第709話 さすが大賢者
第709話 さすが大賢者
「ジーン殿、紹介しよう。これが妹のチンチ……」
「お嬢さん、初めまして」
被せるように言う俺、2度目は言わせないぞ。
妹さんはちゃんと服を着てます。『銀狐のバインズ』たちは半裸に肩に毛皮ファッション、寒さに強い種族なのかと思ってたけど、そんなことなかったっぽい。
いや、半裸と比べての話なんで、十分薄着な気もする。ズボンにスカートに見えなくもない裾が長い上着、長めの腕には布を巻いている。
素材は革かな? 革に刺繍がしてある。ああ、この刺繍、体温が服の中にとどまるよう精霊にお願いしてるね。なるほど。
って、半裸2人! ズボンだけでいいのか!!
「初めまして」
「さっきのお話はこちらのお嬢さん?」
流れるように話題を変える、というか戻す。
『呪い』という言葉は口にしていいものだろうか? 本人には内緒とかある?
あと俺、やっぱり格好的に魔法使い寄り?
『視る』と、契約で縛られている者がまとう、リボンのようなものが妹さんの体にある。
契約なんかで縛られている場合は、体からちょっと離れたところに輪っか状に浮かんでるんだけど、呪いのリボンは体に張り付いている。
特に喉には張り付いていると言うより、潜り込んでリボンが見えなくなっている。
呪いの元は精霊半分、黒精霊半分かな?
精霊の方は熱の精霊。
妹さんの体温と、この部屋の熱で呪いを強くしている? この寒いところで暖をとるため熱源に近づくと強まる、それも嫌な感じだけど、自身だけじゃなく家族の体温でも呪いが強まりそう。タチが悪い。
いや、でもリボンの黒精霊と精霊の影響の間から『こまかいの』が漏れてる? 時間をかけて呪いが弱まってるのかな?
魔法陣 ( リボン ) で指定されている精霊は呪いの発動に魔力を貸す、もしくは奪われる。でも黒精霊は呪いそのものに組み入れられて、過去に最初に呪いが発動した時点でもう自由を奪われている。
奪われていると言うか、今回は自ら進んで呪いの一部になった感じかな?
精霊と、呪いをかけた人間と。
どっちにも恨まれてるって、この家の先祖は何をしたのか。
「ああ。我が最愛の妹チンチンは我らと同じ呪いを持って生まれた。祖先の呪いは生まれてから肺腑を絞られるような肉体への負荷と、成人と共に死に至るもの」
リボンから呪いの内容を読みとる前に『銀狐のバインズ』が答える。
おのれ、『銀狐のバインズ』! 人が防いだ単語を簡単に口にして!
心の中で耳栓して対応だ。いや、文化も言葉も違うんだから、俺の反応のほうがおかしいし、失礼なんだけどさ。
『バインバイン♪』
『ボイン、ボイン♪』
『チンチン♪』
失礼なんだけど、さっきから精霊たちが面白がって囃し立てるんですよ。それを聞く俺の身にもなってください。
せめてバイン、ボイン、チンで重ねないでほしいです。
それはともかく『銀狐のバインズ』が言う肉体の負荷って? 妹さんは見たところ元気そうだけどな。
「肺腑を捻る呪いは、過去『偉大なる大賢者ハウロン』によって除かれ、呪いを持って生まれる子供も減り、呪いを解く方策も授けられた」
話しながら胸に片手を置き、感謝の印なのか頭を下げる『銀狐のバインズ』。
ハウロン、ハウロン来た! さすが大賢者、大賢者だった!
「この人が『杖を運ぶ者』さん?」
「2人の望む魔法は使えると思うよ」
不安そうに見上げてくる妹さんに答える。
よく見ると喉にぐるっと不穏な感じのロープの跡のようなあざ。
『バインバイン♪』
『ボイン、ボイン♪』
『チンチン♪』
精霊たち、ちょっと自重しようか?
「あのね、氷だけじゃなくって、お兄ちゃんたちにも魔法をかけてほしいの。お父さんとお母さんは今でも火傷の跡が残ってるから」
「チンチン、下がれ。『怒り狂う炉』は危険な地。身を焼く暑さに加え、地下に他の種族が入ることを厭う『地の民』。その『地の民』の聖地ともいうべき『怒り狂う炉』に足を踏み入れるのだ、『杖を運ぶ者』殿には自身の身の安全と氷を優先してもらわねばならない」
『銀狐のバインズ』の言葉に、唇を噛み締めて一歩下がる妹さん。それでも強い目で俺を見ている。
ん?
ん? ん?
『炉』『ドラゴン』『地の民』……。
『怒り狂う炉』ってあの鍛冶場か! 完全に火山とか溶岩とかの喩えだと思ってたよ! そのまんまあのドラゴン型の炉のことか!
無茶苦茶行ったことあるよ!!!!
わんわんハウスオーダーだよ!!!!