第702話 多忙の理由
第702話 多忙の理由
翌日からは、また一人で屋根瓦を貼る。
昨日と違って静かだ――っていうところだけど、風の精霊をはじめに、興味津々で集まってくる精霊が増えててですね?
見ないよう聞かないようにもできるけど、手伝ってくれようとする精霊たちを無碍にするのもなあ。
一人で黙々とやるより早くて楽で、寂しくない。そんな下心もあって、つい姿を見て、声を聞いてしまう。
屋根を張り終え、貯水庫をはじめ必要な設備を入れてとやてったらだいぶ日が経ってた。
【収納】も使わず、精霊の力も借りずだったらきっと年単位でかかてったろうと思う。あと、腕力と体力もね!
まだこれから井戸の水を汲み上げる魔法陣を描く仕事が残ってるけど。
手押しポンプもつけようかな? 浅井戸用ポンプって大気圧による吸い上げだから、10メートル、効率と実用を考えたら8メートル、だったっけ?
8メートル超えの深井戸用のポンプもあるの知ってるけど、構造について調べたり、読んだりしたことがないんで、作れない。
さすがにもらった能力の限界を超えてる。
なのでもし深井戸なら5メートルくらいまで、魔法陣で水を引き上げてポンプ設置かな。でもそこまで魔法陣で持ち上げなきゃならないんなら、ポンプがただの趣味になってしまう。
さて、この辺りの地下水源はどの辺の深さだろう?
……。
地面に手をつけて、大地の精霊たちの状態を見る。
なるほど、地下の岩盤の上に溜まってる水と、その下に流れる水がある? うん。とりあえず浅い方の水でよさそう。水質も悪くない。
ここでの井戸掘りは精霊にお願一択なので、さっさとお願いする。
外と台所の2箇所。
水が噴き出る前に、念のため汲み上げるための魔法陣も結局描いた。あれ、これ水流しっぱなしにして、貯水庫に入れたら濾過設備とかいらない?
……。
大丈夫です、魔法陣が使えなくなった時を考えてのことです。水の確保方法はいくつあってもいいと思います。
そんなこともあるよね! いっそ手押しポンプもつけとこうか。うん、そうしよう。
深井戸用はわからないけど、浅井戸用ならわかる。
加工は精霊鉄でバッチリです。
――叱られるから、台所の井戸だけにしとこう。いや、でもこここそ流しっぱなしにしたいな?
外の井戸にポンプつけて、 草原 ( した ) から見えないようちょっとした壁と屋根つけようか。四方を囲むまでいかなくてもいいし、壁も俺の肩くらいにして、屋根は柱で支えればいいか。
あんまりガチガチにしちゃうと、ポンプの意味がないし。
なお、風景的な意味でです。
大体できたんで、保存食やら魔石やら備蓄を運び込み、一旦終了。あとは時々ここで過ごしてみて、不便なところを改良していくつもり。
よし、ハウロンにいつ見にくるか聞こう、名前借りてるからね!
「そういうわけで、建物は完成した。いつ見にくる?」
思い立ったが吉日、砂漠のハウロンの執務室に来ている。
仕事の邪魔?
もう夜ですよ!
「見に行きたいのは山々だけれど、今ちょっと無理だわ」
こめかみをぐりぐりしながらハウロン。
執務室にはハウロンと、補佐の人2人で3人きり。
「働きすぎじゃない? 仕事を人に振れないのって勤め人の上に向いてないと思います」
その点俺はソレイユに丸投げです。
まあ、一緒にクリスの実家にお邪魔したばっかりなんで、休めないわけじゃないんだろうけど、決裁溜まってるとかかな?
「アナタも知ってるでしょ、普通の国の成り立ちじゃないって。少しずつ国も人も育つところ、町と産業はすでにあるっていうね。優秀な人材も引き抜いてきたし、火の民の末裔からも採っているけれど、次の人材がまだってところね。そう簡単に移住してきた人たちが馴染めるってわけじゃないでしょ」
軽いため息を吐くハウロン。
ハウロンははっきり言わないけど、馴染めないって、もしかして住人同士ギスギスしてるのかな?
砂漠に散らばっていた人と中原の山の中を彷徨っていた人じゃ、だいぶ生活様式も考え方も違うから、そりゃあすり合わせに時間がかかる。
なるほど、優秀な人材はいるけど、全ての住人が納得する発言者とか立案者がハウロンとカーンしかいないんだな、さては。
仕事うっかりガンガンとってきちゃっただけとかじゃなかったんだ?
中原の山の中を彷徨っていた人たちは、カーンの時代の火の民の末裔として、割と血が濃い。一方人数が多くて、ずっと砂漠というかエスに住んでいた人たちは、砂漠の生活には慣れてるけど、火の民の末裔としては混血が進んで血が薄い。
中原の小国から連れてきた優秀な人材は、一番人数が少なくって、砂漠の生活にも馴染んでない。
あんまり中原の人たちを重用してると反発起こりそうだよね、火の民からも採って満遍なく――仕事振るのすごく大変そうだ。
文化圏が違う人たちが集まってるんだし、すぐには無理だよね。
『青の精霊島』も移住者募集したけど、ほぼ内海周辺からだし、基本領主(おれ)が法律つくって、仕事と役割を先に決めてそれができる人から採用した。問題起こした場合は退去だし、何より人数が少ない。
ソレイユに丸投げだしね!
「なんというか、仕事と豊かさと居心地の良さがあれば、争いは少ないと思うけど」
そういった人間同士の問題は不得意です。
「融和は進んでいるのよ? もう少し時間が必要なだけ。様子を見て、登用基準とか作る予定よ。季節が一巡しないことには、何が必要かはっきりしないのよね。思いもかけない問題が持ち上がったりするのよね」
頬に片手を当てて、ため息をつくハウロン。
「ガンバッテ」
退散します!