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第706話 北の民の家

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第706話 北の民の家

「おお、やはり。氷や雪の魔法は使えるか? 冷やす魔法だ」

俺が答えると、男が確認してくる。

何がやはりなのか。

まあ、服装だろう。北の民の格好は、半裸に毛皮タイプ、革に刺繍と鋲のついたチェニックっぽい上着に、足元はゲートル巻いたみたいなタイプ――マントを着けてる人はいるけど、俺みたいに普通に厚着してローブ羽織ってるのはいない。

この格好が目立つのはわかってるけど、寒いのは嫌だし。

――服装だよね? ムキムキじゃないからとかじゃないよね?

「ああ。使える」

大体何でも使えるというか、ハウロンには魔法じゃないって言われてるから、正確には使えない?

でも同じ事象は起こせるんで、答えは「使える」でいいよね?

「よし。俺は銀狐のバインズ、すまんが一緒に黒山の大洞に行ってくれ」

頭を下げてくる銀狐のバインズと名乗った男。

地の民の名乗りは地名プラス名前だったけど、北の民の名乗りは動物プラス名前なのか?

「いいけど、いきなり生贄になれとか、人を殺せとかは断るぞ。誰かと対立するようなことは応相談」

この3つは釘刺しとかないとね。

迂闊にオッケーして言質取られると面倒だし。言質取る方法が精霊絡みだったりすると、大変面倒なことになるってハウロンに教えられた俺です。

今は誓文――予め、精霊による拘束や、誓いを破った場合の罰的なものを込めた文書を使うけど、強い精霊の守護がある人や土地での約束は誓文と同じ効果があるって。

精霊の存在がもっと身近だったときの形だね。

ちなみに誓文と契約の違いは、誓約書と契約書の違いみたいなもの。誓文は一方的――書いた人間にだけ影響があるけど、契約はお互いのこと。

契約は書く内容によっては一方的にもできるけど、大抵商業ギルドとか冒険者ギルドが出してるテンプレ使用。

で、拘束力やペナルティなどは軽くしたり重くしたり指定できるけど、紙や羊皮紙に魔法陣が入ってて、描いた人の魔力や精霊との相性による。

ぶっちゃけ俺は、大抵の誓文や契約を破って何ともないんじゃないかなって。

「黒山……」

「おい、あの男、黒山に行くのを承諾したぞ?」

「命知らずな」

「黒山行きの時点で、生贄みたいなもんだろ」

「『銀狐のバインズ』と言や、広間の戦士の中でも凄腕だろ?」

「いや、『銀狐のバインズ』だって、黒山に行って帰ってくるのは難しいだろ。大洞なら尚更だ」

周囲でスープを飲んでた人たちがざわついてる。

そうでした、黒山ちゃんのところはそういう土地でした。反応しなきゃいけないのはそっちでした。

慎重に回答したつもりで間違えたよ!

「……我が兄『鉄槌のボインジ』も同行し、身の安全については最大限の努力をすると誓おう」

周囲の言葉が耳に入ったのか、そう言って自分の胸を拳でたたく銀狐のバインズ。

「『銀狐のバインズ』だけでなく、『鉄槌のボインジ』までだと?」

「一体何があるんだ?」

「今更黒山の財宝を目指すって男じゃないだろ!?」

「広間に何かあったのか?」

さっきから『広間』って何だ?

城みたいなもんかな?

「内容を聞かないことにはなんとも……」

3つのお断り事項の返事を聞いてません!

いや、今からでも危険な土地に行く心配してみせたほうがいいのか? どっち!

「黒山と聞いて、頭から断らずにいてくれること、感謝する」

胸に拳を当てたまま、軽く頭を下げてくる『銀狐のバインズ』。

「落ち着けるところで詳しい話を語ろう」

――ということになった。

あれ、おかしいな露天風呂にまだ入ってない。

『銀狐のバインズ』に連れられたのは、交易の市(いち)から離れた家。

徒歩圏でもなく、馬で移動……でもなく、小舟で移動。底の平たい、細長い船。運転は荒っぽかったけど、ぐんぐん進んだ。

海にいる精霊たちが寄ってきてるんだけど、船にある模様のせいかな?

大きな船の潜入が無理っぽい浅い入江の先、芝生のように一面を短い草が覆っている。そこに白い丸太を連ねた柵が見えた。

ペンキで塗られたわけじゃない、白樺かな? 柵の中に家があるんだけど、三角の屋根が丘と一体になってるのだけ見えてる、屋根が大地と同じ草で覆われてるんですよ。

「この辺りの家はこんな感じなんだな」

柵の中に入ると緩やかな斜面に家があって、なんだろう? 屋根と入り口以外は土の中っぽい? 斜面なんで入り口のある正面は外に面してるんだけど、大部分が土の中だ。

壁は下がちょっと石積みで、上は屋根と同じく草に覆われてる。

「我らの土地は寒く、生える木々も少なき上に頼りない。だが、大地を剥がし積んだ壁は温かく、我らを守る。雨で土が腐らぬよう、石で底上げする必要はあるが」

俺がよそ者だってことは見た目でわかっているのだろう、丁寧に説明してくれる。

この辺りは、表面を覆う薄い草ごと四角く切り出し、その土を積み上げて家を作ってるらしい。

ちょっと離れると石の大地みたいな状態なところがほとんどなんで、運ぶのは手間だろうけど石も手に入る。

柵の中で模擬戦っぽいことやってる数人。

「『銀狐のバインズ』、我が弟よ!」

その中から一人はずれ、俺たちの方に歩いてきた。

弟って言ってるからこの人が『鉄槌のボインジ』かな、他に兄弟がいなければだけど。