第677話 問題解決に向けて
第677話 問題解決に向けて
「端的に言うと、精霊同士が弟君の顎で争っています」
視線を逸らして言う俺。
「サミルの顎で? 何故よりによってそんな場所で争うんだい?」
クリスが珍しく眉間に皺を寄せている。
「争うというか競ってるというか……。愛されてはいる」
そう言いながら、クリスの顎に目を落とせば、同意するかのように得意げに顎の割れ目をぐりぐりする精霊。
「顎か。まさか二匹で割れ目争いしてるんじゃねぇよな?」
相変わらず察しがいいレッツェ。
俺の視線を辿って、クリスの顎で思い出したんだな、顎精霊の存在と行動。
「割れ目争いというか、顎割れラブ派と顎のラインラブ派がどっちがたくさん撫でられるか競っているというか……」
「顎割れラブ派と顎のラインラブ派……」
遠い目をするディノッソ。
「なお、家族全員顎に精霊がいて、顎の割れ目の有無でそれぞれのフェチ精霊が憑いてる。サミル君はちょうど派閥の中間にいるのかも?」
「派閥でございますか……」
執事が呟く。
人間にとってはしょうもない派閥かもしれないけれど、精霊的には好きなものって、存在のアイデンティティに関わったりするので大事なんだよね。
「精霊、見えるようにしていい?」
ばっちり精霊の姿まで見えるようにする魔法陣、あります。
こんなこともあろうかと、たくさん作っておきました!
「いらん。俺に精霊世界まで考えて生きる器はねぇ」
巻き込もうとしたらレッツェに却下された。
「レッツェは細かい情報を拾いすぎっからな。精霊の世界も見えて、情報が2倍になったらすげー疲れそう」
ディーンが言う。
なるほど、それは疲れそう。しかも情報拾ってつなぎ合わせても、精霊の場合は理不尽さが際立つだけで、結果を予想することは難しい。
その場を見てたり、よく知ってる精霊だとわかりやすいけどね。クリスの精霊だって、誰が見ても一目で顎の割れ目が好きでなぞってるんだなって分かるもん。何で好きなのかは謎だけど。
見えないところや少し先まで予想しちゃうレッツェには疲れる世界だろう。ディーンって人のことをよく見てるよね。
「俺は面白いから貰っとく、なんか役に立てるかもしれねぇし」
「はいはい、お願いします」
にかっと笑うディーンに精霊見える君ハイパーを渡す。
効果時間の長さの改善と、相性が良い精霊だけじゃなくて悪めの精霊も見えるようにした魔法陣です。起動は仕込んである魔石を潰すことだけど、本人の魔力を補充し続ける感じ。
「アタシも見るわ」
「うむ、もらおう」
「まあ、ちょっとの間ならな」
「お願いするよ!」
精霊が見える世界参加者はディーン、ハウロン、アッシュ、執事――アッシュが参加するからには執事も参加するだろうと、可否を聞かずに渡した――ディノッソ、クリス。
シヴァは子供たちをそばに置いて、少し離れてこちらを見てる。邪魔をしないようにの配慮なのだろう。あんまり人数が多くてもカオスになるからね。
「よし!」
希望者全員に渡ったところでディーンが気合いを入れて起動させると、間をおかずにみんな魔法陣を発動させた。
「はぁ〜! やっぱドラゴン格好いい!!」
ディーンはディノッソのドラゴンにまた感動してる。
「相変わらずねぇ……」
クリスの顎に視線がいっちゃうハウロン。
「さて、見えるようにはなったが、当事者が不在であるな。サミル殿の精霊もクリス顎にいる精霊と同じような行動をとっているのだろうか?」
アッシュ。
前振りがあったとはいえ、見ても動じないのすごいです。
「顎を撫でると何故具合が悪くなるんだ? あんまよくねぇ精霊か?」
ドラゴンをきにしつつ、ディーンが聞いてくる。
黒精霊じゃなくっても、自然にいて当然の精霊が人間には害を及ぼすパターンも多い。
「いや。顎をすごい勢いで撫でてるから、サミルの精霊体? 魂? まあ、そんな感じの肉体に重なってるヤツが首の辺りを起点に頭が揺すられてて、脳震盪っぽいもの起こしてるんだと思う」
存在自体が害をなすパターンではなく、行動がね! 困るよね!
「それはどうしたら止めることができるのだろう?」
クリスの視線が俺とハウロンの間をゆっくり行き来する。
「精霊の悪戯が続く場合、基本的にもっと好きそうな場所を提供して移ってもらうの。この場合、顎割れ派と顎のライン派のどちらかに、より好みな顎に移ってもらう――のだけれど」
頬に手をやって首を傾げるハウロン。
自分で言ってて微妙になったな、さては?
「クリスをはじめ、家族に憑いてた精霊は血筋に憑くタイプに見えた。いざとなったら俺が離れるように頼んでみるけど、精霊は気に入った人には色々能力をくれる場合も多いし、自主的に移って貰ったほうがいいかな?」
「機嫌を損ねて、あるいは全体が嫌われていると思い込んで居心地の悪さを感じたら、血筋に現れる精霊ごと他所へ移る可能性もあるってことね」
ハウロンが補足してくれる。
精霊がどこかに移って、クリスの第六感がなくなったら困る――困るよね?
「要するに、他にいい割れ顎か綺麗な顎を探せばいいんだな!」
ディーンが笑う。
いい割れ顎。
みんな順応性高くて助かる。どうやって説明しようか困ってたけど、案外普通に伝わった! 前にクリスの精霊を見ていたことが大きいよね。よかった。
そういうわけで、いい割れ顎か綺麗な顎探しスタートです。