LNCrawler

第700話 火熾し

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第700話 火熾し

「レッツェ殿が慌てたところは、とんと記憶がございませんが」

執事。

まったくです。

「毎度内心大慌てだ」

「えー」

いつも沈着冷静に見える。

「私の印象では飄々として、それでいて安定しているように感じる」

アッシュ。

「同感!」

「そう見えるように努めちゃいるがな。――ほれ、次はどれだ?」

肩をすくめ、次を催促するレッツェ。

「これをお願い」

うーん。レッツェみたいになるには、色々動じないよう準備や学習していろんな予測しとけってことかな?

「おー! 屋根はできた!」

「いや、まだだろ?」

「骨組みだけであるな」

手伝ってくれた2人からツッコミを入れられる。

「いや、ここまでできたらあとは瓦をはるだけだから。地味にくりかえさなきゃな作業だけど、一人でもできるし。きりもいいしお昼にしよう。午後は床張りお願い!」

というわけで、昼です。

石積みはテーブル共々用意してある、薪もOK。燃えやすい枯れ草の準備よし!

「じゃーん!」

昨日の晩、せっせと工作したものを出す。

「なんだ?」

「魔法道具だろうか?」

首を傾げる2人。

執事は黙って控えてるけど、視線は俺の出した道具。

筒状で、構造は竹製の水鉄砲によく似ている。

ただし穴はない。

「こうだ!」

筒にピッタリ差し込まれた棒を途中まで引き抜き、今度は一気に押し込める。

あれです、ファイヤーピストン。空気を圧縮して火種を作ることができるアイテムだ。

空気は圧縮すると、それを押し返そうとする圧力が強まる。同時に温度も急激に上昇するんで、それで火種に火をつける原理。

筒と棒の隙間は蛇口つけた素材で塞いでます。糸を巻いて油を浸してもいけそうだったけど、ちょうどいい素材が手に入ったんで。

「まっすぐ棒を落とすのがコツです」

そう言いながら棒を引き抜いて、先につけていた燻る火口を取り出す。

「これこのとおり」

枯れ草の中心に落として、息を吹きかけると黙々と煙が上がり、赤い火の粉が見え始める。

「なんだこれ?」

レッツェが興味津々で覗き込んでくる。

「空気に圧力かけて、温度上げる道具」

「魔道具ですかな?」

執事も興味がある様子。

「不思議なものだな」

アッシュも俺の持ってるファイヤピストンに視線が釘付け。

「やってみる? 魔道具ではないし、魔力もいらないよ」

チャークロス――炭化させた布が入った缶をアッシュに渡す。

チャークロスは俺が棒の先っぽにつけた火種にする燃えやすいやつね。

結果。

たくさん火種を作りました。

ファイヤピストンはレッツェのものになりました。

「助かる。火を確保する方法は幾通りか持っておきてぇ」

「アッシュと執事にも作って渡すから」

「ありがとうございます」

「礼を言う」

いつもお茶をいれてくれるのは執事だけど、盛り上がってる横で今回は俺が入れました。

「さて、今度こそ飯!」

サラダがわりにアスパラガスにマヨネーズ。

スープは豆を中心に細かく切った人参やセロリ、玉ねぎを煮たもの。何種類かのハーブが入ってる少し変わった味のスープ。

いい色に焼けたラムチョップ。

パンと葡萄ジュース。

「これは黒葡萄のジュース、この後も作業があるからワインは控えた。高いとこの作業は終わったから、飲みたいならお酒も出すけど」

床張りなんで怪我をしても、大事にはならないと思う。

地下室もあるんで部分的に高さあるけど、いざとなったら俺がすぐ治せるし。

「いい景色だし飲みたい気もするが、作業中はやめとこう」

レッツェがそう言ってジュースのグラスを軽く上げて見せて、口をつける。

「いただこう」

「いただきます」

アッシュと執事もジュースでいいようだ。

「お、スミリアン豆か。よく手に入ったな」

「珍しいのかね?」

レッツェを真似て、掬ったスープに目を落とすアッシュ。

「このスープ、白インゲンで作られることが多いが、一番はこのスミリアン豆でつくるのがいいって聞く。山岳地帯の小さな村でしか作ってねぇ豆だ」

レッツェが言う。

カヌムから結構離れた国の郷土料理なんだけど、よく知ってるな。

「スープ自体も珍しい味ですな」

執事が味と匂いを確かめながらスープを飲む。

野菜と豆が多いんで、食べるって表現の方が合うかな?

「カヌムじゃあんまり見ないハーブ使ってるから」

見た目はよくある野菜スープっぽいんだけど、何種類か使ったハーブのうち、このスープに必ず使うハーブはスミリアン豆と同じくカヌムでは採れない。

「匂いとか苦手だったら違うスープにするよ」

そんなに主張してるわけじゃないんだけど、ハーブ系は食べ慣れないと突出して味や匂いを感じるよね。

「いえ、変わってはいますが美味しいです」

「うむ。珍しいのは確かだが、美味しい」

よかった、レッツェはどこか懐かしい味との再会風で安心したけど、アッシュと執事も大丈夫のようだ。

ハーブ系は好き嫌い出るからね。

少し心配だったんで、スープ以外はみんながよく食べるものを選んだんだけど。

「スープもラムも美味しいが、私はジーンの焼くパンも好きだ」

アッシュが真顔で褒めてくる。

「それは嬉しい、ありがとう」

ちょっと照れる。