第679話 注意
第679話 注意
「ジーンは道具道楽なのだな。家に揃っているグラスも家具もみな美しく、調和がある。そして何より実用的だ」
アッシュが真顔で言う。
「ま、名こそ知られていないが、ナルアディードでも商うような男だ。モノはいいから大事にしてやってくれ」
レッツェ。
アッシュからは純粋な賞賛、レッツェからは何か軌道修正的なものを感じる。
ナルアディードでも商う……嘘は言ってないな?
ソレイユが自分の商会と島の商売を分けてやってくれてるから、一応、ナルアディードで領主として商売してるはず。
完全に周囲が商会も領主もソレイユだと思ってるだけで。
「ええ。田舎者ですが、これの良さは一目でわかります。家宝にいたしましょう」
ものすごくわかりやすく感嘆した様子を浮かべながらクリス父。
――ティーセットは家宝にされるようです。
【転移】で来たので疲れてはいないが、遠くから着いたばかりなので、まずは部屋でおくつろぎくださいとなった現在。
クリスの家は、大きいけれど古い。
よく手入れされているけれど、色々なかなか……。
「これは布に蝋を塗ってる?」
開け放たれていた窓を半分閉めてみながら、誰に聞くともなく口にする。
「雨や霧が多い地域では割と多いぞ。ガラスは貴重品だ」
持ち込んだ荷物を整理しながらレッツェ。
ベッドの足側に木製の箱があって、そこに荷物を入れてるだけだけど。
すぐに持ち出せるようあちこちに広げたりしないのが冒険者の心得。
窓枠はあるけど、ハマっているのは絹かなんかに蝋を塗ったもの。蝋は水を弾くから、どうやらそれで雨や霧が入ってくるのを防ぐらしい。
なお、鎧戸も普通にあるので、昼間用の明かりとりかな?
カーテンついてないのは、蝋を塗った布越しの光だし、そう眩しくないからだね。窓を全部開け放つような時はカーテン使わないし。
「窓枠立派だな」
そう言いながらディーンが寄ってくる。
俺の案内された部屋は3人部屋だ。
「本来の窓枠と壁の隙間を塞いでんだな」
レッツェが覗き込んで言う。
「なるほど、隙間をまたぐように上からもう一つ窓枠つけて塞いだんだ?」
へぇへぇ。
クリスの家だけなのか、それともこの島に共通する建築デザインなのか気になる。
「それはともかくとして、あの磁器はやりすぎだぞ」
さらりとお説教に移行。
「この島にゃ、子爵家の他に2つの伯爵家がある。どうも武力や他の貴族の扱い的に、子爵の位でも対等でいるらしいが、普通だったら伯爵家2つに目をつけられかねない」
「う……。ごめん」
食器が争いの元になるなんて考えてなかった。
でも、家宝するって言うほどのもの、冷静に考えれば宝石とかでも欲しいものがあるなら争うんだから、高いものを贈るなら周囲の状況を考えないとダメでした。
この世界、欲しいものは武力で奪うって感覚がまだ残ってる場所も多いし、おおっぴらに攻め入ることをしないまでも、裏で色々されるかもしれないし。
「自分の価値観だけじゃなく、他人にとってどんな価値があるか考えて行動すること!」
「はい」
レッツェの言う通り、自分にとっては気軽に贈れるようなものでも、受け取り手とその周囲がどう感じるか考えないと。
今まで物を贈るのって、ほぼカヌムのみんなかソレイユたちにだったから、周りは考えたことなかったかもしれない。
「……窓枠に刻まれた模様は、子爵がしていた指輪と同じ模様だぞ」
レッツェが窓枠を指す。
「え、本当? これ、クリスんちの印章なのか」
家紋を瓦にゆけるみたいなものかな?
色々面白い。
俺の趣味は寝床となる家を整えることです。
中原の東端と、魔の森の北、温暖な内海の島に家がある。
カーンの国、砂漠のオアシスも整備した。
中原の真ん中は戦乱が続いてるから遠慮したけど、中原の西に当たるこの島周辺にも欲しいかな。
だって、もし能力を奪われてどこかに飛ばされたら、家に帰るまでものすごくかかる。
たくさん拠点があれば、どこかが近いかもしれない。
色々できることはしとかなきゃね。
少し落ち着いた後は、みんなで過ごせるようにと空けてくれた部屋に集合。
ベッドとかはなくって、ソファと椅子、テーブルがある部屋、そこでお茶をいただく。