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第712話 鍋

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第712話 鍋

というわけで、お宅拝見。

気になってたんですけど、この部屋料理もするよね!

真ん中に石を積んでつくった箱型の炉。半分は肉を焼く用なのか焼き串が何本か渡され、もう半分に鍋を吊るす金属のアーチがかかっていて、鉄鍋がある。

燃料は泥炭とか草炭と呼ばれるもの。

不純物が多いんで炭素の含有率が低く、あんまり燃料として効率は良くないけど、そもそもこっちの燃料って主に薪だし、北の大地に薪にできるような木々が生い茂る場所はない。

簡単構造だけど、置いてある調理道具が多い。

「これは鍋だよね?」

黒い鉄製の茶釜みたいな深い鍋、中華鍋みたいな浅いやつ。フライパンもある。

「ああ」

「こっちは?」

木製のボウルみたいなやつ。生野菜を食う文化があるなら、ボウルで間違い無いんだけど。

「鍋だ」

「鍋……」

燃えない? 中身が入ってれば燃えないか。

「これは?」

重ねられた革でできた短い円筒形のものを手に取る。

「鍋だ」

「……」

鍋多く無い?

「木製の鍋はスープが焦げず、革の鍋は乳に鉄の味がつかない。石の鍋ではパンを焼く」

「なるほど、特性を活かして使い分けてるんだな」

へえ、へえ。

「俺から見たら、面白い道具がたくさんあるけど、どこで買うんだ?」

「自分や家族が作る」

自家製でした!

「よければ、新しいものを作って贈ろう」

『鉄槌のボインジ』が口を挟む。

基本話すのは『銀狐のバインズ』に任せている様子。

「お願いします」

色々珍しいものがあって楽しい。

「天井は高めなんだ」

上を見上げる俺。

「ああ、煙を溜め、空気に層を作って暖気を逃さない。かといって溜まりすぎるのも悪きモノが寄ってくるので芳しく無い」

「この綱を引くと天井の板が開く。煙を逃す」

『鉄槌のボインジ』が天井から下がった太い綱を引くと、三角形の天井の一番高いところを塞いでいた30センチ四方くらいの板が開いた。

煙突はないけど、排気口はあったみたいな。

炉の周りで 兄弟妹 ( きょうだい ) の名前を楽しそうに繰り返していた精霊たちが、今度は空気の流れに乗って天井まで行く遊びを始めた。

ばいんぼいん自主規制の歌が止まった!

「この場所では鍛冶をする。剣も鎧も、鍋もここで作られる」

やっぱり鍛冶場でした。

「鉄はどこで手に入れてるんだ?」

「冬に湖で集めてくる」

そういって床に置いてあった皮袋――布を織るより魔物の皮の方が簡単に手に入る環境――の口を開いて見せてくれる。

中にあったのは歪な平たい金属。

湖鉄っていうんだっけ? 湖底から湧き出る地下水に鉄分が含まれてて、寒い地域では湖の水で冷やされ、酸化鉄ができるんだけど、地下水が湧き出る時に回転して失敗したクッキーみたいな形になる。

鉱山で採掘するより随分簡単、北の民たちが戦闘で恐れられるのって、豊富な鉄の武器があったからなんだろうね。

「次の部屋は家長の寝室だ。今は我が父母が使っている」

「入っていいのか?」

「かまわない」

人の寝室に入るチャンスなんてないので遠慮なく。あ、貸家のワンルームは除きます、レッツェの部屋とかディーンの部屋には入ったことある。

特にディーンは酔い潰れたのをベッドに放り込むために、クリスやレッツェともどもお邪魔することが何度か。

「へえ、すごい彫刻」

中はさっきの広間より、木が多い。

飾り柱なのか、広間よりずっと狭い正方形の部屋なのに彫刻を施された柱が立ってる。壁も床も木、天井付近は広間(となり)からの暖かな空気を呼び込むためか、壁がない。

干し草の詰まったどこか船を思わせる頑丈そうなベッドフレームも彫刻がびっしり。

「暖かな船のゆりかご、『地の民』の作と伝わっている」

どこか誇らしげに『鉄槌のボインジ』。

船っぽいと言う印象は正しかったようだ、そして施されている彫刻は熱の精霊が好むものらしく、隣の広間から天井付近の空間を通って、暖かな熱の精霊、対流の精霊、火や熱の系統の『こまかいの』が寄ってきている。

寝室を出て、広間を通り、次の部屋。

藁が敷かれた家畜小屋?

「ここは馬たちの部屋だ、昼間は外にいる」

馬小屋(?)でした。

馬小屋にしてはなんか不思議。

「我らは馬を大切にする。昔はもっと人がいて、この部屋は畑や外で働く者たちの部屋だった」

「なるほど、どうりでなんか変な感じ」

広間からの暖かい空気を馬に、馬の体温を広間に、みたいな。

「広間よりは狭いけど、結構広いね」

人用にしてはだが。

「昔は今より温暖で、同胞も大勢いた。勇敢な戦士を家長とする家族に、戦えぬ者たちが保護を受ける形でここで暮らしていたと聞く」

ああ、風の時代の終わりはリシュががんばってた時でもある。リシュは氷と闇の精霊だ――気候に影響があるほどだったの?