第707話 ところ変われば
第707話 ところ変われば
「『鉄槌のボインジ』、我が兄よ!」
抱擁して背中を叩き合う二人。
『鉄槌のボインジ』で確定でした。
「こんにちは」
認識されるよう声をかける。
認識してる人に紹介されると、俺がいることは把握できるみたいなんだけど、すぐに忘れられるんですよね。顔も覚えられないし。
「もしやこちらは『杖を運ぶ者』か?」
『鉄槌のボインジ』が俺に視線を移して言う。
北の民は基本、外の者に愛想が良くなくって閉鎖的だ。『鉄槌のボインジ』『銀狐のバインズ』の所属する民は特に。
彼らの集落に案内もなしに訪れたら、狩の対象にされかねない――って聞く。
まあ、それに輪をかけて閉鎖的なのが地の民なんだけどね!
「ああ、ジーン殿。説明は黒山の大洞が目的地だとだけ、承諾は得ていないが断られてもいない。市では落ち着いて話ができんので連れてきたところだ」
『銀狐のバインズ』が簡潔に状況を説明する。
「おお、俺は『鉄槌のボインジ』。ジーン殿、歓迎する!」
『鉄槌のボインジ』がその場で大きく片方の足をダンっとして、胸に拳を置き言う。
そういう挨拶の文化?
「よろしく。その挨拶格好いいけど、俺もやったほうがいい?」
首を傾げて聞く。
「これは歓迎と敬意の表れだ、普段からしているわけではない。中は暖かい、入るがいい」
浮き彫りがほどこされた扉を開けて、『銀狐のバインズ』に家に入れと促される。
手を止めてこちらを見ている十五、六人ほど。老人から子供まで剣を持っている。
集落にしては柵の中の建物っぽいの一軒しかないし、今見えてる人数も多くない。でも、家族にしては大家族だ。
他は何だろうとよそ者を訝しむ感じだけど、ティナと同じくらいのおさげの女の子が、数歩集団から進み出て心配そうにこっちを見ているのが印象的。
視線を感じつつも家に入る。
みんな剣持ってるし、それまで格闘してたっぽいし。【転移】で逃げられるし、いざとなったら制圧できるだけの力があるから平気だけど、圧がすごかったよ、圧が。
挨拶の声は聞こえたろうけれど、直接話してはいないから、『誰か』としか認識されてないだろうし、すぐ忘れられるだろうけど、これだけ注目されるのは結構珍しい。
『よそ者』に対して警戒心マックスだなあ、これがカヌムの酒場とかだったら『いる』という認識さえ怪しいところ。
中に入るとまた扉。
扉と扉の間は2メートルほど。土壁は俺が思っていたより随分厚いようだ。扉の左右が木の壁だったんで油断してた。
土を積み上げた表面に木の壁つけてたんだ? 飾りの壁?
中は部屋の中央付近に炉、部屋は長方形に広く、柱がない。壁で支えてる作りだ。柱がないので思ったより広く感じる。
左右の壁沿いは一段高くなっていて――いや、石積みで枠が作られてて中に干し草っぽいものが詰められてる。たぶん寝床? 布団っぽいものもいくつかあるんでここで寝てるのかな? 炉がある暖かな部屋は有効活用しないとね。
いろんな道具もあるんで、寝床と作業場が一緒の部屋に詰められてるのかな? 土が剥き出しの床もあって、そこは鍛冶場っぽい。詰め込みすぎな気がするけど、外に出られない季節があるんじゃしょうがないのか?
そして家畜の臭いと気配がするんで、家畜部屋も家の中にあるね!
曲がり屋だっけ? 日本にも厩が家の中にある家あったし、むしろあるほうが一般的なんだろう。
カヌムは魔物肉が出回ってるし、冒険者の町なんでそんなにないけど、一階で鶏や山羊を飼ってる家あるし。
「本当に暖かいな」
「ここの土はよく熱を留めて冷めにくい。炉の火、人間と家畜の熱で凍えずに冬を越せる」
俺が家の構造に興味を持っているのを感じてか、『銀狐のバインズ』が丁寧に説明してくれる。
炉の周りだけ石の床になってて、魔物の毛皮が敷かれてる。周囲は、腰あたりまでは石積みの壁、その上は扉と同じく何か植物の浮き彫りの施された木のパネルが並ぶ。
天井は立派な梁の三角屋根で、炉の真上にあたるところに正方形の板があって、綱がぶら下がっている。
「我らにとって、木は価値ある宝。この家はこのように立派だが、並の家は土が剥き出しになっている」
「おう、見てくれこの床、この壁の一枚板! この太く丸い腰掛けを! 素晴らしかろう!」
『銀狐のバインズ』の言葉を証明するかのように、『鉄槌のボインジ』が腕を広げて周囲を指す。
見るべきは魔物の毛皮じゃなくて床か!
ところ変わればでここでは木材がお宝! 俺、【収納】に土偶ちゃんと黒山ちゃんからもらった材木たくさんあるよ!
そういえば地の民の宝も材木だね、特殊な湖の中の巨大樹だけど。