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第680話 ハーブ茶

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第680話 ハーブ茶

「すっとするお茶だな」

茶を飲んで、渋い顔したレッツェ。

「む……」

アッシュの眉間の皺が深くなった。

「この辺りで採れるハーブのお茶だよ。懐かしい故郷の味ってやつだよ」

クリスがウィンクひとつ。

うっすら茶色と緑の液体は、なかなかクセのある味。紅茶も差し入れればよかったかな?

いや、慣れたら時々飲みたくなる味なのかも?

「なんとも言えない匂いはこう……」

鼻腔に籠るというか、すっとするくせに残るんですけど。

「ふふ。遠慮なく不味いって言ってくれていいよ!」

クリスが笑い出す。

「万人に好かれる味ではありませんな」

持ち上げたカップの中身を見つめながら執事。

「胃腸を整えて、体を温めるお茶さ。この島は霧がかかって、天気が悪い日が続くと結構冷えてね。このお茶で健康が守られているのさ。どこの家でも庭に植えてあるハーブの一つなのだよ」

そうクリスが説明してくれる。

どうやら味よりも健康のためのお茶らしい。

「そう言われるとぽかぽかしてきた気がするな」

のせられやすいディーン。

「そこまで強い効果じゃないけど、積み重ねだね!」

笑うクリス。

あれです、最近気づいたんですが、ディーンの匂いフェチの精霊って、ディーンのポジティブな思い込みをちょっとだけ本当のことにする力があるみたい。

ディーンの体の話で、外にまで影響があるほどじゃないけど。

多分本当に今ぽかぽかしてるんじゃないかな?

「ちょっとカメムシっぽい味がする」

「味がするね」

「匂いじゃない?」

子供たちが言い合う。

まって。

カメムシ食べたことあるの!? そんなお口でハグしてほっぺにチューなの!?

まさかそういう食文化!?

「……ねぇよ」

半眼のディノッソ。

「ないわよ?」

冷たい笑顔のシヴァ。

目があった二人が否定してきた。

どうやらセーフ。いや、子供たちがおままごとかなんかで食べた経験がある可能性も。

「――顎の件、何人か心当たりの血族に手紙を送ることになったよ」

クリスが笑顔を消して、真顔で言う。

顎の件って真顔で言うのやめてください。

いや、本人というかご家族は大変なんだろうけれども。

「精霊便と精霊の囁きを使うっていってたけれど、情報が届いて、暇を見つけて来てくれるまで、2、3日かかるかもしれない。面倒をかけてしまうけれど、着いたら見極めをよろしく頼むよ」

頭を下げるクリス。

「うん。お安い御用! そういえば精霊便とか精霊の囁きってどんなの?」

ナルアディード周辺だと対になってる魔道具同士で喋る無線みたいなのだったけど、囁きだとか便ってことは違うよね?

お届けかな?

海鳥くんは声を届けてくれたけど、そんな感じ?

ちなみに無線みたいな魔道具は、今考えると増えるタイプの精霊を使ったやつですね。

増えるタイプって、体はたくさんあるけど1つの精霊だから、聞いたことがその場で別の体にも伝わる。

ただ、数が多いほど強い精霊ってことで、2箇所を結ぶくらいが普通みたい。

精霊を使役するって、魔道具――魔法陣があっても、精霊を満足させるだけの魔力が必要になる。

小さな魔道具だとほとんど魔石で動くようになってるけど、小さな魔石で多くを満足させることはできない。

魔石も高いしね。

高いんですよ、なんか溢れるほど持ってるけど!

「囁きのほうは、年にいっぺん満月の夜しか使えないけれど、夢の中でしばらく話せるんだよ。最初に精霊と契約を結んでおいた相手とだけだけどね」

クリスが説明してくれる。

クリスはお父さんを対象に精霊の囁きの契約を交わしてるそうだ。ちなみに弟のリードはお母さんとだって。

「精霊便はね、この島には手紙を届けてくれる精霊がいるのだよ。対で作った特殊な紙に特殊なインクが必要で、距離に応じた魔石もいるけれど、人が届けるより遥かに速いんだ。届けるというか、正確には紙に書いたことを、もう一枚のほうに精霊がやってきて書き出すんだけれどね」

クリスが説明してくれる。

「へえ」

「対で作ったものだから、お互い出せる相手は決まっているんだ。万能じゃないけれど、その不便さもなかなかオツなものだよ?」

笑うクリス。

来てほしい人のそばの、精霊便が届く家にお願いして呼び出しをかけるんだって。

「あら、こっちから出向いてもいいわよ?」

ハウロンが言う。

「頼む立場ではあるけれど、うちが本家だからね。――と、偉そうにしてみるけど、人を招けるような場所に住んでいない者もいる。呼ばれて、肉を振る舞われることを楽しみにしているところもあるのさ」

血族よりも俺たちに気を使ってってことかと思ったけど、クリスの話だとどうやら違う。

なるほど、本家に呼び出されるのって、上下関係だけじゃなくって、肉や調味料を使った『ご馳走』を食べる機会なわけか。

それにクリスの様子だと、呼び出しで生活するための作業を邪魔してしまう代わりに、作業を中断しても得になるように、何某かのお土産を渡してそうだ。

階級社会ってまだピンとこないけど、美味しいものを食べてそれを自慢できるってなったら、嬉しいかも?

少なくともクリスの家に呼び出されるのは、悪くないどころか嬉しいことのようだ。