活気がある。

ホーローの方は、バスタブはでかいし高いので受注生産だけど、洗面器の需要がすごいみたい。バスタブは買えないけれど……っていう感じだそうだ。

磁器の方は貴族や裕福な商家向け、直接注文依頼がある場合も多いけど、ナルアディードに流している。

「お待たせしました」

手を拭きながらやってくる親方。

「もう大丈夫なのか?」

「ええ。絵付けは人を増やしましたし、そう忙しくはないんです」

俺に対して丁寧な物言いなのは、白磁と染料のレシピのせいだ。秘匿するつもりも独占するつもりもさらさらなかったので、普通に教えた。

『皿だけに』

親方にくっついてる精霊がケタケタ笑っているが気にしない。エクス棒というか、島のハニワと相性がよさそうな精霊だ。ものすごく騒がしくなりそうだけど。

交友を始めた頃はいなかったのに、親方にいつの間にか憑いてた。これで窯の火加減の見極めを助けてる精霊なんですよ、観察してると。しょうもないことばっかり言ってるのに、的確っていう。

話を戻すと、風呂もそうだけど食器の類はもっと広がってほしいからね。パスツールはもともと陶器というか、正しくは 炻器 ( せっき ) で有名で、こっちもまだ健在。

茶褐色のどっしり重たそうな地に、エナメルで模様を立体的に描き出したヤツで、壺とか花瓶が多い。重たいから花を生けても安定してる。

広めたいと思いつつも他の町にレシピを伝えるのは控えている。パスツールの産業になりつつあるのも理由だけど、どれくらいの薪を使うんだか知らないけど、これ以上木々が減ったらどうしようってなったことが大きい。

中原が森だったころは、パスツールからカヌムあたりまで、それぞれ特色がある陶磁器をつくる町が点在してたらしいんだけど、今は豊かな森とはほど遠く、廃れてしまった町がほとんどだ。

薪の問題だけじゃなくって、戦乱も大きいけどね。

「ご依頼の分、出来上がっているので今持ってこさせます」

「おお、ありがとう」

『蟻が十歳』

親方の肩の上、肘枕で寝転びケタケタまた笑う精霊。

「いえいえ。いつでも作りますんで」

『私の家はココです。この親父のこの耳の後ろ』

親方の耳を引っ張る精霊。

引っ張れてないんだけど、親方が耳に手をやる。

――工房主に憑いてる精霊の言葉は全力スルーです。