第713話 人付き合いは苦手
第713話 人付き合いは苦手
で、次。
「こちらが以前馬小屋だった場所、今はご覧の通りの家畜小屋だ。こちらも今の時間は外だ」
鶏が数羽いるが、様子からしてももう少し大きい、多分牛とか羊とか豚とかいるんだろう。
ここは大きな扉付き、馬が出入りしやすいようにだね。
「奥は昔の家畜部屋だ、奴隷たちの部屋でもあった」
当然のことのように奴隷ってぶっ込んでくるんですけど、未だ慣れない俺です。
って、さっき精霊が言ってた呪った人って、攫われてきた奴隷の人?
こっちの世界、だいぶ減ったけど奴隷がいる世界。従業員の扱い、領民の扱い、奴隷はだいぶ減ったっていっても奴隷とどこが違うの? みたいな扱いをしていることの方が多い。
『他人』よりも『自分が』生きるために必要な、家畜を大事してる。一部の恵まれた地域を除いて、どうやっても食料が足りない世界なんですよ。
奪うのは足りないから。贅沢するために奪うんじゃなく、生きるために奪う。自分のために奪うのではなく、家族を生かすために奪う。
肯定はしたくないけど、ぬくぬく生きてる立場で口出ししづらい。
ここでこの世界を豊かにしよう! ってぐいぐい行くタイプだったら主人公なんだろうね。
俺はそんな世界の人々を背負うようなことはできないし、する気もない。
絶対人類全員同じメンタルで同じ方向いて足並み揃えて努力は無理! 多様性ですよ、多様性、お互い距離をとって、楽しいことが重なったら同じ方を向いて、たまに交流するくらいが希望です。
俺にできるのは、ちょっと気候が厳しいところでも採れて、保存できる野菜を広めるくらいかな。全員できる範囲で頑張って!
大事なことと許せないことが違うことを理解して、相容れない時は距離感大事を名目に、苦手なモノがある地域は訪れない方向です。
とりあえず食料問題が解決したら、半分くらいは平和に、寛容になるんじゃないかな。
「こっちの扉は土を積んで埋めてしまっている」
扉から外の冷気が入ってこないようにかな? 玄関みたいに二重でも、土を積んだ壁の方が暖かい。
家畜部屋に戻って馬用扉から外へ。
なお、この扉も二重だった。出たところには畑。
「畑ではキャベツとニンジンを育て、魚、セイウチ、鯨を主に食う。家畜はチーズやバターをもたらす」
こんな感じで色々案内してくれた。
でも他の人たちへの紹介はなし、個別主義というより、俺という外部の者をまだ信頼しておらず、接触させない方向かな?
鶏以外の家畜は毛が長くて小柄な牛、豚と見せかけて猪、羊でした。
三日後、会った場所で落ち合う約束をして解散、精霊にあれから聞けてない俺です。
暗くなっちゃったし、温泉は諦めよう。
決してちょっと怖くなっちゃったからじゃないです。
山の家にもどって、風呂にお湯をためる。この家は蛇口を撚ればすぐ水もお湯も出るところがいいところ。
一番素晴らしいのは水洗トイレだけど。
「どうした、ご主人?」
「たまにはエクス棒も風呂どうかと思って」
「オレは水がいいぞ、ご主人。一番好きなのは乾拭きだ!」
「乾拭きか」
「おう!」
「じゃあ風呂上がったら乾拭きするよ。待ってて」
「はいよー」
「リシュも蒸しタオルでお耳拭こうな」
バスルームの床にペタンと座って、オレを見上げてちょっと首を傾げるリシュ。
うちの子可愛いです。
「うー、そこそこ! いい感じいい感じ」
オレが風呂につかったら、エクス棒を齧り始めた。
リシュが散歩中の山で拾った、いい感じの枝は最終的に噛み砕いちゃうんだけど、エクス棒は流石の丈夫さ。
『地の民』からもらった綱と並んでいい感じ。エクス棒もリシュに噛まれるのは適度な刺激で好きらしいし。
エクス棒の明るく、少し騒がしい声を聴きながら風呂で足をのばす。
うん、自分の家は安心する。
人も精霊も、表面上同じように見えても、生活圏や生活基盤が違うと容認できる範囲にズレがでる。
その違いが恐ろしい。分かり合えないんじゃないかという不安もそうだけど、俺が築いてきた俺の中の常識とか、基本の部分が揺らぐことが。
自分で言うのもなんだけど、俺は冷たい人間。人間関係の基礎になる家族の関係が上手く築けなかったから――と言いたいけど、まあ、成人したら自己責任。
人の命に無関心というより、人そのものに無関心なんだと思う。
なので、俺と関係ないところで何してても見ないふりできるし、何をされていても関係がない。
結果を見ないならば、酷いこともできる。
スーパーでパックにされた肉を買うみたいなもの。屠殺されてることも知識として知っているけれど、それを想像することって普段はない。
でもこの世界って、突然その普段想像してない部分を突きつけてくる。【精神耐性】持ってるんで、頑張れてるんだと思うんだけど。
何が言いたいかと言うと、奴隷・攫ってくる・殺して奪う――人も怖いってこと。昼間、怖いと思ったのは精霊に対してだけじゃない。
『地の民』みたいに分かりやすい全てに優先する「大事なこと」があれば、他の考え方が違っても付き合いやすい。でも、『銀狐のバインズ』たちは分からない。
カヌムのみんなと会えたのは奇跡かもしれない。そもそもディノッソたちと交流を始めるまで、考え方が合わなくって随分彷徨ったし。
カヌムのみんなも別の顔を持っている可能性だってあるけど。
――だめだね、すぐに人嫌いを発動しそうになる。
カヌムのみんなが異質な俺を受け入れてくれたように、俺も俺にとっての異質な――俺に都合の悪いところもある人をちょっと理解してみたいと思う。
ぐだぐだ考えるのは、状況を考えると理解はできそうだけど納得はできない、したくないからなんだって自分でもわかってるんだけどね。
基本お気楽に生きてるけど、時々は真面目に考えるんですよ!
上手くできる自信はないけれど、とりあえず今回の約束を果たすところから。
待ち合わせまでの予定は『精霊図書館』、ある程度基礎知識をつけたところでハウロンに話を聞きに行く――ハウロンには一応アポ取っとこうか。
絶対いるだろうけど、いたからといって時間が取れるとは限らないし。予定を聞きに顔を出すとそのまま話し込んじゃいそうだから、精霊に伝言を頼んでおこう。