第711話 予想外の名
第711話 予想外の名
「大賢者ハウロンが魔法陣を刻んだ石板は炉の下か」
「なぜそれを……」
『銀狐のバインズ』が驚いたような声をあげ、『鉄槌のボインジ』も目を見張っている。
だって精霊がばいんばいんぼいんぼいん言う度にうっすら光ってるんだもん!
家の中心になる炉に魔法陣を据えることで、暖を取ったり家族との語らいの時に一番効果を発揮するようになってる。
『バインバイン♪』
『ボイン、ボイン♪』
『チンチン♪』
俺とは名付けのセンスが決定的に合わないけど、さすがハウロン大賢者!
よかった、精霊たちに黙ってほしいとか言わなくて。俺を気にせず、思いっきりばいんぼいん言いなさい。
『バインバイン♪』
『ボイン、ボイン♪』
『チンチン♪』
うん、俺は聞かないフリしとく!
さて、何を言うべきか?
呪いに使われてる黒精霊の思いは、自分を術で縛った相手より、妹さんの方に向かってた。
なんで呪われることになったのか知らないけど、『銀狐のバインズ』と『鉄槌のボインジ』の先祖が精霊に対して何かやらかしてるのは確実。
呪いのリボンをバリッととっちゃうこともできるけど、それじゃ呪いに使われている黒精霊が報われないというか、フェアじゃないというか。
顔を合わせたこともないような先祖のやらかしの責任が、子孫に来てるのも違う気がするけど、この黒精霊的には連続してるし。
日本人はせいぜい生きている世代の因果、家族単位の時間で考えることが多いと思う。でも、連綿と続く血筋単位の時間で考える人もいる。
良い悪いじゃなくって、何に重きを置いてるかが違う。
仲良くなりたいのに、お互い絶対会うことのない過去の人のために、そうできないっていうのは理不尽な気がしちゃうけど。
人間だって時間感覚色々あるんだから精霊だって色々、朝に生まれて夕べに消えてゆくモノや、原初からいるモノがいる精霊の方がもっと色々だ。
というか、バリッとやるには呪いが癒着しすぎてる。血に潜む呪いって厄介っぽいな。ちょっと『精霊図書館』で調べようか。
ハウロンに聞く方が早そうだけど、忙しそうだし基本的な知識をつけてからにしよう。
「大賢者ハウロンは俺の師だ」
迷った末に、俺が魔法を使ったり何かやらかした時のための「ハウロンの弟子です、大賢者すごいでしょう?」を発動すにとどめる。
試練だと思われる『怒り狂う炉』の安全については口にしない。
それに、俺が思ってる『地の民』の炉とはまた別に、マグマの流れる地下があるかもしれないもんね。
「おお」
「大賢者の……!」
「俺の望みは普段見ることのできないこの地のことを知ること、見ること」
ここまで態度に引っ掛かるところはなかったし、ハウロンが手助けしてるなら、きっと悪い人たちではないはず。
あれ、ハウロンが助けたのって先祖のうちの誰かか。ご長寿さんがいると時間認識時々難しいな。
「ここでの生活は全部見せ、そして話そう。この地に住まう他の家族の安全にかかることでなければだが、知りたい事は何でも」
「何でも聞くがいい」
『銀狐のバインズ』と『鉄槌のボインジ』が言う。
「ありがとう。じゃあ遠慮なく、答えられないことはパスしてくれてもちろん構わない、こっちのことに詳しくないからもしかしたらタブーなことも口にするかもしれないけど、怒らずにそれはダメと注意してくれると嬉しい」
「承知」
『銀狐のバインズ』が答え、隣で『鉄槌のボインジ』も大きく頷く。
「まず、市で会った時、周りが『広間の戦士』って何のこと?」
「我らの信仰する神が住まうという城があり、その城の広間には強い戦士が集められ住まうという。それに例えて、名のある戦士は『広間の戦士』と呼ばれるのだ。我らは普段、散らばって家族単位で生活しているが、同胞たちに何かあれば集まり、その集まる場所を『広間』と呼ぶ」
「今いるこの場所のことでもある。『広間』には中原で言うところの国や城、政治の中枢というような意味がある。規模は小さいがな」
『銀狐のバインズ』の説明に補足を入れながら、薪を炉に足す『鉄槌のボインジ』。
「なるほど。ここで信仰されている神ってどんな存在?」
「戦神だ。偉大なる神、火と力と破壊の神ヴァン」
誇らしげに告げる『銀狐のバインズ』。
「……」
どう言う反応すればいいんだこれ。
最近他から聞いたヴァンの話は、かりんとう饅頭ちゃんの『とびきり溶けやすい火山といちゃついてる』というパワーワードだったんだけど。
なんとなく北欧神話の雷神ソー系を想像してたわけですよ、ほら、3種族いるとはいえ、バイキングっぽいし。
ヴァン、自分の家の広間にムキムキ集めてるのか?
――あとでヴァンにも話を聞こう。