第694話 もだもだと
第694話 もだもだと
料理を出してアッシュの隣に座り、色気のない会話中。
時々みんなに残念そうな目を向けられることがあるけど、色気のある会話がわからない俺です。
アッシュは安定の熊狩りもこなしたらしく……こなしたから次の依頼も熊狩りだって。熊の出没が増えているらしい。
「おそらく魔の森奥での 冒険者たち ( ・・・・・ ) の活動が活発になり、弱い個体や単体の行動に長ける魔物が移動して来たのでしょう」
と、執事。
それでなんで人の多い町方面に移動するかな? って聞こうとしてとどまる。執事の視線が一瞬、酔い潰れてるディーンとクリスに送られたから。
2人が魔物を追い散らしてるんですね? 2人の強さを知ってるから、魔の森のどの辺で暴れてるか大体わかった。
さらに奥に行くと熊より強い魔物と黒精霊がたくさんいるから、町側に移動して来たのか。
「うむ。だが、討ち漏らすほどではないので、安心していい」
真面目な顔でアッシュ。
「今までは依頼なしの持ち込みでしたが、ギルドからの依頼が出るようになりましたので」
相変わらずの笑顔を浮かべる執事。
だいぶ懐が潤ったんですね?
マッチポンプみたいな何かを感じるけど、ディーンとクリスへの依頼もギルドからだろうし、それによる弊害の熊駆除も含めてギルドの仕事だ。
まあ、儲かって何よりです?
アッシュは女性だから何日も魔の森の奥で依頼をこなすより、家に帰れる熊の方が今いもんね。風呂やらトイレやら。
――泊まりの依頼もこなしたみたいなんで、俺が勝手にそう思ってるだけかもしれないけど。
「ジーンは今、イーズ領に拠点を?」
「うん、予定通り作業してる」
「手伝いは?」
「手が空いたら願い」
アッシュの手があくまでに、力仕事を終わらせておこう。
ディーンとクリスたちが戻ったし、熊も落ち着いてくるはず。
「レッツェの予定っていつあく? 力仕事を頼みたいんだけれども」
「明後日。明日は休みとギルドに書類を受け取りに行く」
ワインを飲みながら、こちらに顔を向けずに答えてくるレッツェ。
なんで残念そうな顔なんだ? 横顔しか見えないけど、絶対微妙な顔してるよね?
執事を確認すると、安定のポーカーフェス。
何だ? 今の会話に何か問題が? アッシュの他に誘ったから? どちらにしても執事がついてくるし、2人きりではないんだぞ? レッツェとは先に手伝いの約束してたし。
そもそも家の建築に誘うな、とか?
「えーと、依頼が落ち着いたら、遠駆けでもいく?」
口にしながら気づく。
クリスんちでも馬は走らせてたというか、語りと遠駆けがメインだった。他に思いつかないんだよ! 息をするように口説き始めるディーンとか、妻帯者のディノッソに相談するべき!?
「うむ。湖畔までゆこうか」
「うん」
アッシュが言った湖畔は、カヌムでの遠駆けで一番遠いコース。
よし、約束したぞ! いつもの馬デートだけど!
「昼を期待しても?」
「もちろん!」
「楽しみにしている」
微笑むアッシュ。
俺は怖いって思わなくなっちゃったから自信ないけど、たぶん柔らかい表情。楽しみにされたからには腕によりをかけてお弁当作らないと。
「今の季節、湖畔から少し山側に足を伸ばすと、赤い実をつけたローワンが群生してるんでお勧めだ」
レッツェ。
「ローワン? おいしい?」
「すぐ食う方に行くな、景色を楽しんどけ。そのまんま食うなよ? ちと独特の苦味があって甘酸っぱい。ジャムかゼリーだな、酒もできる。枝は燃やすといい灰になる」
俺にダメ出ししつつ、ちゃんと食えるかも教えてくれるレッツェ。
「なるほど」
ちょっと調べてから行こう。
アッシュのために、現地で綺麗な風景のポイントを見つけておくこと。味の確認もしなくちゃ、どんなのだろう?
とっと、いけない。アッシュを案内する下見です、下見。
「アッシュは他に俺に一緒に行って欲しいところある?」
「む……。ジーンとならどこでも嬉しいが……そうだな、熊を一緒に狩ってもらえれば。すこし奥のほうも間引いておきたいし、今なら報酬がいい」
いつもと変わらない顔で告げるアッシュ。
アッシュのこの言葉と行動はカヌムの人たちの安心のため。でも自己犠牲的じゃなくって、ちゃんと報酬とのバランスも考えてる。
「そうだな、熊以外も移動してきてるかもしれないし、確認方々行こうか」
「うむ」
嬉しそうに頷くアッシュ。
執事とレッツェは目を逸らしている!
ズレてる自覚はあるけども、俺とアッシュはこれでいいんです。