第681話 家族の関係
第681話 家族の関係
クリスは元々明るいけれど、故郷への帰還が嬉しいのか、弟くんが健康になる可能性が嬉しいのか、本当によく笑う。
ディノッソ家といいイーズ家といい、家族との関わり方は違うけど仲は良好。
最初に出会ったアッシュ、ディーンの家族仲は微妙な感じだったけど、たぶんいきなり仲良し家族を見せられたら、むしろ嫌な気分になってたような気がするんで、よかったかもしれない。
――ディーンの方は、家族仲というか妹との関係が、精霊の介在とはいえ、「精神的に妹に支配されてべったりしてる」ってことが、姉のいいなりな両親を見てるみたいで、実はだいぶ嫌だったんだけど。
姉の場合は精霊じゃなくって、心理的な駆け引きで支配してる感じだったけどね、構造的には一緒だ。
今のディーンは好きだ、本当に安易に【縁切り】使わなくてよかったと思う。
精霊から解放された妹さんはどうしてるかな? 今度カヌムに戻ったら聞いてみよう。
今は関係が良好な家族を見ることは、羨ましくも微笑ましい。だいぶ穏やかな心情。ディーンの妹との関係を気遣うくらいの余裕が出てきた。
アッシュとお父さんの関係も気になるけど、こっちは貴族なこともあって、元々淡い関わりしかなかった風なんだよね。
おそらく貴族の家族への関わり方は、俺の思うものとは違う。それをよしとするところに、首を突っ込む自信はまだないです。
何をしていいかわからなくて、ただそばにいるだけのヘタレなことは認めよう。
人生経験本当に少ないんですよ!
山の中に放置されたり、異世界召喚されたりしてるけど! 人間関係は壊滅的です!
「夕食の後、村一番の語り部を呼んだから、楽しんでくれたまえ。今日は初日ってことで、短い話を5つ、6つお願いしているよ」
「長いものはどれくらいなのかしら?」
ハウロンが果敢にお茶にチャレンジしながら訊ねる。
「長い物だと7晩に渡るようなものもあるのだよ!」
笑って答えるクリス。
「長っ!」
「ここにいる間に、聴き終わらねぇな」
ディーンとレッツェ。
「ははは。短いものもたくさんあるからね、全部聞き終わるには住むしかないよ!」
声を上げて笑うクリス。
そして夕食。
メインはラムのグリル。
フォカッチャのようなハーブを散らしたパンに、とろりとした焼いたチーズ。
マッシュポテトと見せかけて、豆。
ブランデーみたいな琥珀色の酒。
子供たちにはその酒を薄めて、何か果物の砂糖漬けを入れたもの。
「田舎でなにもないですが、歓迎します。どうぞ召し上がってください」
クリス父の挨拶で食べ始める。
多分、俺たちのために羊を一頭潰してくれたんじゃないかな。
フォカッチャのようなものに散ってるハーブは正直いらないって思ったけど、それを焼かれてとろとろになってるチーズにつけて食べるとなんとも言えない味。
焼いたチーズは何か酒を混ぜてるらしく、癖がありそうなチーズをまろやかにしてる。匂いも味も。
ハーブ入りのフォカッチャのようなパンと合わせると、素朴なくせに複雑な味で美味しい。
「このハーブ、癖になりそうだわ」
微妙に戸惑いながらハウロンが言う。
最初のお茶、なかなかの味だったもんね。
「このチーズもいい」
美味しいです。
「このチーズは秋と冬にしか作らないんだよ。保存期間は短めで、今の時期には食べ終えるものなのだよ」
「へえ」
クリスの説明を聞きながらまた一口。
ハウロンじゃないけど、このハーブにも慣れてきたぞ? むしろないと物足りないのかもしれない。
クリスの近況を家族に教えたり、こっちの名物や暮らしぶりを聞いたりと、たわいない会話をかわしながら、食事を済ます。
食事の後は部屋を移動。
食堂はランプが点けられ明るかったけれど、案内された部屋は暖炉の火だけ。オレンジ色の火が揺めき、壁に映った俺たちの影が別の生物みたいに動く。
テーブルと椅子だったのに、この部屋は毛足の長めな絨毯が敷かれ、丈の低いソファと、クッションが置かれている。
暖炉のそばに小さなお婆さんが一人。
「やあ、焚き火の婆様。久しぶりだね、今日は野外じゃないけれど、友人たちに知っている話を聞かせてやってほしい」
クリスがお婆さんに話しかける。
どうやらいつもは野外で話す人らしい?
「イーズのぼん、久しぶりだな。こんな婆あの話でよければ聞くがいいさ」
クリスとお婆さんが短い会話を交わす間、セバスチャンによって酒と子供用のバター茶が配られる。
どうぞお座りください、と無言で勧められ床に胡坐をかく俺。
みんな好きなように床に座り、誰も使わなかったソファにはハウロンが横向きに半分寝てるような感じで座る。
うん、ディノッソ親子が集まって、ディノッソパパのかいた胡座に双子が収まってる。
飲み物をみんなが一口二口飲んだところで、お婆さんが話し始める。