第698話 人が寄りつかない場所
第698話 人が寄りつかない場所
朝、リシュと散歩。
日本にいた時は考えられなかったけど、早寝早起きの生活で慣れた。早起きイコール夜明け前だったりするんだけど。
魔法や精霊の力をかりた道具を使えば別だけど、ランプを使ってまで夜更かしするくらいなら、日の出とともに動いて、日の入りとともに休んだ方が面倒がない。
夜は暖炉の火だけでのんびり過ごす。夏は陽が落ちると涼しいとはいえ、火を焚いておくのは流石に暑いんで、冬より早寝。そしてその分早起き。
リシュも夜明け前後に散歩が希望みたいだし。別に繋いでいるわけでも、閉じ込めているわけでもないので、普段から自由に走り回れるはずなんだけど、散歩は別みたい。
俺も山の見回りがてらリシュと遊べるし、だいぶ規則正しく生活できてる。リシュは寒いくらいの方が好きみたいだし。
で、朝飯を食べたら、朝どれの野菜で弁当作り。今日はレッツェとアッシュにイーズ家領地にある家の修復を手伝ってもらうからね。
カヌムの家に行くと、もうアッシュと執事、レッツェが来てた。実はアッシュとレッツェ、ディノッソにカヌムの家の鍵を渡してあるんだけど、外に。
「おはよう。入ってくれてよかったのに」
「おはよう。今来たばかりだ、ここで会ってしゃべってた」
扉を開けて声をかけるとレッツェが軽く手を上げて挨拶してくる。
「おはよう、ジーン」
「おはよう、アッシュ」
アッシュと挨拶を交わす隣、執事が軽く会釈を送ってくる。
家の中に入ってさっそく【転移】。
「今日はよろしく。休憩スペースも用意したんで、疲れたら休んで」
「うむ」
「ありがとよ、やりすぎだがな」
素直に受け入れてくれるアッシュと、ジト目のレッツェ。
執事は笑顔を浮かべている!
カヌムに向かう前にここに来て準備した。タープを張って、折りたたみの椅子、テーブル、クッションを用意して、テーブルの上にはウォーターサーバーとグラス。
何もないけど景色はいいから、くつろいでもらえるかなと思ったんだけど。
「ガラス?」
ウォーターサーバーはガラス製でスタンドに載せてある。これかな?
「ガラスに蛇口、レモン!」
短くレッツェ。
とても教育的指導。
「透明度の高いガラス、木製の樽に蛇口は見たことがございますが、ガラスに蛇口がついているのは初めて拝見しました」
「うむ。水に浮くレモンとミントは爽やかであるが、中原にも島にもあるまい」
蛇口はあるよね? って思ったら、執事とアッシュから追撃が。うん、ガラスと蛇口――錫製――はくっつけるの大変でした。シリコンゴムみたいな素材を探すところからだったんですよね。
ジャングルでゴムの木は見つけたけど、結局魔物素材です。
「魔物素材、便利だよね……」
視線を逸らす俺。
精霊に頼めばガラスも錫も漏れなくくっつけてくれるんだけど、それだと俺が離れると精霊が飽きたところで外れてしまう。
外れないくらい魔力送ってくっつけてもらうと、今度はやりすぎというか、絶対確実にやらかした物体になることは想像がついたんで。
これでも気を使ったんですよ!
「どこで調達してきたかは聞かないが、外に置くんじゃない、外に!」
レッツェに叱られる。
見渡す限りのゆるい丘陵、草原、はるか遠くを走る馬。そうでした、ここ、人はほぼ登ってこないと思うけど、その辺の人も来る可能性あったんでした。
なんか俺の山の中の家とか魔の森の聖域的な気分でいた。ここは以前住んでいた男が色々仕掛けはしてるけど、乗り越えられないほどじゃない。だって、仕掛けをした男自体、麓と行き来できる感じだし。結界とかじゃないんだよね。
道が分かりづらくなってるのも、惑いの精霊が好きそうな環境を作ってるだけじゃなくって、物理的な仕掛けによることが大きい。
「ごめん、 迂闊 ( うかつ ) でした」
やらかしました。
「もしそこそこ手に入りやすく、加工がしやすいのでしたら、精霊島のソレイユ女史に相談して見ては?」
「まあ、出回っちまえばそう目立たないからな。出元にされるほうは大変だろうが」
ため息混じりのレッツェ。
「そっちは大丈夫、商売になるなら全力で乗ってくるから」
それは疑いません。
危ないってなったら、ナルアディードの商業ギルドと海運ギルドも巻き込めるし。すごく忙しいはずなのに、マメであちこちにパイプ作ってるんだよね、ソレイユ。
……腰痛軽減の魔石のカービング、ちょっとつくっとこうか。精霊島の宿泊優遇だけじゃマンネリになるだろうし。
まあでも、両ギルドにも益になるような巻き込み方するだろうし、大丈夫かな。
「まとまったところで、本来の目的を果たそう」
上着を脱ぐアッシュに執事が作業用の革手袋を渡す。
「よろしくお願いします」
改修開始です。